アニメ版「新巨人の星」「新巨人の星Ⅱ」解説
「新巨人の星」
1977年10月1日~1978年09月30日放送
全52話
「新巨人の星Ⅱ」
1979年04月14日~1979年09月29日放送
全23話
プロデューサー:佐野寿七 福尾元夫
演出・構成:今沢哲男
構成:今泉俊昭
演出:岡崎稔 永丘昭典 出埼哲 井内秀治 山吉康雄 川田武範
脚本:茅麻夫 金子裕 城山昇 出崎哲 荒木芳久
作画監督:香西隆男
美術監督:小林七郎
撮影監督:高橋宏固 新井隆文
録音監督:山崎あきら
音楽:渡辺岳夫
新巨人の星
新巨人の星Ⅱ
●アニメ版「新巨人の星」「新巨人の星Ⅱ」
アニメ版「新巨人の星」(以降パート1と記す)は原作漫画版の連載初期の段階で、テレビ放映決定の告知がされていた。つまり、原作漫画自体が、アニメ化の企画ありきで連載スタートしたことがわかる。 そして始まったパート1。
原作漫画版は川崎のぼる先生のタッチも登場人物の容姿も大幅に変化したので、なかなか前作とイメージが繋がらなかった読者もいたのではないかと思う。
アニメ版も当然大きな変化があったわけだが、注目すべきは劇中で前作BGMをそのまま使用していること。耳に馴染んだメロディの効果は大きく、早い段階で世界観に馴染めたのではないだろうか。そこに新曲が追加されたことで、新作のBGMも違和感なく聞くことが出来たのである。
実は筆者もアニメ版を見てようやく「あの巨人の星の続編なんだ」とイメージが繋がった。
パート1は第52話で終了。続けて「宇宙戦艦ヤマト2」が半年放送された後に「新巨人の星Ⅱ」(以降パート2と記す)として再開し、合計75話。約1年半の放送を終え完結している。
これは元々予定通りの放送であり、パート2の脚本も1からの仕切り直しではなく、パート1からの通し番号が記されている。(しかし一旦放送を終えた空白の期間に原作は複雑な事情により連載終了している。これは予想外の事だったのかもしれない)
以下各シリーズについて解説する。
「新巨人の星」
当初は原作漫画版に沿ってストーリーは進む。つまり大人を対象とした渋い物語となる。前述のように、「新巨人の星」は明らかに前作より対象年齢が上がっている内容。しかしアニメの視聴者層は前作と同じく子供である。かつての「巨人の星」のような物語を期待した視聴者の眼には、栄光を掴んだはずが今も「野球地獄の業」から抜け出せずにいる飛雄馬の姿がどう映っただろうか?
パート1は物語に大きな変更はなく、原作の世界観を壊さない範囲で追加エピソードが盛り込まれている。
右投げのベールを脱ぐのは第30話。右腕投手としてついにマウンドに立つのは34話。つまり全52話の内の2/3を使って巨人復帰までの苦闘が非常に丁寧に描かれた。本作の面白さはこの巨人復帰1年目に集約されていると思うが、当時の出版物等を見る限り、やはり視聴者(読者)は前作のようなライバルたちとの激闘に期待していたのではないか?
本作が物語の質とは関係なく地味な印象を持たれてしまう理由はここにあり、それが原作漫画、アニメとも現在に至るまで再評価の機会に中々恵まれない原因となっている可能性は高い。
作画レベルはこの時期の作品に共通している事だがやや不安定。担当班により作画の良し悪しの差が激しい。良い時は徹底的に良いのだが、全体的に見ると今一つの回も少なくはない。そんな印象である。前半の悲壮感は十分表現出来ていただけに惜しい。
また原作漫画では僅か一コマ、一言で終わっていた描写等を追加エピソードとして一話分の枠を使って製作し、物語を上手く補完している点は大いに評価に値する。脚本家が原作を熟知していなければ「余計なエピソード」となってしまう危険性もあり、その内容から十分本作を理解していたことが分かる。特に長島巨人がV1を達成する劇的なラストの第38話は原作漫画ではごく短い描写だったのが逆に意外に感じる程である。
原作未登場のキャラとしては41話から登場する捕手・楠木が印象に残る。彼がメインとなる話も作られており、地味なキャラだがもっと早い段階で登場させても良かったのではないか。(楠木はパート1のみの登場であり、パート2ではその役割は新キャラ・丸目が引き継ぐが、楠木はあくまで「理解者・協力者」という立場であり、「相棒」にはなり得ないのが惜しい)
また、原作漫画ではなかったビル・サンダー帰国の際の飛雄馬との別れのエピソードが追加されたのは好印象。
最終回間近となってようやく花形がヤクルトに復帰、ロメオ・南条が阪神に入団。当初は飛雄馬の巨人復帰に反対していた花形が徐々に球界復帰への衝動を抑えられなくなっていく姿は数話を跨がって丁寧に描かれ、これからライバルたちとの戦いが始まる!というところで一旦終了となり、約半年後に再開されるパート2へ物語は続く。
粗はあるものの全体的な脚本の質は高く、原作前半~中盤を細かく補完しながら映像化した良作であると言えるだろう。
「新巨人の星Ⅱ」
再開したパート2は1と違い新作BGMが多用された。曲調は前作までとは違い、(当事としての)現代的なものになる。あまりに渋すぎたストーリー展開だったためか、よりメイン視聴者層に配慮した形で日常描写を追加し、「巨人の星」のター坊的立場で飛雄馬を慕う女の子・幸子、共に戦うヤンチャな相棒・丸目が登場。 特に既に引退している伴に代わり飛雄馬とバッテリーを組む丸目の描写には製作側が力を入れていたことが分かる。
また日常の場面では今まであまり見られなかった飛雄馬の笑顔が見られ、これは野球以外の「人間・星飛雄馬」の側面も描くという意味で十分効果はあったと言えるだろう。
パート1は昭和52年ペナントレース開幕直後で終了したが、パート2の舞台は劇中では明言されていない。場所や日時を表記する描写は本作では見られず、後の展開を考えるに意図的に省いた感がある。原作漫画で描かれた52年以降の内容をベースとしつつ、その内容は大幅に変更、カットされた。この影響でロメオの出番が極端に減り、殆ど見せ場が無かったのは残念。逆に花形、左門の描写は原作漫画より増えている。
パート2開始時は既に原作漫画の連載は終了しており、しかも未完。このままアニメ化する事は難しいと判断したためか、原作者の意向があったのか明確ではないが、6話以降は原作をベースとしつつもオリジナル色の強い展開になり、賛否両論となった女優・鷹ノ羽圭子のエピソードは完全カット。代わりにラジオDJ・咲坂洋子との淡い恋物語に。(もし鷹ノ羽圭子のエピソードがアニメ化されていたら完全に子供を無視した展開となっていた可能性大。それでも見たかった気もするが変更は正解かと)
そして、物語の主軸は新魔球「大リーグボール右1号・蜃気楼ボール」の開発とライバル達との激闘となった。
その魔球は原作漫画とは全く異なるもので、テレビ向けの見栄えの良い迫力ある描写となり、変化の原理も明かされた。そして未完となっていた物語に決着をつけるべく、飛雄馬と花形の最終対決、ついに長島巨人を優勝に導く最終回とアニメ版「巨人の星」の世界を明確に完結させたのは、その内容に賛否あれど評価すべき点である。
シリーズ構成としては全23話という比較的短い話数の中で丸目の成長や新魔球の登場等、様々なエピソードが盛り込まれており、その全てを十分に描写出来たとは言い難い。蜃気楼ボールを前面に押し出し様々な強敵との対決を描きたかったのだと思うが、単発のゲストキャラとの対決や本筋に影響ない話の挿入で本来じっくり描くべき話が少々急ぎ足になったのは残念。ラスト3話は非常に盛り上がるが、やや唐突にクライマックスに突入した感がある。作画レベルはパート1より向上しただけにこの点は惜しいが、星飛雄馬最後の物語を再び栄光を掴む形で締め括った意義は非常に大きい。
全75話と長期シリーズとなった本作。原作漫画よりターゲット層を絞ったことが独自の魅力と面白さを生んだのは間違いない。
本作に興味をもった方はぜひご自身の目で見て判断して頂きたい。
第1話「新たなる栄光の星へ」
「もう一度・・・俺はもう一度挑戦する!!」
物語は長嶋茂雄選手の引退セレモニーの実写映像からスタート。ここは残念ながらDVDではカットされている。「我が巨人軍は永久に不滅です!」→サブタイトルの流れが非常に良いだけに残念。
昭和50年夏。球団史上初の最下位となり、敗戦を重ねる巨人と観客から罵倒される長島監督・・・・悲壮感漂う幕開けである。その試合を見ている謎のサングラスの男。
王のファウルボールを左手でキャッチしたその男は、球場職員にボールを投げ返すが、そのボールは届かない・・・彼の正体は?
ここが本作における飛雄馬初登場シーンであるが、曲の選択が素晴らしい。(個人的には新巨人の星を象徴する曲と思っている。)時間軸的には原作漫画版における初登場シーンより更に前になる。
長島監督の回想で、正力オーナーより戦力低下が著しい状況で優勝出来るのかと問われた際に、残酷な現実として「不可能でしょう・・・」と答えた上で、選手時代の名誉も面目も丸潰れになる事を気遣う言葉に対し「栄光の巨人軍、史上最低の最も格好悪い監督。そういう非難を私は・・・私は喜んで受けましょう」と覚悟の上で監督に就任するシーンがある。「長島~辞めちゃえよ~!」と容赦のない野次が飛ぶ中で「私のやり方は決して間違ってはいない・・・!」と独白する長島監督。そして飲み屋で焼酎を煽り巨人の惨状に涙する飛雄馬・・・ここまでの一連の流れが切ない。
原作漫画版とエピソードの入れ替えがあり、居酒屋の場面が先で謎の代打屋の登場は第2話。他はオリジナル展開となる。居酒屋内で酔って殺傷事件を起こそうとしたチンピラは飛雄馬の投げた灰皿で撃退されるが、執念深く追いかけてきて乱闘になる。かつて栄光を掴んだ黄金の左腕を凶器で殴られ、その場にうずくまる飛雄馬・・・。
ここから回想で前作最終回の左腕破壊のシーンが流れるのは胸が熱くなるものがある。本編Bパートはこの回想がメインとなり、曲も前作のものを使用。原作漫画版とは異なり絵柄に大幅な変化を感じない為か、ギャップが少なく上手く繋がっている印象である。但しアニメ版は今後担当班によって作画レベルの差はあれど独自の絵柄に変化していく。
完全試合と引き換えに栄光の左腕を破壊し、人知れず球界を去ったはずの彼は何を思うのか・・・。
そしてラスト、山奥で一人打撃特訓に励む飛雄馬は再び「巨人の星」を目指すことを誓う。よみがえれ飛雄馬!!
男だったら帰ってくるさ。巨人の星の輝く限り。エンディング「よみがえれ飛雄馬」は名曲、この1話の雰囲気に実にマッチしているので是非御覧頂きたい。
第2話「謎を秘めた代打屋」
「俺は真剣勝負のつもりでやっている!」
本話で原作冒頭の謎の代打屋が登場。草野球の試合中に突如現れ、一打3万円で逆転を請け負う男。見事逆転を成功させ名も名乗らずに去っていく。彼を見た者はその鋭いスイングと高い運動能力に驚く。
そんな時、代打屋を起用し勝利したチームと偶然会った星一徹は、その存在と「本物の巨人の帽子を被っていた」という一言に何かを予感する。
この草野球チームと一徹は顔見知りのようで、監督は親しげに話しかけるが、今回も負けたのかなとなかなかキツイ内容で返答しているのが可笑しい。本作では一徹の普段の生活描写がたびたび描かれるが、わりと良好な関係を築いているようである。これは前作序盤の長屋時代と同じで、偏屈親父と言われる一徹だが筋は通す性分ゆえだろう。
本話では代打屋として様々な試合を渡り歩く飛雄馬が描かれ、その姿にかつての華々しさは微塵もない。突然やって来て逆転を請け負い、金を受け取って去っていく。どう見てもマトモではないし格好良くもない。
そして後日、その代打屋の姿を目のあたりにする一徹。同じ頃、5年前に姿をくらませた飛雄馬の行方を追っていた花形満もその情報を掴む。
この時の一徹と花形の複雑な反応に注目。再会を喜ぶべきか、いまだ野球から離れることの出来ない姿を悲しむべきか。明らかに後者である二人の台詞が深い。
草野球の試合で荒々しいスライディングで勝利に貢献した謎の男・飛雄馬は、相手チームからの「あくまで楽しみでやっている試合にここまで!」という猛抗議に対し、「俺は真剣勝負のつもりでやっている」と断言する。その日暮らしの小遣い稼ぎ等ではなく、もっと大きな目的の為の行動を取っているのだ・・・そのことは、まだ誰も知らない。
そして後日、再びバッターボックスに立つ厄介な代打屋の対策を練る相手チームの前に一徹が現れる。
「お望みなら、あの代打屋を打ち取る秘策をこのワシが授けよう!」
第3話「再会を拒む父と子」
「人生にはケジメがないと見苦しい・・・」
本話は作画レベルが高い。この水準を極力維持して欲しかったと思う。そして内容もなかなかの傑作回。
謎の代打屋を打ち取る秘策を授けようと相手チームの前に現れる一徹。
審判の背後に立ち、絶好球が来た際、一徹の投げた小石は飛雄馬のサングラスを砕く。しかし飛雄馬は素顔を隠すよりボールを叩くことを優先!驚く一徹。
ここは緊張感ある展開。あの「大リーグボール3号のテーマ」が本作にも使用され引き込まれる。サングラスがゆっくり飛散し、鋭い眼光が現れるシーンは素晴らしい。ちなみにこのシーンは後の話で回想として新たに作画されることもあったが、この3話の出来が一番良い。
そのまま飛雄馬は立ち去り、誰もいなくなった球場で一徹はかつて二人で巨人の星を目指した頃や飛雄馬が左腕を破壊した最後の対決を回想する。何と日が落ちる前から夜まで立ってる一徹。何時間立っていたのだろう?(笑)
前作のシーンが新作画で再現されているが、ユニフォームが前作のものではなく、「新巨人の星」放映当時のデザインなのが非常に残念である。ここは1話のように前作の流用で良かった気がするが、本話以降の回想シーンは全て新作画となった。
走り去る飛雄馬は一徹と同じく彼を探していた花形とも再会。かつてのライバル・花形は飛雄馬の後を追うように球界を引退し、花形モータースの専務となっていた。洗練されたルックスで相変わらず格好良い。以前の独特の髪型から落ち着いた形に変化している事に驚いた視聴者も多かったのではないだろうか?飛雄馬は一徹の追跡から逃れるために花形の車に乗り込む。飛雄馬はかつてのライバルとの再会を喜ぶわけでもなく、車中で自らの未練がましい姿を自虐的に語る。車中のラジオからは苦戦する巨人の様子と長島采配への批判が流れる・・・。
老いた一徹、野球にしがみつく飛雄馬、言葉もない花形、そして無惨な巨人。
原作序盤の空気が十分再現されている回だろう。
物悲しい雰囲気を漂わせ次回へ。
第4話「果てなき野球地獄」
「長島さんには・・・手駒がいる!」
花形邸に到着し、明子と再会する飛雄馬。明子は、原作漫画版では前作と比べて(外見が)華やかな印象になっているが、アニメ版では落ち着いた色指定。正直正解ではないか。
今回は前回との作画の落差が残念。着いて早々、再会を喜び合うよりテレビの野球中継が気になる飛雄馬。そこで花形に「君にとっての野球はもう終わったのではなかったのか?」と問われ「終わり・・・たかった・・・」と答える飛雄馬。他の梶原作品ではありえない台詞。これこそ本作を象徴している台詞だろう。既に野球人として死んでいる主人公がそれでも野球への未練を断ち切れずにいる姿が描かれる・・・。
そしてテレビからは新浦が滅多打ちにされても交代させない長島采配への批判が。明子はテレビに異常に集中している飛雄馬に不安を抱く。
そこで彼は「5割の成功率を維持できれば代打専門でも役に立てる!」と話す。それにショックを受ける花形と明子。ここで前作最終回の回想が流れるが、全て新規作画。かつ登場人物の描写が前作と異なる。明子は試合終了直後に球場に駆け付けたことになっており、飛雄馬は試合終了後救急車で運ばれている。ここは前作最終回と矛盾しないようにして欲しかったと思う。(前作では明子は花形と試合を観戦しており、飛雄馬は一徹に背負われて球場を後にした。)そして飛雄馬はその夜に病室から抜け出し、行方をくらませた設定になっている。
花形コンツェルンにポストを用意し、無謀な挑戦を止めさせようとする花形だが、飛雄馬は一人立ち去ってしまう。その時に花形邸に到着した伴は走り去る男を目撃。一瞬の出来事であったが伴は確信する。あれは親友・星であると。立ち尽くす伴の姿で次回へ続く。
第5話「伴と星・涙の再会」
「全ては終わったんじゃ!その左腕と共に!」
一徹、花形、明子に続き前作から5年ぶりに登場する伴。彼は以前と変わらず本当にイイ奴だと再確認できる回である。飛雄馬の左腕投手時代の最後の打者であった伴は、彼が左腕を破壊し球界から去った後、一徹、花形と同じく球界を引退。父親の会社である伴重工業の常務となっていた。
花形邸を抜け出した飛雄馬が飛び乗ったタクシーを自らの運転手に追わせた伴。普通ここで見失うのがお約束だが、この運転手は超有能でみごと飛雄馬の住む場所を発見し伴に報告!素晴らしい(笑)
飛雄馬は山奥の小屋に一人住んでいたが、伴が訪れた時は無人。しかし近くにいる気配を感じ、姿を見せぬ友に対し涙を流しながら全ては終わったのだと訴える場面は胸を打つ。この辺は原作を上手く膨らませた展開だ。
今回も新作画で青雲高校時代の描写がある。あの青雲のテーマも使用され前作からのファンとしては嬉しいものがある。痣だらけになりながら飛雄馬のボールをキャッチし喜ぶシーンが微笑ましい。悪役イメージの強い父親・伴大造も登場。第一声は勿論「バカモン!!」である。今回は息子に見合いを勧め強引にセッティングまでしてしまう。
車中で花形夫妻を回想し、結婚も良いものかもしれない・・・と一人考えているシーンは面白い。
再び山奥に向かい、ついに飛雄馬と涙の再会を果たした伴は、一人打撃特訓を続ける姿を見て巨人復帰への本気さを知り、その協力を決意する。見合いは破談になってしまうのだった。
伴が登場するとそのキャラクターゆえに雰囲気も明るくなる。5話目にして初めて飛雄馬が笑った。ここはホッとするシーン。
しかし長島巨人の苦戦は今回もラジオ放送という形で描写されている。
第6話「謎のビル・サンダー」
「大どんでん返しの秘密に気付く恐れ無きにしも有らず・・・」
巨人軍復帰計画「野球人間ドック」始動。伴の依頼で大物打撃コーチであるビッグ・ビル・サンダーが来日した。本当に名前の通り身体が大きく、飛行機にどうやって入ったのか気になる(笑)
彼は威圧感のある見た目と反し非常に温和な性格の好人物で、物語前半の飛雄馬の巨人軍復帰への鍵を握る最重要人物の一人となる。声も原作の印象そのままで違和感はない。テンポ良く話が進み中々面白い回である。
一徹が銭湯帰りに屋台に寄るシーンは原作にもあるが、屋台の親父との粋な会話が面白い。その内容から一徹は良く立ち寄っているようである。そこにキャデラックで乗り付けて同席する花形はもっと面白い。ちなみに屋台の親父の顔がアニメ版は異なり、若干スッキリしているのが不思議だ(笑)
伴重工業のグラウンドで打撃特訓を続ける飛雄馬。それを遠くから見つめる花形と一徹。ここで初めて一徹の口から飛雄馬の肉体に隠された「大どんでん返しの秘密」という言葉が。花形はそれは何なのかと尋ねるが、一徹は頑なに答えることを拒否する。一人何かに恐れ、額に汗をかき、穏やかではない様子・・・この秘密こそ今後の展開の大きな鍵となるのだ。
現れたビル・サンダーは飛雄馬の打撃フォームの改良にさっそく取り掛かる。伴重工業の豊富な資金により極秘で雇われたプロの二軍投手陣の生きた球に挑む飛雄馬。この覆面二軍投手陣。サングラス姿というのもあるが顔も似ていて区別がつかない。中途半端にプライドだけは高いがサンダーの助言により打撃フォームを調整された飛雄馬に徐々に打ち込まれていくのだった。
前回までで各キャラクターの状況説明が終わり、今回からいよいよ物語が進み始めた感がある。
第7話「影の友情・左門メモ」
「星くんがグラウンドに戻ってくるような気がしてならんとです。あの不死鳥のように・・・」
ビル・サンダーの要望によりセ・リーグ一軍投手陣のデータが必要となり、伴は「左門メモ」を求めて球場へ。久々の再会となる伴と左門だが、この組み合わせは珍しい。花形、一徹、伴が球界を去った今も唯一現役で活躍している左門。彼は京子と結ばれ、兄弟と一緒に幸せに暮らしているのだった。花形と違いライバルとの勝負が全てではなかった、堅実な彼らしい。
今回は前作の回想が多く、その全てを新作画で再現。ここで大きく変更があるのが飛雄馬が左門に宛てた手紙の内容。オリジナル「巨人の星」原作漫画版では左門が京子に愛を告白することを願う内容で、アニメ版では伴と明子の間を取り持って欲しいという内容に変更されていたが、本作では原作通りの内容となっている。一体どうやって左門があの京子さんと結ばれたのか不思議だったが(笑)本話で告白シーンも描かれている。京子の服装も原作漫画に近いものに。また、飛雄馬・伴と左門が初めて出会った場面も新たに再現されている。
星飛雄馬がいま何をしているのか伏せて、左門にセ・リーグ投手陣のデータを記した左門メモをコピーさせて欲しいと頭を下げる伴。ついつい巨人のデータはいらないと余計なことまで言ってしまい慌てるのが面白い。
左門はその態度から何かを察し、大洋ナインにも見せることはない努力の結晶であるメモを彼に渡すのだった。ちなみに左門メモは国語辞典のようにブ厚い労作である。
別れ際に、いつか星がグラウンドに戻ってくる気がすると話す左門。明確には口にしないものの、伴の真意は確実に伝わっていた・・・。車内で左門に感謝し、その熱き友情に涙する伴。見応えのある回である。
第8話「対・エース作戦開始」
「大どんでん返し」「奴は飛雄馬にとって不吉の使者よ・・・」
3話と同じく非常に作画レベルの高い回。
「大どんでん返し」の秘密に飛雄馬が気づくのを恐れる一徹の姿が強く印象に残る。また演出のレベルも高い。
打撃コーチであるビル・サンダーが、かつて好成績を残した投手でもあったことを知る花形。それを聞き「最悪の結果」を招く事と動揺する一徹。これ程までに一徹が恐れる秘密とは?
「大どんでん返し」・・・その言葉の意味が気になる花形。彼がそれを考えながら寝室でタバコを吸っているシーンに驚く。何気ない描写だが前作ではありえない。本作が週刊読売連載で、元々は大人を対象とした作品であることが分かる。メイン視聴者が子供であるテレビ向けに放送する際に様々な苦労があったと思うが、やはり全体的な雰囲気は原作のまま。どこか寂しい、枯れた独特の雰囲気である。
車内で花形は大どんでん返しとは何なのか再度尋ねるが、やはり頑なに話さない一徹。このシーンは前作中盤以降に使用されたBGMが使用され、不穏な空気が素晴らしい。花形にそれを二度と口にするなと言いながら、自分で何度も口にする一徹・・・。
一方、左門メモによりセ・リーグのエース級の投手のフォームを再現したサンダーの球を打つため特訓を続ける飛雄馬。そんな中、打球によりサンダーが負傷するアクシデントが発生し、止むなく一時帰国する事になってしまう。その情報を掴んだ一徹と花形は一時安心したものの、飛雄馬の巨人軍復帰への熱き情熱を見たサンダーは帰国を撤回。怪我を押して引き続きコーチを続けるのだった。一徹はもはや手段を選ばず、何が何でもサンダーと飛雄馬を引き離すよう花形に頼む。花形もそれに同意し、巨人復帰という見果てぬ夢を阻止すべく行動を開始する。
序盤の濃密な展開が十分再現されている回だろう。
第9話「新しい標的・タブチ」
「弟を再び野球地獄へ連れて行かないで下さい・・・」
花形はビル・サンダーを飛雄馬から引き離すべく大阪へ。車のデザインが微妙な気がするが新幹線を追い越す高性能ぶりを見せつけてくれる(笑)
その間も飛雄馬の特訓は続き、対・エース作戦もあと少しで完了となる段階まで進んでいた。ここで覆面投手陣との打撃特訓を受けた後、肩が凝っていた老体のサンダーを労い、飛雄馬が肩揉みするシーンが地味ながら良い。
底から這い上がろうとあがく姿と哀愁漂うBGM。本作独特の雰囲気である。「新巨人の星」という作品のどこか黄昏た空気はこういったシーンの積み重ねや曲の影響がある。前作のひた向きに巨人の星を目指していた頃とは異なる空気に違和感を覚えた視聴者がいたことは間違いない。
阪神・吉田監督と再会した花形は大物コーチであるサンダーが実は東京にいると明かす。彼を強打者・田淵のコーチにすべく紹介したいと。その後サンダーとの接触に成功し、吉田監督と共に田淵を育てて欲しいと頭を下げる花形だが、サンダーは飛雄馬との男の約束を優先するのだった。
しかし、何としても飛雄馬の球界復帰を阻止すべく花形は、今度は彼を自宅へ招待。サンダーは姉・明子に会う。(原作漫画版ではサンダーと明子が会うことはないので、ここはアニメ版のオリジナルとなる)
そこで明子に涙ながらに「弟を野球地獄に連れていかないで下さい・・・」と訴えられ、サンダーはかつて自分が現役だった頃、怪我で一時的に野球から離れた際に恋仲となったかつての恋人を思い出す。若き日のサンダーの姿は原作未登場なので興味深い。
野球を優先したために涙を流し去っていった恋人を思い出し彼は動揺する。
そして翌朝。飛雄馬、伴とグラウンドで会った彼は複雑な表情を見せる・・・果たして?
第10話「大どんでん返しの正体」
「大どんでん返しの正体とは!」
ついに飛雄馬の身体に秘められた謎が明らかになる。
非常に重要な回なのに、作画レベルがやや低めなのが惜しい。
田淵の打撃センスに魅せられ、阪神の打撃コーチとなる決意を固めたサンダーに衝撃を受ける飛雄馬と伴。
原作漫画版では全力でガッカリして倒れこむのだが、アニメ版は割と普通のリアクションなのが残念だ(笑)
飛雄馬のロングヒットを望めない軽いウエイトと破壊された左腕。過去の栄光のプラスには決してならないと見果てぬ夢を諦めるよう諭すサンダー。一徹が背後で糸を引いているのを知り、飛雄馬は怒り任せに「右腕」でボールを握りバックネットに叩きつける!!そのあまりの剛速球に驚く飛雄馬、伴、そしてサンダー。
このシーン。もっと演出に力を入れて欲しかったと思う。決して悪くはないが、もっと劇的な描写の方が良かったのでは?
すべては一変したと阪神のコーチ就任を断るサンダー。そして一徹はついに「大どんでん返しの正体」に気づかれたことを悟り、花形にその秘密を明かす。
飛雄馬は生来は右利きであり、投打とも左腕が有利ゆえに幼き頃から一徹の手で左利きに矯正されている。そして大リーグボール養成ギプスによって右腕も同時に鍛えられており、温存された状態にある・・・と。ここは緊張感溢れる名シーンである。
飛雄馬に右腕投手としてカムバック出来る可能性があると知った花形は、これ以上の関与は我々のエゴになると一徹に話す・・・。
飛雄馬は一徹から鍛え上げられた左腕投手時代でさえ、ごく一時の栄光を掴んだと同時に破滅したにも関わらず、より不利な右腕でまたもや「野球地獄」に進もうとしているのだった。そして伴はある場所へ向かう。
「長島茂雄」の表札がアップとなり次回へ。
第11話「背番号90との再会」
「採れんな。巨人では・・・」
長島監督の自宅に訪れた伴。前回ラストでは「長島茂雄」だった表札が今回は実在の人物と同じく「長嶋茂雄」になっている。ここは統一して欲しかった。(当サイトでは原則「長島」に統一する)お互いに再会を喜び合った後、長島は伴に尋ねる。星は今どうしているのかと。ある時は苦しみのたうち、またある時は炎のように燃えた背番号16の姿は今も長島の目に焼きついていた。ここで回想として花形の大リーグボール1号打倒シーン、オズマの見えないスイング、伴への最後の一球が新たに描かれているが、ユニフォームが当時のものではないのが残念。長島は伴が星について何かを伝える為に訪れたのではないのかと察していた。伴は星の巨人軍復帰に向け、いま彼がどこで何をやっているのか直に見てもらうために来たのだ。
長島は何も知らないまま、目の前で燃え尽きていった男の今を知りたいと伴の誘いに乗る。しかし玄関先には最下位監督を記事にすべく新聞記者たちが張っている状況。ここで長島作戦として伴と別々に家を出て合流となったのだが新聞記者にはお見通し。愛すべき長島作戦よと小馬鹿にされる台詞がリアルだ。それにしても長島監督のベレー帽にマフラーという超怪しい変装は大いに問題あると言えるだろう(笑)
そして打撃特訓中の飛雄馬をバックネット裏から目撃する長島。その特訓の動機とひたむきな姿を見て涙した後、一転して巨人では採用できないと非情の判断を下す。冷徹な勝負師として飛雄馬の努力をあっさり切り捨てる原作の名シーンを忠実に再現。
焦る伴は星の今までの努力と気持ちを長島に再度伝えるが、打者としての復帰はないと断言されてしまう。もはやこれを見せるしかないと、伴はまだ秘密段階であった「右投げ」の特訓を長島に披露する。左腕投手であった星が右腕で・・・・!
コントロールは滅茶苦茶。しかしその球威は!このシーンは右投げと左投げの姿が重なるイメージ画等で盛り上がる。
「右で投げている!!しかしそんな・・・!!」驚愕する長島の姿で次回へ続く。
第12話「右投げ・新たなる波紋」
「星が右で・・・・!」
右投げの飛雄馬に驚く長島。伴は長島の前で一球でもストライクが入るよう願うがコントロールは定まらずバックネットに突き刺さる。
到底戦力にはならないレベルだが、その球威は凄まじい。伴はまず代打で巨人復帰しつつ、半年~1年かけてコントロールを身につけるプランを明かす。ここで尾行してきた記者たちと遭遇し話は中断してしまう。それを木陰で見ている一徹。
原作漫画版では長島が立ち去った後に一徹が「もはや只では済まぬ」と一人呟く描写があるが、アニメ版では後半の花形との会話に出てくる。ここは好みの問題ではあるが、立ち去る一徹の姿に哀愁を感じる原作をそのまま再現して欲しかったと思う。
この特訓を見ていた者は他にもいた。花形の部下である。
ここで場面は変わり、その日の夜に花形は阪神の吉田監督に呼び出される。サンダーに一度は断られた阪神の打撃コーチだが、最高の条件を提示し再度の交渉を求めてくる吉田。
見果てぬ夢を追うことを諦めさせるために、吉田監督の依頼を受ける花形。
ここで場面は長島が記者たちと立ち去った後に戻る。飛雄馬は近くに長島がいたことに気づいていた。右投げを披露した時に燃える気配を感じたと・・・。
更に後日、2話にも登場した味のある屋台で一徹は花形に話す。巨人復帰の可能性は分からぬ。しかし問題は長島が飛雄馬の右投げを「見てしまったこと」と。
再びサンダーと交渉する花形。飛雄馬をまた地獄に連れていくつもりなのかという花形に対し、サンダーは巨人に復帰する時まで飛雄馬と一緒に地獄を潜ると宣言するのだった。
場面が次々に切り替わり、時間軸が少々分かりにくくなっている感があるが、長島監督とサンダーの心理描写に注目の回である。
第13話「驚異の長島構想」
「奴には求めて修羅場にのめりこむ血の騒ぎもある」
冒頭いきなり「昭和50年12月 静岡県伊豆大仁町」と画面に表示され、何やら危なっかしい場所を走る長島監督。落石注意の看板が不吉だ・・・。最下位が決定的となった大洋戦、観客からの罵声を回想していた時に足元が崩れあわや転落しそうに。落石ではなかった(笑)
「クリーン・ベースボール」を掲げ、最下位に沈んだ長島巨人。走り馴れた道で足を踏み外したこの出来事からV9の偉業の陰で崩壊しつつあった巨人の戦力を改めて痛感。来年こそと決意を新たにするのだった。
「ガッツ・ベースボールだ!!」と叫ぶ長島監督のテンションが高すぎて笑ってしまう迷シーンである。
サンダーの説得に失敗した花形は明子を連れて一徹の住む川原荘へ。この後に原作漫画では一徹宅で右投手として再起する可能性について話すシーンがあるが、アニメでは近くの河原に場所を変更。
「荒っぽい野生の右投手・星飛雄馬の新生もありうる」と話す二人に違和感を覚える明子・・・・。
ここで一徹の台詞にも一部変更がある。原作では「やがて球速は左同様になる!」がアニメは「やがてコントロールは左同様になる!」となっている。
驚異の剛速球とはいえ、栄光の左腕時代とは比べるべくもない右の投球。おそらく最も問題のある制球力を重視したゆえの変更と思われるが真相は不明。
それでも飛雄馬を止めようとする明子に対し、花形は「男の世界には地獄と分かっていても進まねばならない道もある」と話す。
後日、クリスマスの夜。投球練習を続ける飛雄馬の前に花形が現れ、その「生きた球」を見て立ち去る。原作漫画では年が明けた昭和51年のシーンだが、昭和50年12月に変更された。おそらく次回の長島と一徹、花形、明子との対面シーンの流れをスムーズにする為だろう。
そして巨人軍屈辱の最下位となった昭和50年が終わろうとしている・・・・。
第14話「電話の謎・明子の迷い」
「あの地獄から這い上がることは、それ以上の地獄と戦うことになると覚悟しています!」
昭和51年元旦。花形邸に一本の電話が。その相手に驚く明子。勿論長島監督である。しかし花形は会社の新年パーティーへ。元旦から会社の行事とは気の毒すぎる(笑)
明子は会社へ連絡。午後に再度長島から連絡があると聞いた花形は、ついにその時が来たと悟る・・・。一方飛雄馬たちは年が明けても休みなく特訓を続け、伴重工業のグラウンドに着くと、そこには何と明子が。最後の願いとして巨人復帰を諦めるよう訴えるが、もはや飛雄馬を止めることはできないのだった。思わず伴を責めてしまう明子。それに詫びる伴だが、前作で中日へのトレードを渋る伴に明子が伝えた「青春には決して安全な株を買ってはならない」という言葉が今も心の中で生きていると話す。ここでも前作のシーンが新作画で再現されている。それを聞いた明子は静かにその場を立ち去るのだった。
花形が帰宅し電話を待っていると、何と直接長島監督が花形邸に訪れ、一徹宅への案内を頼む。そして長島は一徹、花形、明子の前で飛雄馬を巨人へ復帰させたい意向を打ち明ける。原作漫画での花形邸のシーンが変更されている。ちなみに一徹の住む川原荘は隣部屋に住む子供たちが一徹を慕っており、優しく接する姿が微笑ましい。
回想で昨年最下位に沈み観客から罵倒される長島監督のシーンが。この回の後半は彼を中心に話が進む。
身内としては反対の意思は変わらず。連れて行くのなら奪っていくと思いなされと答える一徹。敢えて奪わせてもらうと決意する長島監督。
原作漫画版で「バオーーーン」の擬音で有名な長島監督が飛雄馬に背番号3を譲る意志を伝えるシーンは無し。これは意外だ。おそらく後に巨人のユニフォームを与えられるシーンまで伏せるための変更と思われるが、どちらが良いかは判断しかねる。いよいよ飛雄馬が巨人軍と接触することとなり次回へ。
第15話「冷たい復帰への道」
「テスト生として、マスコミの晒し者にされるちゅう事じゃ!」
8話以来の久々の良作画回。今のところ、酷いと思うほどの回は無い印象だが、3、8、今回の作画が抜きん出てレベルが高い。この班の作画がパート2では増えるのが嬉しい。今回はいきなり即戦力以外は不要と長島監督に切り捨てられる飛雄馬の悪夢からスタート。年が明けても長島からの連絡はなし。焦る伴は長島邸まで押しかけ、なぜ飛雄馬を巨人の多摩川グラウンドの練習に参加させないのかと問う。長島は今の飛雄馬の実力ではまだ戦力に数える訳にはいかないと勝負師としての厳しい返答。言葉もない伴・・・。しかし飛雄馬、伴、サンダーはその時を信じてひたすら特訓に励む。ここで前作の練習中に良く流れた曲が使用されているのが嬉しい。本作は前作BGMと新作BGMが上手く組み合わされている。
右のコントロールは一向に定まらず悔しさを滲ませる飛雄馬。そして、ついに長島監督から連絡が!急いで多摩川グラウンドへ向かう3人だが、巨人軍は既に練習を終えコーチ3人のみ残っていた。早速始まったテスト。だが飛雄馬の投球を僅か一球。打撃も僅かに二打。いずれも凡フライとなった事を確認し、あっさりと立ち去ってしまうのだった。それだけなのか?納得のいかない伴、不安を覚える飛雄馬・・・。
後日、巨人軍より宮崎キャンプに同行せよとの連絡が入る。しかし電話を受けた伴の表情は固い。宮崎キャンプにはテスト生として自費参加扱いであり、宿舎も別である。かつてのエースがテスト生として参加となればマスコミの好奇の目に晒されるだろう・・・・。しかし、飛雄馬は耐えてみせると誓い、一人宮崎に旅立つのだった。
この回の飛雄馬に見せ場は一切ない。しかし格好良いのはなぜだ?これが「新巨人の星」という作品独特の魅力だろう。
第16話「忍耐のキャンプ・イン」
「みじめだ・・・あまりにもみじめ過ぎる!」
舞台は宮崎へ。巨人軍よりも数日前に着いた飛雄馬は一人トレーニングを続ける。
原作漫画では最初から伴、サンダーも同行していたが、アニメでは飛雄馬一人が先に現地に向かっている。が、やはり気になるようで宿泊先にすぐに電話が来たのは可笑しい。伴もサンダーも身体が大きいので受話器が小さすぎる(笑)
巨人軍がついに宮崎にやって来た。前作でも頻繁に使用された曲「闘魂こめて」がここでも流れる。昨年の最下位からのV奪回に燃える長島監督の厳しい表情が印象的。
そしてキャンプが始まる。背番号もなく、あくまで部外者のテスト生として他の選手と区別され肩身の狭い描写が続く。
柔軟運動を終え、新人選手として中畑清たちが紹介されるが、飛雄馬は「テスト生」としか呼ばれない。自己紹介する機会もなく焚火の番をするよう指示される。煙に咳き込み、投球練習もできず周囲から浮いている描写は劇中の台詞通りみじめであり、見ている側も辛いものがある。
それにしてもコーチ陣は嫌な奴等だな~と思ってしまう。勝負の世界は厳しいというよりコーチ陣が人間的に嫌な連中に見えてしまうが、ここは原作の雰囲気を忠実に再現している。長島監督も感情の分かる描写が意図的に減らされており、後姿が映っていることが多い。
王、張本が打撃練習をするにあたり、新人たちと球拾いに向かう飛雄馬。ここでコーチから「グラブは右を使え!」と指示される。左腕ではキャッチした球をマトモに返球できない。記者たちは何だあのテスト生は?と呆れ、同じく球拾いに向かった新人たちも唖然とする。キャンプを見学に来た客からは野次が飛ぶ。長島監督の真意が分からず焦る飛雄馬の姿を描き次回へ。
第17話「嵐の中のテスト生」
「あれが星飛雄馬!俺が追いかけていたドンキホーテが・・・」
後に劇場公開された回でもある。
「スポーツ・ミヤザキ」記者である田島の視点で物語が進む異色作。綺麗に一話で纏まっており、それが劇場公開作品に選ばれた理由かもしれない。
巨人軍の宮崎キャンプの写真を上司に面白味がないと言われてしまった田島は、どの写真の背景にも写っているテスト生(飛雄馬)に興味を持つ。球拾いの時にマトモに返球もできずにいる姿を「現代のドンキホーテ」と名付け、無謀な挑戦に挑む姿を記事にしようと、誰も興味を持たないこのテスト生を追いかけるのだった。悪意を持って記事にしようとする姿は実際にありえる話でリアルである。雨の中、誰よりも早くグラウンドに来て練習に励む飛雄馬だが、急遽ミーティングとなり急いで巨人軍宿泊先に戻るものの間に合わず、外で正座して待つ羽目になる。国松コーチ始めいちいち意地悪なコーチ陣が嫌いになりそうな描写が続く。
そしてグラウンドの整備が完了し、一同は練習へ向かうが、ルーキーたちと飛雄馬は走って現地へ。体調を崩した一人を助けて到着が遅れてしまい、またもコーチ陣に注意されてしまう飛雄馬。不憫だ・・・・。田島はその姿を小馬鹿にしながら見ていたが、昼休憩の際にパ・リーグから移籍した強打者・張本の悪意なき一言(本当に余計な一言)でテスト生の正体が星飛雄馬であると知る。
かつて栄光を掴んだ男の惨めな現状を目の当たりにし、一斉にフラッシュが炊かれ報道陣の晒し者になる飛雄馬・・・。
ここで飛雄馬は、あくまでテスト生として巨人ナインへ自己紹介することとなるが、田島の予想に反し、王始め巨人ナインは暖かい拍手で彼を迎える。
星の決意に燃える目。そして王たちの拍手が同情ではなく、心から星に期待していると感じた田島は、撮影したフィルムを焚火へ投げ捨てるのだった・・・。田島はなかなか面白いキャラだったので、以降もセミレギュラー的に登場しても良かったかもしれない。
第18話「ビル・サンダーの秘策」
「お前の巨人への熱い思いを!復帰に賭けた炎の闘志を!この必殺スライディングで長島監督に見せてやれ!」
作画面では他の回の流用もあり今一つ安定しない。場面によってサンダーの背景が微妙に変わったり、飛雄馬がユニフォームから突然青シャツに変わったりする。
サードにコンバートした高田選手を徹底的にノックで鍛える長島監督。その後方には球拾いとして飛雄馬が待機。厳しい打球を連続で浴びせ高田を鍛える。続けて飛雄馬・・・と思いきや、本日の練習はこれまでと不遇な扱いを受けてしまう。しかし、高田が捕球できなかった球を捕球する事で練習させて貰えていたのではないか?と飛雄馬は考える。
しかしその後もマトモに練習する機会は一向になく、飛雄馬は焦り始める。
それを手紙で知った伴とサンダーは考える。チャンスの少ないテスト生が首脳陣の目を引き、何とか巨人入団を成功させる手はないかと。
そこでサンダーはいつになく凶悪な笑みを浮かべ、策はあると返答。この時の顔が本当に悪そうである。それにしても手紙で練習する機会がない不安を打ち明けられ涙する伴は本当に良い奴だ(笑)
そして2人は宮崎へ向かう。原作漫画と違い、飛雄馬だけ先に現地入りしたのはテスト生の孤独さを強調したかったからと思われる。前話までの展開を見る限り、それはまずまずの成功だったのでは。そしてサンダーは夜の海岸でテスト生が唯一アピールできる場である紅白戦で確実に目立ち、敵味方全てを敵に回す恐れがある禁じ手「スクリュー・スピン・スライディング」を実演してみせる。あの巨体と体格のサンダーが実演できてしまうのは驚きである。とうに現役は退いているのに何という運動能力だ(笑)
たとえ全巨人ナインが飛雄馬の敵となっても長島監督が認めてくれれば巨人復帰の夢は叶う。前半を盛り上げた恐怖の殺人スライディングがいよいよ登場。
第19話「鬼のスクリュー特訓」
「再びそのユニフォームを身に着ける為に・・・俺も鬼になる!」
今回は原作漫画版の深夜の特訓シーンを膨らませた回となる。サンダーの指導の下、スクリュー・スピン・スライディングの特訓を続ける飛雄馬だが、スピンが足りないとサンダーに指摘される。この特訓は夜通し続き、翌朝倒れた飛雄馬を伴が担いで宿舎へ。自分がいつの間にか倒れ、横になっていることに気づいた飛雄馬はサンダーに自分をコーチしてくれと叫んでまた倒れる。紅白戦は翌日に控えているのだ。伴はサンダーに飛雄馬がマスターする可能性について尋ねるが微妙な反応。しかしサンダーは危険だが方法はあると答える。そして伴は・・・。この回は話の展開が非常に早い。
飛雄馬、伴、サンダーは伴重工業の宮崎工場へ。そこに用意されていたのは工場の機械を利用した「スクリュー・スピン・スライディング・マスター装置」!!前作も花形が怪しげな装置を使用したが、本作にも負けず劣らず怪しい装置が登場!高速回転する機械につり革を付け、真下にはトランポリンを用意。これを用途不明のまま準備させられた宮崎工場のスタッフには同情する(笑)
このマスター装置で驚異のスピン力を身につけるのだ!!ボロボロになりながら何とかスライディング技術をマスターする飛雄馬。相手が怪我をする可能性があるこの技を実戦で使えるのかと葛藤するが、もう時間がない・・・。迷う飛雄馬だが、この日は休日の筈の巨人軍宿舎にくつろぐ選手は一人もおらず、最下位から這い上がるため、全員が素振りの練習中であることを知る。ついに甘さを捨て、鬼となると決意!!
ラストのイメージシーンが印象的で非常に格好良い。ついに屈辱に耐えてきた飛雄馬が牙を剥く時が来た!と期待させ次回へ。
第20話「必殺のスライディング」
「これがプロの球だ・・・何年ぶりかで接する生きた球だ!俺は生き返った!巨人軍を去って以来、ずっと死んだも同然の俺が今甦ったんだ!」
本作の第一の山。スクリュー・スピン・スライディング登場!全編見どころ満載の回である。
物語は前回と今回、次回で前、中、後編といった内容。
ようやく紅白戦で代打として出番が来た飛雄馬。ピッチャーは後に「江川事件」に巻き込まれる形となる小林投手(なかなか似ている) 第一球は顔面スレスレに飛んでくるが飛雄馬は避けない。ここで久々に接したプロの生きた球を見て狂気の笑みを浮かべる名シーンがアニメでもほぼそのまま再現。そして一塁に進んだ飛雄馬は二塁へ盗塁。ここでついにスクリュー・スピン・スライディングが登場!!前回の引きの迫力以上のインパクトのある場面である。なにせ黒豹のイメージ映像まで出てくるのだ。比較的地味な展開だった本作で初めて派手な演出となった場面と言えよう。そのあまりのラフなプレーに観客も巨人軍選手陣も驚愕し反感を抱く。前回の台詞通り、全巨人ナインを敵に回す飛雄馬だが、続けて三塁にも盗塁!!待ち受けるは長島監督が三塁にコンバートした高田選手。今回のキャンプで最も力を入れていた高田の三塁手転向。それに対して飛雄馬は容赦なくスクリュー・スピン・スライディングで挑む。カバーに入った張本選手をも吹き飛ばし、審判は恐怖のあまり激突の場から逃れ判定不可能に。
この張本をも巻き込むシーンは迫力あり、今回の作画の質が高くて良かったと思う。
試合続行の為に止むなく飛雄馬はアウトとされてしまう。そして紅白戦は終了。
果たして長島監督の目にはどう映ったのか・・・。気になる飛雄馬と伴。
長島監督は後で巨人軍宿舎に来るよう声をかける。もはやキャンプ参加は不要と切り捨てられてしまうのか?巨人ナインを敵に回したことが裏目に出たのか?その答えは次回へ。
第21話「新たなる決意・背番号3」
「この背番号3番に誓って、俺はやる!!」
スクリュー・スピン・スライディングにより荒れた紅白戦終了後、飛雄馬は巨人軍宿舎に待機。着替えろよとツッコミたくなるが、試合が終わってそのまま現地へ向かったのだから仕方ないのか?そして宿舎では巨人軍首脳陣と一部の選手が集まり会議が。今の巨人のあのテスト生は必要か否か?あまりのラフさに反対の声も出るが、V1に燃える長島監督の意思は既に決まっていた。それにしても本作の長島監督は実に男前で格好良い。容姿、声、決断力といちいち痺れる。数々の作品に登場する「長島茂雄」という長嶋茂雄氏をモデルにしたこの人物(と敢えて表現)は、本作が一番格好良いと断言できよう。(ファッションセンスだけは微妙だが許そう。)そして飛雄馬は長島に巨人軍は長髪を禁じていること、部屋を用意してあることを告げられる。ついに巨人入団が認められたのだ!!居酒屋で酒を煽り涙した第1話からついに、第21話にて巨人軍へ入団。ここでおなじみとなった長髪&青シャツ&グレーのパンツ姿とお別れとなる。少々寂しい気もするが。
髪をカットするシーンで過去の回想が流れ、1話の目の下のクマが凄いチンピラや草野球の監督等の超モブキャラたちが登場するのが地味に嬉しい(笑)そして宿舎にやってきた飛雄馬、伴、サンダーは、部屋にある背番号3のユニフォームに驚愕。驚くほど美しい文字で「永久欠番3を譲った男をねがわくは世間から阿呆よばわりさせんでほしい 星飛雄馬どの 長島茂雄」と書かれた手紙を見て飛雄馬は涙する。勿論伴もサンダーももらい泣きである。
ここで野球人間ドック開始時からの目的「まずは何としても巨人に入団する」は達成された。しかし、右投手カムバックまでの試練はまだまだ続くのだ!
第22話「背番号3への誓い」
「ついに長島監督は飛雄馬に地獄行きの特急券を発行しよったということじゃ!」
ついに巨人に再入団した飛雄馬。翌朝その事を知らないモブキャラの選手たちになぜ巨人のユニフォームを着ているのかと非難される。小さい連中だ。そこに国松コーチが来て正式に巨人の一員となったと伝える。テスト生時代は厳しく接していた国松コーチが飛雄馬を庇うこのシーンは良かった。そして「背番号3」に選手たちもマスコミも驚愕。長島監督は世間に批判されるのだった。
原作漫画版の宮崎キャンプ参加前に長島監督が一徹、花形、明子に事前に背番号3を譲る意思を伝えたシーンはアニメ版ではカットされたので、ここで初めて3人もこのことを知り驚く。花形は早くも復帰を匂わせる描写が。一徹は背番号3は地獄行きの特急券であり、再び右で大リーグボールを開発し破滅に向かっていくと予想するのだった・・・。
練習中に飛雄馬に質問する記者団は17話「嵐の中のテスト生」で登場したキャラたちと同じ。(おそらくキャラクター設定画の流用)しかし今回はかなり失礼な連中として描写されている。いかにもマスコミ的でリアルと言えばリアルだが、17話ラストで巨人ナインと一緒に飛雄馬に拍手していたキャラたちと同じなので何とも残念な気分になる。記者団の中に17話の実質的な主役であったミヤザキスポーツ記者・田島がいないのはもったいない。ここで田島だけは何かを感じ取る場面等があれば話がふくらんだのでは?
練習中に長島監督への批判を繰り返す記者団の言葉に怒りを感じる飛雄馬。思わず右腕で返球しそうになるが、練習開始前に長島が伝えた「右投げについては当分の間は伏せる」という言葉を思い出し踏みとどまる。マトモに返球できない飛雄馬を見て笑い、長島監督をも馬鹿にする記者たちの言葉に悔し涙を流す飛雄馬。ここは辛い場面である。
そして長島監督の記者会見に場面は移る。批判に微動だにせず、全ての回答は来季のペナントレースで出す!と宣言するのだった。やはり本作の長島監督は非常に格好良い。
第23話「無念の初舞台」
「代打屋でひとまず成功しておかねば・・・背番号3が道化に見える!!」
今回は作画が低調で残念。良い回とのギャップが大きい。アップ時の画は比較的丁寧なのが救いか?宮崎キャンプを終えた巨人軍。帰りの飛行機には飛雄馬の姿も。(サンダーと伴は前回宮崎を後にしている)
春のオープン戦については軽く触れたのみで、開幕が迫っている中での練習描写が重視されている。長島監督は後楽園で開幕を迎えられなかった無念と今季は攻撃あるのみ!と熱く檄を飛ばす。
伴は父親の大造に仕事そっちのけで宮崎に行っていたことがバレて減給処分となり(笑)サンダーは飛雄馬が遠くに行ってしまったと少々寂しげな様子。
そしてついに昭和51年ペナントレース開幕。巨人は神宮球場でヤクルトと対戦。この試合の描写は、1話と20話の動きをトレースしているシーンがある。1話の作画は並だったのでさほど差は感じないが、良質な作画だった20話と同じ動きでイマイチな作画を見るのは少々辛い。試合は5点のリードを巨人は守ることが出来ず、9回についに飛雄馬が代打で登場!ここでAパート終了となるが、Bパート開始後にリードに出過ぎた一塁ランナーがアウトとなり、皮肉にもバットを一度も振ることなく出番終了。無念の初舞台となった・・・。何としても右投手復活までの時間稼ぎをしたいという独白後の意外な展開である。
そして次は大洋戦。思わず飛雄馬に心の中で声援を送ってしまう左門。彼らしいシーンである。しかし、飛雄馬のホームラン性の当たりを左門が体当たりのプレーで阻止!アウトとなったところで次回へ。
スクリュー・スピン・スライディングの登場は次回となる。
第24話「恐怖の殺人盗塁」
「ついに出たーーっ!!スクリュー・スピン・スライディング!!」
今回も見どころが多いが、23話に続き作画は今一つ。1話から良し悪しあれど、一定の水準はクリアしていたので、ここはもっと頑張って欲しかった。今回ついに公式戦でスクリュー・スピン・スライディングがデビューとなるが、広島との初戦でついに初安打が出るもスライディングを警戒され出番なし。前回に続きなかなか登場せず引っ張る。
ちなみに一徹はいつもの銭湯帰りに立ち寄る屋台のラジオではなくテレビのある店で観戦しているのが少々意外だった(笑)そして伴とサンダーは星の初安打を祝い乾杯。サンダーは飛雄馬が巨人に再入団し役目を終えたことで、アメリカに帰国する意思を告げる。伴は心から感謝するのだった。
後日、伴に花形から活き活きと活躍する飛雄馬を見て安心した旨と、伴とサンダーへの礼を述べた手紙が届く。手紙には2人分の歌舞伎座のチケットが。これはもちろん原作にはないエピソード。以降巨人対広島戦と伴、サンダー、花形、明子、そして同じく花形に誘われた一徹が歌舞伎を観劇する場面が交互に。余計なエピソードと思いきや、実は原作では一度も会っていない一徹とサンダーの貴重な会話、そして握手のシーンがある。歌舞伎「連獅子」は生まれたばかりの子獅子を親獅子が谷底に叩き落す厳しくも暖かい親の情を描いたものと知り、それを飛雄馬と一徹に重ねるサンダー。帰国しようとしていたサンダーに何か変化が起きたことが分かる重要なシーンである。ちなみに伴だけは眠そうにしているのだった(笑)
そして広島との第2戦。背番号3は疾風の如く!大胆不敵な90番作戦!と名実況をバックに、ついに公式戦でスクリュー・スピンスライディングが登場!!見事成功し巨人の勝利に貢献するのだった。
第25話「飛雄馬対カケフ」
「カケフという素晴らしい選手をコーチして、ヒューマの敵になります!!」
サンダーはアメリカに帰国する前に、飛雄馬の活躍を間近で見るため阪神戦を観戦することに。前回、前々回と作画が不調だったが、今回は安心して見られる。作品が作られた時代を考えるに毎回ハイクオリティな作画は不可能だが、ある程度の水準は満たして欲しいところ。巨人ベンチのすぐ後ろの席に座る伴とサンダー。飛雄馬は出番を待ち素振りを続ける。前日、サンダーの帰国を伴から聞き、伴の自宅で別れを惜しむシーンは原作にはないが非常に良い追加シーンである。巨人対阪神は巨人リードで進み、伴がこのままでは星の出番がないのでは?と思ったのもつかの間、阪神は粘り、1点差まで追いつかれてしまう。掛布の好守備が強調されているのが後の伏線となる。
ここで長島監督が動き飛雄馬が代打!・・・ではなく土井が代打として登場。「土井の方が塁に出る可能性が高い」と判断し、出塁後にピンチランナーとして飛雄馬を使おうという展開がリアル。しかしまたも掛布の守備に阻まれる。サンダーは彼に興味を持ち始めるのだった。
そのまま試合は続き、またも巨人にチャンスが。ようやくピンチヒッターとして飛雄馬登場。観客には恐怖のスライデイングが受けており、球場が湧く描写がある。ここもリアルな描写かもしれない。
そして飛雄馬は一気に二塁を狙いスクリュー・スピン・スライディングで見事セーフ。サンダーも合格点を出す。だが、三塁の掛布は闘志を剥き出しにして構える。続けて三塁も狙い再度のスクリュー・スピン・スライディングで掛布を吹き飛ばしセーフ!悔しがる掛布。
ここでサンダーは突如帰国を取りやめ、掛布のコーチとなり飛雄馬の敵となると宣言!驚く伴。前回の歌舞伎のシーンがここでも登場。サンダーはかつての一徹のように敢えて飛雄馬の敵となると決意し、伴に阪神のコーチとなるべく交渉するよう頼む。その意味とは何か?
原作では伴と合意の上で阪神コーチとなったので大胆な改変と言えよう。意外な展開となった所で次回へ続く。
第26話「サンダーの裏切り」
「いま敵と言ったな?ビル・サンダーを敵と!」
この回は各球団のスクリュー・スピン・スライディング対策を描くのと同時にサンダーの阪神コーチ就任と掛布の特訓を描いている。原作を上手く膨らませた面白い回と言えよう。まずは飛雄馬の動きをビデオで確認し対策を練った中日との試合。空中でタッチする事でアウトを狙うがスパイク同士の激突の反動で弾き飛ばされる!ここは凄すぎて笑ってしまうがギャグでも何でもなく飛雄馬は真剣そのもの。あくまで右投手復活までの場繋ぎ的に登場したはずのスライディングが他球団の脅威となっており、それがサンダーの謎の行動の理由に繋がるが、そのことが語られるのはもう少し後である。
試合後、記者団からサンダーの阪神入りの話を聞き驚く長島監督&飛雄馬。思わず記者たちの前で聞かれたらまずい内容の会話を始めるのが可笑しい。途中で我に返り、慌ててごまかす長島監督。右投手復活計画の話が出なくて良かった(笑)
今回の飛雄馬は終始険しい表情。なぜだ?と伴の家を試合後に訪ねるが、いつもの伴と違う。とても嫌な奴っぽい態度で飛雄馬を軽くあしらい帰してしまうが、サンダーの本意を知り、敢えて敵になることに賛同し阪神に紹介した内心が語られる。
そして正式にサンダーは阪神にコーチとして入団。カケフ・ボーイはキャッチャーの格好で特訓開始。ビルのスクリュー・スピン・スライディングを思い切り身体で受け止めて何度も吹っ飛ばされる。あの巨体の超重量のスライディングを正面で受けて大丈夫なんだろうか(笑)
迎えた阪神戦。ついに阪神のユニフォームを着たサンダーと怪我による欠場扱いとなっている掛布の姿がベンチに。その姿を見た飛雄馬は闘志を燃やし、「敵」ビル・サンダー&掛布のコンビの前で出塁してみせる!と長島監督に代打で起用するよう強く訴える。盛り上がった所で次回へ続く。
第27話「非情のバント作戦」
「今のがミスター・サンダーに対する、この星飛雄馬の宣戦布告だ!」
前回の勢いのまま、サンダー&掛布に対して闘志を燃やす飛雄馬の代打登場シーンからのスタート。好調の阪神・古澤投手だが、サンダーはバントによる出塁とその後のスライディングによる盗塁封じのため、敢えて古澤が一塁カバーに行くよう吉田監督に助言。投手相手に危険なスライディングは無いだろうという予想だったが、飛雄馬は容赦なくスクリュー・スピン・スライディングで一塁に出塁!本来は二塁、三塁を狙う技というイメージで、一塁を狙い使用したのは初である。阪神ファンは激怒し、猛烈な野次を浴びせるが飛雄馬は動じない。しかし、突如敵となったサンダーが右投手復帰の秘密を漏らす可能性と伴の豹変した態度を思い出し、リードしすぎたところを狙われ牽制球でアウトとなる。ここは飛雄馬の油断を突く古澤が格好良い。続けて今度は大洋戦となるが、左門は弟たちの何気ない発言からスライディング封じの技を思いつく。即秋山監督に電話するのだが、もう勝利を確信している左門にツッコミを入れたくなる。
しかし、左門が言うと何となく説得力があるのは不思議である。それにしても左門の兄弟たちが前作から殆ど成長していないのはなぜか?時が止まっているようだ。
そして翌日、敢えて一塁に出塁させ飛雄馬との対決となる。ここでも大洋・平松投手の心理描写があり、敢えて王と勝負するシーンは短いがながらプロ意識を感じて格好良い。そして二塁を守るシピン選手の背後に着いた左門。二重ブロックでスクリュー・スピン・スライディングを弾き飛ばす!・・・はずが、逆に吹き飛ばされる。このシーンは飛雄馬が二人に思いっきりキックしてる状態になってるのが可笑しいが、「巨人の星」世界にそんなつまらない茶々は不要。断じてセーフなのだ!!ラストの台詞、演出に奇妙な間があるが、前回に続きなかなか面白い回と言えるだろう。
第28話「血みどろの挑戦」
「飛雄馬の野球地獄が始まるのか」
20話以来の非常に作画レベルの高い回。サンダー・掛布コンビとの対決を前にして盛り上がる内容となっている。まずは広島戦からスタート。この時期は代打要員なので作品内の試合サイクルが非常に早い。前作同様、本作も野球をモチーフとしながらも、その物語の構造としては個対個であり、むしろ格闘技に近いと言えよう。
サンダーたちの存在とスクリュー・スピン破りを恐れ、ベンチからの指示に従わず通常のスライディングで三塁への盗塁を成功させる飛雄馬。結果としては問題なくとも、潜在的に恐れを抱き消極的な動きとなったことは長島に見透かされていた。
その頃、吉田監督、掛布はサンダーから奇妙なものを見せられる。2個のコマを回し、「回転するコマは後から放たれたコマに弾き飛ばされる」事を説明される。これは何を意味するのか?ここは前作後半でも使用された不吉な雰囲気のBGMの効果もあり、話に引き込まれる。
特訓を始めたところでこのシーンは終了となり、謎の特訓の正体は伏せられた。ここでAパート終了となり、Bパートでは悪夢を見ている飛雄馬の描写からスタート。朝のランニングの途中で新聞配達の少年に応援される場面があるが、原作ではバイクに乗った牛乳配達の少年だったのがなぜ新聞配達になっているのか不明。(バイクの作画の手間を省く為か?)少年の応援に応えるため、そして自分のためにも飛雄馬はサンダー達に立ち向かう。そしてついに迎えた阪神戦。巨人再入団後の最初の大きな壁が立ち塞がる!一徹はついに「野球地獄」が始まると呟く。
代打・星のアナウンスが流れ、飛雄馬はバッターボックスへ!!
第29話「カケフとの対決」
「男と男の勝負だ!!サインは一つ。激突あるのみ!!」
ついにサンダー・掛布の師弟コンビと決着。
「ピンチヒッター・星飛雄馬」の最後の見せ場であり、スクリュー・スピン・スライディングの最後を描く、全編を通してテンションが高い回である。飛雄馬は黒豹となり、掛布は虎と化すのだ!!そのイメージシーンも前作を思わせる。何とこの回は飛雄馬が代打としてバッターボックスに立ち、三塁で掛布と激突するまでで一話を消費している。しかし間延びした感はなく、どのシーンも台詞も全てクライマックスの両者激突に向けて進んで行く。無駄なシーンは一切ない傑作回と言えるだろう。また、今回は前作終盤で使用された「大リーグボール3号のテーマ」が効果的に使用されている。
作画はシャープな印象。この回の水準を全話通して維持できれば、作画面で大きな不満は無かったのではないだろうか。
闘志を燃やしヒットを放った飛雄馬は一塁から二塁へ駆ける!野手のミスで更に三塁を狙うが何かがおかしい・・・?と感じて二塁でストップ。野手のミスは故意であり、三塁で確実に星のスクリュー・スピン・スライディングを破るための阪神の作戦であった!
しかし、もはや激突は避けられぬ運命・・・・・。長島監督は次なる打者・柴田選手にバントを命じる。そして飛雄馬は一気に走り出す!!待ち構える掛布!!ついに出たスクリュー・スピン・スライディングに対し掛布が走り出し、何と飛雄馬目がけてスクリュー・スピン・スライディング!!激突した両者はユニフォームが引き裂かれるほどの衝撃で吹っ飛ぶ!!
このシーンは凄すぎて度々部分的に抜粋して茶化しの対象となることもあるが、全編を通して見れば、思わず引き込まれてしまう展開と、その迫力によって印象が変わるのではないか。真剣にご覧頂きたい回である。
倒れた両雄・・・。だがベースタッチはまだ。先にベースに辿り着いた方が勝ちだ!!這いながら進む飛雄馬と掛布。そして味方の助けを拒否し、自らの手でタッチすることを望んだ掛布によって飛雄馬はアウトとなるのだった。
ついに昭和51年ペナントレース前半戦で猛威を奮った殺人・スクリュー・スピン・スライディングは破られたのである。
第30話「オールスター戦の謎」
「俺はやる!!本当のカムバックのための・・・その第一歩を踏み出す!!」
本作最大の山!!オールスター戦の大遠投の回が30話目にしてついに来た。
ストーリーはラストシーンに向かって目が離せない怒涛の展開で非常に面白い。そして盛り上がる!!
残念なのは作画で、前回の水準を維持して欲しかったところ。今回は秘密にして来た右投げをついに披露する回なのだから。
原作漫画版はこのエピソードが間違いなく一番盛り上がったが、アニメ版は終盤にもう一つの大きな山がある。それは後述するとして、スクリュー・スピン・スライディングが敗れたことで飛雄馬がオールスター戦への出場辞退を長島監督に訴えるが、「その台詞はこの長島茂雄には通じない」と却下される場面からスタート。長島は別の形で星の起用を考えていると謎の言葉を残すのだった・・・。
そしてセ・パ両リーグの人気選手が集う昭和51年オールスター戦が始まろうとしていた。控室で飛雄馬の前に前回激闘を繰り広げた掛布が現れ、無言で握手する。ここはアニメ版オリジナルの追加シーンだが、「サンダーの刺客・掛布」としての描写以外、特に心理描写等もなかった原作を上手く補完した名シーンと言えよう。それを見ている左門という構図も良い。
セ・リーグの広島・古葉監督は長島から「試合前にパ・リーグの得点チャンスの時に星を外野に使って欲しい」と声をかけられていた。「その時こそ夢の球宴にふさわしい場面が見られることを約束する」・・・と。
その長島監督は自宅で記者に囲まれながらテレビで観戦。それにしても長島番なのか記者たちがいつも似たような顔ぶれだ。特にメガネで長身の記者は毎回いる気がする(笑)
そしてその場面はやって来る。三塁にランナーを進め得点チャンスのパ・リーグ。長島の言葉を信じた古葉監督の指示でライトに配置された「返球できない星飛雄馬」にスタンドからは罵声が飛ぶ。そして南海ホークス・門田はライトに狙い通り犠牲フライを打ち上げる。そして・・・
一徹「飛雄馬・・・ベールを脱ぐ時が来た!!」
伴「オールスター戦を真夏の夜の夢に変えてやれ~~!!」
長島監督「星!サインGOだ!!」
「この一球!この右腕に全てをかける!!たあぁぁーーーーッ!!」
「右」グローブで捕球した飛雄馬は、そのグローブを脱ぎ捨て、「右腕」でキャッチャーミット目がけてボールを投げつける!!
「星が右腕で投げたーーーーッ!!」驚愕のアナウンサーの声で終了。次回へ続く。
第31話「大遠投の波紋」
「ついに動き始めたか・・・!」
前回の大遠投シーンからスタート。前回の流用ではなく、門田のフライから右腕の大遠投シーンまでを新たに描いている。作画レベルは今回の方がやや高い。飛雄馬がついに大観衆の前で右投げを披露した。散歩気分のホームインのはずが結果はアウト!予想外の出来事に球場は一瞬静まりかえる。その後、セ・パ両ベンチと観客席は騒然となった。
一徹はついに長島プランが始動したと語る。繋ぎとしての打者ではなく、本格的に投手として復活する時が近づいているのだ。
星の唐突な右投げ。まさかペナントレース後半戦に投手としての復活もあり得るのではないか?この動揺が各球団に与える影響は大きいとテレビの前で花形が語る。その手には社用のゴルフクラブ。どこか寂しげな表情の花形を不安な表情で見つめる明子・・・。これは後の展開の伏線となる。
そして左門はライバルの「右投手復活」を予感し、一人涙するのだった。
この回は次なる山である「右腕投手としてマウンドに立つ」までの繋ぎ的な回となる。内容は地味だが、こういった飛雄馬の周辺人物を描いた回の積み重ねがあればこそ投手復活の回が盛り上がるわけで、原作前半の丁寧な展開をアニメ版でも十分な時間をかけて映像化していたのが分かる。
そしてビル・サンダーはカケフ・ボーイとタブチの打撃練習の際に奇妙な指示を出す。バッティングピッチャーのプレートを3mほど前にし、1ストライクに対し3ボールを故意に投げさせろと。そんな危険なことをなぜやらせる?しかし、この特訓に大きな意味があると吉田監督は察する。もしや・・・と。
第32話「長島宣告の怪奇」
「代打代走屋で終わってたまるか!!必ず右投手としてマウンドを踏んでやるぞ!!」
掛布・田淵の両選手はビル・サンダーの無茶な指示に怒る。今度はピッチングマシンを使用して連続でボール混じりの剛速球を打てというのだ。今のセ・リーグにそんな投手は存在しない。しかもボールの数が異様に多い・・・・ここで両選手はハッとなる!あのオールスター戦で大遠投を見せた星・・・。まさか星が投手として・・・?そう察した掛布と田淵はサンダーの指示に従い闘志を燃やす。
一方飛雄馬は一人グラウンドで的を相手にノーコン克服の特訓を続けるが、一向にコントロールは定まらない。丸い的どころか、それを描いた板すら当たらずバックネットに突き刺さり悔しがる。それを遠くから見つめる王貞治・・・ここは昼間のシーンだが、王は日が暮れるまで見ていたのが3話の一徹のようで地味に面白い。何時間立ってたのか気になる(笑)
一徹はアパート近くの銭湯へ。何気に一徹の生活環境は近場に銭湯、帰り道には屋台と快適そうで少し羨ましい。銭湯に伴が現れ、なぜサンダーを阪神に紹介したか真意を語ろうとしたが、一徹にはお見通しであった。
右投手としては到底今の状態では使い物にならない。しかしスクリュー・スピン・スライディングは想像以上に目立ち活躍している。このままでは投手としての復活が幻となってしまうのではないか?と思っての行動であると。
その後、悪夢から目覚めた飛雄馬が夜空を見ながら「代打代走屋で終わってたまるか!」と闘志を燃やすシーンは熱い。
今回の作画は平均的だが、この後に巨人軍首脳陣に呼ばれ、近々投手として起用すると告げられるシーンだけなぜか次回と同じ画になっている。ローテーション制なのだろうが、この場面だけ次回の担当班が手掛けていた理由は不明。また、タイトルは「長島宣告の怪奇」となっているが全然怪奇ではなかった(笑)
飛雄馬が右投手としてマウンドに立つ日は近い。
第33話「王貞治ノーコン投法」
「俺は今マウンドに向かっている・・・右投手として。再び帰ることはないと思っていたマウンドへ!!」
今回も前回、前々回に続き、右投手としてマウンドに立つまでの前振りの回。地味ではあるが、この3話でじっくり描いたことが、次回34話の展開に大いに活かされる。
前回の巨人軍首脳陣に近々投手として起用される意向を告げられるシーンからスタート。前回はこの場面のみ作画が異なり少々違和感があったが、今回は全てこのシーンの担当班の作画で統一されている。
飛雄馬は目前に迫った投手としてのデビューのため、コントロール改善の特訓を続けるが、成果を出せない。ここでかつて自身も投手であった王が現れ、コントロール調整の為の「ノーワインドアップ投法」を伝える。スピードはガタ落ちするが初めて捕手が指定した位置に投げられた飛雄馬。通常とのスピード差を埋めるべく特訓は続くのだった。この回で星の特訓に付き合う王は実に好人物で、前作初期の頃からの人格者としての描写が貫かれている。前回の飛雄馬の苦闘を遠くから見ていた王の描写は、このアドバイスのためだった。自身の本塁打記録の更新についての台詞も現実とリンクしており面白い。
そしてついに巨人・阪神戦が始まる。初戦は阪神の完勝でペナントレースの順位も逆転か?と巨人はピンチに。続けて第2戦9回表。疲れが目立つ小林投手に代わり球場にアナウンスが流れる。
「ジャイアンツ、ピッチャーの交代をお知らせします。小林に代わりましてピッチャー星・背番号3」
ついに飛雄馬がマウンドへ向かう。どうなる復帰第一戦?盛り上がった所で次回へ。
第34話「右腕の初勝利」
「俺の背中には背番号3がある!!」
オールスター戦の大遠投から3話挟み、ついに右投手としてマウンドに立つ飛雄馬!
この回と次回に3話分の前振りが活かされる。前回の、球場にアナウンスが流れ飛雄馬がマウンドに向かう場面からスタート。今回の作画は掛布とのスクリュースピン対決の回である29話と同じ班が担当しシャープな印象。
マウンドに向かう際に、1話ラストの山奥での打撃特訓や大どんでん返しの正体に気付くシーン等が回想として流れるのは胸が熱くなる。草野球の有料助っ人から始まり、ついにここまで来たのだ。
マウンドに立つ飛雄馬を見て涙する伴。阪神ベンチ内で心の中で祝福するビル・サンダー。一人テレビの前で静かに見守る一徹。額に汗の花形と不安げな明子。試合中にラジオ中継でライバルの復活を知り闘志を燃やす左門。
目指していた巨人軍復帰。そして右投手としての再起。原作同様、オールスター戦の大遠投と並び大いに盛り上がる回であり、期待を裏切らない内容である。
0対0 九回表1アウト2塁。飛雄馬の第一球は頭部近くに飛んでくる恐るべき剛速球!バッター・中村はひっくり返る。凄まじい球威とコントロールの定まらない大ノーコンぶりに阪神ベンチは驚愕する!
王直伝のノーワインドアップ投法を織り交ぜながらカウントを稼ぐ飛雄馬。
中村が「なんちゅう球を放るんや・・・!これじゃいくら命があっても足りへんで!!」と、その球威と殺人ノーコンぶりに恐怖を感じているシーンはBGMの効果もあり緊張感溢れる雰囲気。ここで掛布、田渕はサンダーの特訓の意味を理解し、次なる打席に備え素振りを始める。全てはこの時のためだったのだ。
地味な展開が数話続いたが、それが本話を盛り上げる伏線として十分機能していると言えるだろう。
バットをへし折る球威で中村を打ち取り、9回表を抑えた飛雄馬だが、自ら志願し9回裏も打者として登場。執念のヒットで巨人を勝利に導く!最後のヘッドスライディングはスクリュー・スピン・スライディングでないのが残念な気もする。飛雄馬はもう代打専門ではなく正式に投手となったのだ・・・と理解はできるものの、やはり寂しい気もする。
田渕、掛布との対決は次回となり本話は終了。ここは1話に詰め込むと大急ぎの展開となるので分けて正解。
右腕投手・星飛雄馬 ついに復活!!
第35話「打倒!タブチ・カケフ」
「ワンダフル・・・ヒューマ!!」
前回に続き阪神との3連戦。今回は最終戦であり、掛布と田淵との対決が描かれる。
原作漫画版では前回描かれた復帰第一戦(阪神との2戦目)で両者との対決も描かれるが、アニメ版では3戦目に分けられている。よって飛雄馬が初登板した回も異なり、原作では六回表からの登板だったのがアニメは九回表。本話が六回表からの登板となった。
復帰戦で一気に見せた原作の方がテンポが良いが、限られた時間内に全てを描写するのは不可能と2試合に分けたのだろうか?しかしその分、本話では打者としての飛雄馬も見られる。
物語はいきなり飛雄馬が登板する六回表からスタート。前半は掛布との対決がメイン。スクリュー・スピン・スライディングを破られて以来の対決となるが、かつての花形、左門のようなライバル感はなく、田淵と並ぶ強打者といった扱い。しかし掛布にだけはノーワインドアップ投法を拒否し勝負にこだわる飛雄馬。前回に続きバットをへし折る剛速球で打ち取る!その球威に手が痺れる掛布と帽子を叩きつけて悔しがるサンダー。
続けて巨人の攻撃となり、ここでアニメオリジナルの展開で飛雄馬はスクリュー・スピンスライディングを使用して出塁しようとする。事前に気づいた長島監督指示でスタミナ温存のために未遂に終わるが、これは良い追加だったのではないか。
そして田淵との対決。ノーコン、剛速球対策は万全だったが、王直伝のノーワインドアップ投法は予想外であり、タイミングが合わず打ち取られる。荒れ球でも徐々にベース上にボールが飛んできているという台詞、描写は地味ながら好ポイント。一徹は妻の遺影に「ここにはもう、わしの作品ではない飛雄馬がおる・・・」と語りかけるのだった。
第36話「自滅の四死球」
「星・・・その屈辱を次の試合で役立たせるんだ!」
原作漫画版の中で新聞の見出し「右投げ星ノーコンで自滅」・・・。この僅か1コマの描写からアニメ版ではまるまる一話が製作された。全く不明だった試合内容が、その見出し通りの展開で進む。まさにノーコンで自滅の回である。
相手は策士・広岡監督率いるヤクルト。前回の阪神戦ではリリーフの登板だった飛雄馬が、ついに先発デビューとなる。そのサブタイトルから地味で面白味のない内容を予想してしまうが、広岡監督率いるヤクルトの待球作戦はリアルで、最初から剛速球の合間に投げてくる調整用投法・ノーワインドアップ狙いで攻めてくるのが面白い。この前にエース堀内が投げる試合が描かれ、試合中にパ・リーグでは阪急のリーグ優勝が決まったと巨人ベンチに知らされる。昭和51年のペナントレースも終わりが近い。昭和50年夏の描写からスタートした本作、長い苦闘を経てカムバックしたことが分かる。
テレビでそれを見守る花形だが、徐々に野球界への想いが甦りつつある描写が・・・・。 ここで原作漫画は本作のキャラデザインの花形が「阪神」のユニフォームを着ているカットがあるが、アニメでは前作のままの花形だった。なぜ変更したのかは不明。しかし自宅でゴルフクラブをバットに見立ててスイングしたり、バットを取り出してみると、必ず明子に見つかる花形なのだった。今回は「変な人・・」と言われてしまうのが可笑しい(笑)
味方の援護も空しく、コントロールの定まらない飛雄馬は自滅。二回にして投手交代となる。この展開はリアルで本作らしい。原作にはないエピソードだが、上手く補完した内容である。
第37話「決戦!飛雄馬対左門」
「お、重くて速い・・・!これがあの球質の軽さに悩んどった同じ星くんのボールとは信じられんことですたい!」
昭和51年ペナントレース・巨人大洋最終戦にして、ついに右投手飛雄馬と左門の宿命の対決を描く。
大洋は今季の最下位が決定し、左門が酷く不調であることが冒頭で新聞を読んでいる伴の口から語られる。それにしてもこの新聞。物凄く字が下手で驚く(笑)
実は左門は飛雄馬との対決に備え、敢えて重いバットで一人特訓を続けていたゆえの不調だった。自宅で素振りをしている場面で、それを京子に指摘されるが、この時の京子が前作を思わせる表情を少し見せてくれるのが嬉しい。
本作の京子は左門の妻として僅かに登場するのみで物語に大きく関わることはないが、不調を詫びる左門に京子が優しく声をかけ、思わず照れてしまうシーンが微笑ましい。
V1を賭けた阪神戦を控え、巨人の選手は貴重な休日を楽しむために出かけようとするが、飛雄馬は左門との対決に備え、捕手福島に練習に付き合って欲しいと頭を下げる。とても気の毒な福島だが、よし分かったと快諾するシーンは格好良い。この時の外出する私服の選手たちの中に赤ジャケットのルパン三世風の人物がいるのが可笑しい。
そして大洋戦は小林の好投で巨人が大きくリード。もはや勝敗は決したと思われた時、リリーフに飛雄馬が登板。左門と戦うためだ。ここから何と29球にも渡る激闘が描かれる。フォアボールにはさせず、真向勝負での勝利を望む左門。全力で投球する飛雄馬。
21球目の投球後のアナウンサーの「ペナントの行方を争う一戦ではありません。試合の勝敗を決する場面でもありません。しかし!この息詰まるような戦いに誰一人として立ち上がるお客さんはいません!」その中継を自宅で見ながらの花形の独白「君たちのその姿は、今の僕には限りなく妬ましい・・・」は熱い。
昭和51年は前作のようなライバルたちとの激闘ではなく、飛雄馬は巨人軍に復帰出来るのか?という一点に絞られた内容だった。シーズン最終戦でついにライバルの一人との対決が実現したが、これは次なるステージを予感させる回だったと言えるだろう。作画がやや低調なのがもったいない内容だった。
第38話「奪還!栄光のV1」
「俺は投げる!球団史上初の最下位から死にもの狂いで這い上がり、栄光のV1を掴もうとしている巨人軍のために!!」
「昭和51年10月11日 後楽園球場」で王選手がベーブ・ルースの記録を抜く715号本塁打を達成したシーンからスタート。今回はまさに1話からの巨人軍と飛雄馬の悲願であるV1を賭けた一戦が描かれたテンションの高い回。
これまで巨人軍復帰までを時間をかけて丁寧に描き、代打、投手復活ときて、最大の目標である巨人軍の栄光を取り戻す時がついに来た。
作画は34話と同じ班でシャープな絵柄が特徴。ペナントレース終盤の阪神戦。7回から登板した飛雄馬はビル・サンダーの予想通り、熱くなりすぎてコントロールを乱し、田淵にデッドボールを与えリリーフ失敗、痛い敗戦を喫してしまう。ついに負傷者を出したことに飛雄馬はショックを受け、宿舎から姿を消す。前作のような失踪癖が久々に。
翌日の巨人はまたも阪神に敗北を喫しV1に危機が。自力優勝するには次の広島戦に勝つしかない状況に追い込まれる。
伴はデッドボールを恐れる飛雄馬は田淵の見舞いに来るだろうと予想し見事的中。弱音を吐く飛雄馬に檄を飛ばし、夜の球場で特訓開始!ここで久々に初期の青シャツとグレーのパンツ姿を見せてくれるのが嬉しい。
青年となった飛雄馬がかつてのように(短時間ではあるが)失踪してしまうのは賛否分かれる点かもしれないが、目隠し姿で打席に立ち、飛雄馬の恐怖心を克服するために協力する姿を見て、伴は本当にイイ奴だと見ていて感動してしまう。この時の飛雄馬の表情も良いので必見である。そして飛雄馬は優勝を賭けた広島戦に遅れて登場。
闘志を燃やした飛雄馬はデッドボールを恐れず力投!広島打線を抑え、ここに長島巨人軍はセ・リーグ優勝を果たす!!
「やりおったな星!!」と涙を流して喜ぶ伴。「良くやった。今のワシには言うべき言葉もない・・・」一人呟く一徹。前回に続き「君が限りなく羨ましい・・!」と拳を握りしめる花形。
そして長島監督の胴上げのシーンで本話は終了。飛雄馬が涙を流して喜ぶ姿は、それまでの苦闘をずっと見ていた視聴者側も胸が熱くなる。
本話は意外にもアニメ版で追加されたオリジナルエピソードである。原作漫画版では胴上げシーンのみ描かれ、試合そのものの描写はなかったが、本話ではその過程をドラマチックに描いた。
球団史上初の屈辱の最下位から一年。ついに長島巨人軍は悲願のV1を達成したのである。
第39話「逆転!日本シリーズ」
「凄いボールだ。ヒューマ・ホシ!素敵な勝負をさせて貰った。サンキュー」
「昭和51年10月23日 後楽園球場」と大きく画面に表記されてスタート。本作はこういう描写が多い。この史実に沿った展開は後半(新巨人の星Ⅱ)からアニメ独自の展開に切り替わるが、この時点では長島巨人の後の低迷は作品内容に影響しておらず、本話前半は日本シリーズで連敗を喫し後がない状況がドキュメントのように淡々と描写される。人口芝が苦手なのか!等、観客のヤジがやたらリアル。ここで印象に残るのが長島監督からの巨人ナインへの言葉。もはや逆転は難しい。しかし1勝を!第4戦を必ず勝利で!という内容だが、ここは逆転をと話すのが漫画的には自然な流れだ。史実で阪急に敗れる結果が分かっているためだろうが、これまたリアルな台詞である。ちなみにここまではアニメオリジナル展開で、原作は星が登板した第4戦(しかし先に阪急に3勝されて後がない!といった描写は無く、第5~6戦の可能性もある)から昭和51年日本シリーズは描かれている。本作は原作を上手く補完したエピソードが多い。これは脚本家が原作を深く理解していたからでこそであり、この痒いところに手が届く展開はもっと評価されて良いのではないか?
強打者・マルカーノに巨人の投手陣は歯が立たず、第4戦にしてリリーフで飛雄馬が登板。荒れ球で阪急打線の勢いを崩す目的だが、デッドボールにビーンボールと荒れ放題。あわや乱闘かという騒ぎになるが、マルカーノは飛雄馬に悪意はないと瞬時に理解し、真向勝負を挑む。このシーンの彼は格好良い。そして飛雄馬はバットをへし折る剛球で、みごとマルカーノを打ち取りリリーフを終え、巨人は柴田選手の本塁打で逆転。第4戦に勝利するのだった。
本作を通して見ると、長島監督と王選手は別格として、柴田選手が活躍する描写が何気に多い。序盤で打者として巨人に復帰する際の大きな壁となった強打者・張本選手より活躍場面が地味に多かったりする。赤グローブが特徴的で、内面描写や物語上大きく取り上げられる事はないが、続けて視聴していると妙に気になってくる存在である。これはもっと掘り下げれば王に次ぐ名キャラになれたのではないか?
第40話「驚異!殺人ライナー」
「俺はやる!今度こそノーコンを克服して、次期シリーズでは必ずやる!!」
日本シリーズ第5戦、第6戦と巨人が勝利し、ついに次の第7戦で決着の流れとなる。最終戦を前に阪急は巨人が追い上げた原因となったリリーフ・星への対策を練る。阪急陣は阪神と同様、全ての選手が関西弁なのが面白い(笑)しかし気にしたら負けである。
今回の作画は非常に良好。昭和51年日本シリーズの決着回という意味だけでなく、「新巨人の星」という作品が史実と合わせた形で最も綺麗に完結できるタイミングの回の作画が綺麗なのは嬉しい。
その第7戦は7回表、阪急が1点リードの状況からスタートし飛雄馬が登板。手におえないノーコン剛速球ではなく、ノーワインドアップ投法が狙われる。即ちコントロールだけでなく守備も不完全な状態である星に狙いを定めピッチャー返しを連発!目の前に迫るボールを思わず「右手」で掴もうとしてしまう飛雄馬!とっさに左時代の癖が出てしまう場面は原作を忠実に再現。ここは非常に良い描写。幼き頃より鍛えられた左時代の癖は簡単に消えるわけがないのだ。
ボールを受け止めきれず左肩を打ち転倒するも、心配する首脳陣に大丈夫と答える飛雄馬。ここでTVを見ながらハラハラする明子といつものようにスーツで決めて観戦している花形のシーン。花形は明子に心配する必要はないと声をかける。あれはかつての星飛雄馬の顔だ。さわやかに燃えていると。
一徹もいつものように自宅でTV観戦しているが、何かいつもより部屋が狭いのは気のせいか?
飛雄馬には秘策があった。再びピッチャー返しが来た時に上空に飛びあがり、スクリュー・スピン!!ボールを蹴り上げ、一気にトリプルプレーでピンチを切り抜ける!!ここで封印したスクリュー・スピン・スライディングの応用技が出たのは非常に嬉しい。あの独特の回転音も久々に聞くことができる。
しかし飛雄馬の活躍も空しく巨人は敗れ、日本シリーズは強敵・阪急が優勝するのだった。飛雄馬は来シーズンの勝利を誓い、右腕で投げた剛速球が画面に迫るイメージシーンで本話は終了。
来期への伏線(花形の描写等)を除けば、この回で最終回と言われても納得できる見どころの多い回であった。
そして次回より物語は新たな展開へ。奇跡のカムバックを果たした飛雄馬を待ち受けるのは何か?
第41話「真実のカムバック賞」
「ノーコンなどと、左から右投げに転向したハンデに甘えていられるのも今シーズン限りだ!」
前回で星飛雄馬の再起、長島巨人軍の最下位からの逆転優勝の物語は一区切りとなった。今回はテンションの高かった前回とは違い、本来の「新巨人の星」らしい(?)地味な印象のエピソード。しかし内容は決して悪くない。この話以降セミレギュラー的に登場する捕手・楠木(くすのき)が登場する回でもある。
彼は非常に温厚な人柄で飛雄馬の良き理解者となるキャラクターである。今まで「壁」として飛雄馬の投球練習に付き合うキャラは度々登場したが、どれも単発の登場だったので最初から楠木がその役割を務めても良かったかもしれない(楠木はこの時点で創造されたキャラであり、結果論にすぎないが)
「カムバック賞」を受賞し、ひとまずの成功を納めた飛雄馬だが、長島監督の言葉からノーコンが通用するのも今季限りと感じ取り、打開策を思いつかないまま特訓を開始する。その練習に付き合う楠木には弟がいた。野球に情熱を燃やしながら、事故により足を怪我してしまい断念せざるを得なくなった弟。彼はリハビリを拒否し自分の殻に閉じこもっていた。初めは見舞いに来た飛雄馬にまで頑なな態度をとった彼だが、左投手から右投手への転向がどれだけ大変な事かを楠木に諭され、泥まみれで一人練習する飛雄馬の姿を見て、新たな人生を前向きに生きて行くと決断する。
よくある「もう治っているのに歩こうとしない」展開ではある。しかし、この回は次回の「ノーコン克服への打開策」の前振りであり、新たに登場したセミレギュラー・楠木を印象付ける回でもあるのだ。その意味では十分成功していると言えるだろう。
さて次回。コントロールが定まらない飛雄馬はどうするのか?
第42話「父一徹の贈りもの」
「姉ちゃんの言う通り、確かに老いた。この人も・・・だがこの姿信じたくなかった。見たくなかった・・・」
冒頭で来シーズンの契約更改について記者の取材を受ける飛雄馬。テスト生として入団したんだから年俸は安かったんだし、どれ位上がったのか?と尋ねられるが、会話がやたら現実的。自主トレ中に一人呟く「去年の今ごろに比べれば、巨人の一員として目的を持ってトレーニングができる今の自分は幸福すぎるくらいだ」その「去年の今ごろ」とはサンダー・伴の協力を得て巨人再起を目指していた頃である。序盤の殺伐とした空気が懐かしい。
そこに明子が訪れ、一徹も来るので再起を祝って花形邸で一緒に食事をしようと誘われる飛雄馬。今回は前作の少年時代等の回想が多い。
ここで一徹に会うのはあの時以来だと第3話の草野球の試合を思い出す。そういえばサングラスを小石で割られて逃亡した時以来、この親子は直接会っていないのだ!これには驚く。第3話は作画レベルが非常に高い回だったが、本話の回想シーンはわざわざ新規で再現。しかし作画の質は劣る。
一徹は花形邸に向かう途中、ジムでトレーニング中の一般人が使用していたエキスパンダーを見てハッとする。老いた自分にもまだできることがあると。そして花形邸に一徹は現れなかった。明子が可哀想である・・・。
後日、街中で再会した飛雄馬と一徹。この二人には似合わない汁粉屋でかつての「大リーグボール養成ギブス」について話す一徹。意外なほど物腰柔らかい態度で飛雄馬に話しかける姿に、かつての球鬼も老いたと感じる飛雄馬・・・。ここは原作でも息子を思いやりながら感情を素直に表せない一徹の滑稽な姿に哀愁を感じる名シーン。
父の姿に落胆し足早に立ち去る飛雄馬だが、一徹から渡された包みの中にあったのは何と「大リーグボール養成ギブス・右投手用」!!次回へ続く。
第43話「闘志に燃えた友情」
「毎日いかなる時もこいつを着けていれば・・・確実にどんな短時間の猛特訓より足腰が強くなる・・・!」
前回ラストで登場した「大リーグボール養成ギブス・右投手用」・・・オリジナルのギブスと異なり下半身に装着するタイプで、強制的に下半身の筋肉を強化する事によりフォームを安定させ、ノーコンを克服することを目的としたギブスである。見た目はオリジナル同様インパクト大!絵になるのは上半身に装着するオリジナルだが、これはこれで強烈。一徹に感謝し、早速装着。バネの反動は凄まじく、飛雄馬は何だか変な歩き方で寮から練習場へ向かう(笑)
前回不在の楠木が今回は出番が多い。実家から選手として芽が出ないのであれば家業を継いで欲しいとたびたび寮に手紙が届いており、自身も「戦力」ではなく「壁」として存在していることに疑問を感じていた。首脳陣から契約更改を望まれるが、条件面でのアップはほとんど無く、自分は必要なのかと思い悩む。(球団は楠木の指導者としての能力を高く評価しているのだが。)楠木はアニメ版のみの登場キャラで、これは当然原作にはないエピソードである。原作の世界観・物語をメイン視聴者層に向けて若干修正した感のあるアニメ版だが、オリジナル部分でこのシビアな展開。脚本家の原作の空気感への理解力は素晴らしいものがあると断言しよう。
また本話で楠木が受け取った手紙の宛先から名前が「一(はじめ)」であると判明。
長島監督に直々に星を育てて欲しいと頼まれる楠木だが、ここでの長島の台詞「今シーズンは星のノーコンを作戦で利用できたが、来シーズンも同じ手が通じるほどプロは甘くない!」は興味深い。幼き頃からの技術の蓄積の無い右投手時代は左投手時代と比べてもさらに苦労の連続という印象。
楠木は長島の言葉にも微妙な反応を見せるが、ギブスを装着して必死にノーコン克服を目指す星の姿を見て契約更改を決意。良き協力者を得た飛雄馬はどうなるのか?固い握手を交わした二人の姿で本話は終了。
所謂モブキャラ扱いだった「壁」にキャラクターを与え、そのエピソードを作ってしまうのはアニメ版の良い点。原作の補完エピソードが良い味を出している。
第44話「始動!宿命の星・花形」
「飛雄馬と花形満の力関係は、潮の満ち引きと月にも似たり。一方が動けばもう一方に波乱が起きる!!」
パート1(全52話)もあと僅か。ここに来て飛雄馬の復活とその活躍に自らの衝動を抑えきれなくなった花形がついに動く!!今回の作画レベルは非常に高い。屋内での特訓シーンはギブスが身体に絡みつき思うように投げられない姿が印象的。腿から足先まで強烈に締め上げられるカットは本当にきつそうに見える。ギブスを装着したままランニング中に女学生に声をかけられるが、楠木の上手いフォローもあり難を逃れる。原作に楠木は存在せず、ビィーーン!ズデン!!と思いっきり転倒する場面だが、美麗な画でそれを見ることが出来なかったのが残念だ(笑)ここはぜひ格好悪く転倒して欲しかった。
ギブスを装着したまま練習に参加する飛雄馬だが、楠木以外は誰もそのことを知らない。無様な姿を遠目に見ている花形と一徹。花形は飛雄馬は何かを隠していると気づく。そして、その「聞き覚えのある音」に驚くのだった。その後、花形が家を留守にする事が増え、明子は一徹に不安を打ち明ける。一徹は二人の関係を潮の満ち引きと月との関係に例え、一方が動けば一方に波乱が起きると何かを予想するのだった・・・・。
花形は秘かにバッティングセンターを貸切り一人打撃特訓を始めていた。
このバッティングセンター。原作は「梶原バッティングセンター」で笑えるが、アニメでは「山田バッティングセンター」という無難なネーミングに。これも原作通りにして欲しかったところである。
そして飛雄馬の練習中の重い動きに落胆した様子の長島監督を見て、楠木は我慢できず、秘密にしていた右投手用ギブスのことを話してしまう。ベンチ内でギブスを目の当たりにし、驚く長島監督。そのひたむきな努力に脱帽し、楠木に星を頼むぞ!と声をかけ終了。
日本シリーズ終了からしばらくは来シーズンへ向けてキャラクターの整理、新ライバル登場等、地道に舞台を整えている印象である。次回は久々にビル・サンダー登場。
第45話「喧嘩家マックの挑戦」
「ユーとの戦いは、まだ最初の1ページが開いたばかりです!」
41話から続く「展開編」もあと少し。序盤から登場した名キャラであるビル・サンダーが帰国。阪神のコーチとなり、掛布を訓練しスクリュー・スピン・スライディングを破った時がピークで、以降徐々に出番が少なくなっていたが今回で退場となった。阪神のコーチの契約更新を断った理由は原作と異なる。原作はアメリカで行っているビジネスが自分を必要としているのが主な理由。アニメでは飛雄馬が巨人軍に復帰した時点で役目は終了したと帰国を口にするエピソードがあったが、そこから阪神コーチへ就任し敵となる展開だったので、右投手としての成長を確認した上で帰国するか否かを決めるという流れとなった。
彼が呼び寄せたマイケル・ブラウン「喧嘩屋マック」はビル・サンダーの弟子の一人。大柄の強打者、黒人選手、そして声・・・前作の名ライバル・オズマを連想せずにはいられない。ただし性格は荒っぽくオズマとは全く異なる。荒っぽい外人選手は後にもっとトンデモなキャラが登場するが、それはまた別の話。
かつて巨人復帰を目指した伴重工業のグラウンドで対決する流れとなるが、伴が飛雄馬に電話した時にマックの事を話せずにいたら、帰国前に思い出のグラウンドで再会しようということなんだろう?喜んで行くよ!と明るく答えて勝手に電話を切るシーンが可笑しい。
右投手用ギブスを初めて外しての対決。コントロールが確実に改善されつつあり、強打者マックとの勝負は見事飛雄馬の勝利に終わる。サンダーは安心して帰国を決意するのだった。ここで次なる刺客を送り込むことを匂わせる発言が。これは47話の前振り。
ビル・サンダーは非常に良いキャラだったので退場は惜しい。笑顔で去っていく彼の姿を見ると寂しくもなるが、原作では新聞記事で飛雄馬が帰国を知る描写のみだったので、固い握手を交わして去って行く話が作られたことは良かったのではないかと思う。
第46話「輝け栄光!王貞治」
「俺は恐れている・・・いつになく恐れている・・・!!」
次シーズンに向けて始動した巨人軍は宮崎キャンプ入り。原作では昭和52年新春の描写がわずかにあったが、アニメ版ではいつの間にか年が明けていた。(選手たちが帰省する描写や44話で雪が降っている描写はある。)前年の年末年始、そして宮崎キャンプ入りまでの流れは非常にドラマチックな展開だったが、既に巨人入りを果たしている本年は飛雄馬自身はコントロール改善を目指す描写一点に集中した形となる。
本話では少年時代の飛雄馬と王との出会いを前作の流用ではなく新作画で再現。そして「一本足打法」の完成までのドラマが描かれる。今までありそうでなかった「王貞治物語」で、主役は間違いなく王である。前作でもたびたび描かれた実在の選手に焦点を当てた回が本作でも実現。物語の流れには直接の影響はないが、話とキャラクターに厚みを持たせる意味でもこういった回が制作された意義は大いにあるのではないだろうか。
荒川コーチの下で世間の悪評には耳を貸さず、ひたむきに努力を重ね、ついに一本足打法を完成させる王は実に格好良い。ちなみに王が宿泊している部屋の番号は彼が達成した本塁打記録である「756号室」これは製作者の遊び心である。
大リーグボール養成ギブス・右投手用の効果でコントロールが改善されつつある飛雄馬は長島監督から王との勝負を指示される。王の迫力に一度は萎縮する飛雄馬だが、その王の言葉に闘志を取り戻し、後日真剣勝負に挑む。結果はまだ王が調整中ということもあり飛雄馬の勝利に終わるのだった。
さて次回。サンダーが口にした「(飛雄馬との戦いは)最初の1ページが開いたばかり」の意味とは?
第47話「ミスター虎の正体」
「ヒューマ・ホシとか言う男にお前達から伝えておけ!!巨人とホシだけには絶対負けるなとミスター・ビッグ・サンダーに言われて来たとな・・・!」
パート1も残り数話。ついに第3のライバルとなる「本物の虎」ロメオ・南条が登場!!物語は花形の打撃特訓からスタート。バッティングセンターでひたすらボールを打ち込む花形。本気で球界復帰の意思があることが台詞から分かる。かつては飛雄馬の球界復帰を本気で阻止しようとしていた花形が、今度は飛雄馬を追って球界復帰を目指す展開は熱い。特訓を終え帰宅し、新聞を読むとサンダーが豪語した「本物の虎が来日」とある。ついに来たか・・・と思う花形だが、アニメ版ではサンダーが本物の虎を送り込むとマスコミに明かすシーンはない。(原作漫画版では新聞記事で触れている。)アニメ版では45話でサンダーが飛雄馬に新たなる戦いが始まったことを口にするだけである。矛盾というほどではないが、効果的な細かい補完が多い本作。ここは台詞一言でも前話までに入れて欲しかった。
そして場面は変わり、国際空港に飛行機が到着。ロメオ・南条がその姿を現す!新BGMがここで使用され、強敵登場のシーンを盛り上げる。花形とは違う荒々しい、線の太い男前の容姿。原作では黒系の服のイメージだがアニメ版では茶系に統一。彼の存在が気になり空港までやって来た花形と一対一で対峙するシーンは貴重。新ライバルと復帰を目指す宿命のライバルが二人並んでいるのは面白い。
アニメ版では物語の構成上、ロメオは活躍の機会が原作漫画版より少なくなってしまったのが残念。この回の登場シーンのインパクトは十分なだけに。
記者の質問に気分を害したロメオは同席した伴にダンスホールに案内してくれと話す。ロメオの踊りに対して「疲れるの~~!」と言いながら必死に踊る伴が可笑しい(笑)
飛雄馬は来季のライバルとの対決に向けてひたむきに投げ込む。そして花形は仕事で一週間ほど家を空けると明子に伝えたにも関わらず、何とハワイまで来ていた。球界復帰を目指す特訓のために。もはや花形を止めることはできない。どうなる次回?
第48話「試練のテスト生・花形」
「かつては巨人のエースでありながら、昨年春の巨人キャンプでテスト生からカムバックした男と僕は戦うんです!!」
明子にも内緒で一人球界復帰を目指していた花形がついに日本球界と接触。花形が入団を希望したのは阪神ではなくヤクルトだった。当時のヤクルトの勢いも背景にあるが、世間的には花形=阪神のイメージが強いので初見の方は驚くのでは?しかし新の花形には洗練されたイメージのヤクルトが最も似合う球団と筆者は考える。
また原作ではロメオの阪神に入団をテレビで知り、阪神復帰を諦めるシーンが存在するがアニメではない。純粋に一からのスタートを目指す意味でのヤクルト希望となっている。ここは少々残念に思うが、やはりリアルすぎる故の変更だろうか?広岡監督に球界復帰の真の目的を話す花形。星飛雄馬と戦うためと断言する姿は格好良い。条件面の話し合いは不要、あくまでテスト生としてヤクルトに必要か判断して欲しいと伝え、二人は固い握手を交わす!
そして後日ヤクルトのキャンプでノックを受ける花形の姿が新聞記事に。それを見て取り乱す明子は一徹の住む川原荘へ向かう。「あの鬼オヤジでは明子さんをイビリこそすれ、決して慰めたりはせんからのう!」と一徹のことを非常に良く分かっている伴も援軍に駆けつけるのだった(笑)
しかし、実の親子ですら左腕が破壊されるまで戦い続けたという一徹の言葉に二人は沈黙。そして宿命のライバルが戻ってくる可能性を知った飛雄馬は闘志を燃やす。既にレギュラー化している楠木は良き理解者として飛雄馬の練習相手となっている。
次回花形の入団テストとなるが、本話はその前振りの回となる。飛雄馬が右投手として洗練されるにつれ、むしろ周囲のキャラが掘り下げられているのが日本シリーズ終了後の特徴。徐々に来シーズンへの準備が整ってきた感がある。
第49話「華麗なる復帰」
「花形は耐える価値のある男よ!」
この回は花形がひたすら格好良い姿を見せつけてくれる。しかも作画は最高レベル。パート1も徐々に良作画回が多くなってきた。物語は飛雄馬が復帰した花形に打たれる悪夢から目覚めるシーンからスタート。テスト生としてヤクルトのキャンプに参加しているが、本当に復帰できるかは分からないと口にする楠木に対し、花形は必ず帰ってくると断言する飛雄馬。序盤の飛雄馬と花形との立場が逆になっているのが面白い。そして場面は湯之元のヤクルトキャンプ地へ移り、紅白戦がスタート。明子は秘かにキャンプ地へ足を運んでいるのだった。
この紅白戦は花形の格好良さが爆発!この回はこの作画班でなければ絶対に成立しなかったであろう。悪意あるビーンボールは軽く避け、豪快なスライディング(この時のドヤ顔が素晴らしい)で魅せてくれる。広岡監督は花形がかつての阪神時代から全く衰えていない事に驚く。
ここから巨人の宮崎キャンプと交互にシーンが切り替わり、右投手用ギブスでコントロールが改善されつつある飛雄馬の練習シーンが。いつかきっと対決する時が来る!飛雄馬は闘志を燃やすのだった。
紅白戦でトリプルプレーまで飛び出し、その場にいたオーナーは花形と即契約するよう広岡監督に声をかける。このオーナーの容姿・・・とても一般人には見えない。どこから見ても反社会勢力なのが可笑しい。葉巻まで持ってるのはやり過ぎである(笑)
勢いに乗る花形がボールをキャッチする場面はわざわざ止め画で三方向から描く演出。とにかく花形は何をやっても華やかで格好良いことを思い知らされる(笑)
花形の表情を見て、明子は一徹の言葉を思い出し、あえて声をかけずに立ち去る。そして今度は飛雄馬のいる宮崎へ。姉が来ていることに気づいた飛雄馬は明子の心境を察し、心苦しい思いを抱きつつ、もはや止めることはできないと詫びるのだった。ここでは本作では珍しい姉と弟が喫茶店で話すシーンが見られる。明子は静かに宮崎を去る・・・。
「天才・花形満」まさに華麗なる復帰!他のライバルたちの魅力と実力を認めつつ、やはり花形は別格であると感じる回となった。
第50話「右投手用ギブスの成果」
「大リーグボール養成ギブス・右投手用。ありがとう・・・」
昭和52年ペナントレース開幕近し。花形、ロメオ、左門はそれぞれオープン戦での活躍で紙面を賑わせていたが飛雄馬はまだ出番がない状況。長島監督は星のコントロール改善を見せつけるにふさわしい舞台のためにあえて温存していたという展開。その舞台とは昨シーズン敗れた阪急との一戦だった。原作漫画版では飛雄馬はクラウンライターライオンズ戦で完封。花形は南海ホークス戦、ロメオは日本ハム戦でそれぞれ活躍、ロメオはランニングホーマーを見せつけた後にオープン戦は給料に響かないと交代を申し出る印象的な場面があるが、アニメ版にはなく、左門だけが送りバントで「なしてわしには見せ場がまわらんとか?」と語るオチもない。ここは残念。三者共等しく快打を見せつけるシーンが短時間で描かれ、コントロール改善した飛雄馬をじっくり描く内容となった。
短期間で制球力の問題を克服した飛雄馬に驚く阪急打線。もはやノーワインドアップ投法狙いの策は通じない。打てるものなら打ってみろ!と気迫で阪急打線を抑え込む。6回までの登板となったが、守備に関しては未完成なところがあり、エラーでパーフェクトを逃してしまう描写があるのが細かい。そしてビッチャー返しも真正面から受け止める!阪急・上田監督はその成長に驚き、再び日本シリーズで戦うその日を思い闘志を燃やすのだった。
試合が終わり、公園で子供に野球を教えていた一徹にギブスの礼を言い、足早に立ち去る飛雄馬・・・。実は今回このシーンが一番の山か。
子供たちに「また今度野球教えてね!」と言われ、優しく接する一徹。子供たちが去った後、「このワシに見込まれんようにせいよ・・・一生野球地獄を彷徨うことになった男もおるでな・・・」と寂しげな表情で語る姿は印象深い。
第51話「コンピューター対飛雄馬」
「始まるのか・・・いよいよ野球地獄の本番が!」
パート1も残りあと1回となった。ここで前作以来となる花形の父親が登場。声も前作と同じなのは嬉しい。ちなみに花形の父親は原作漫画版「新巨人の星」では未登場である。球界復帰を思い留まらせようと説得するが、息子は聞く耳を持たない。「明子は分かってくれるはず・・・」と心苦しい表情を見せつつ、その場を立ち去ってしまうのだった。シリアスなシーンだが、ここで背中を丸めて自信なさげに話す花形が可笑しい。
花形の行く先は「コンピューターゴルフ練習場」・・・。一体何があるのか気になる所だが、詳細なデータを基に再現された飛雄馬(の映像)が怪しげな被り物姿の花形に向けて投げてくるシステム。現在でいうヴァーチャル(仮想現実)映像のようなもの。当時としては突飛な演出かもしれないが、今となっては現実がそれに追いついてしまったのが面白い。
このシミュレーションで今のままでは飛雄馬の速球に振り遅れると分かり、花形は特訓に励む。そしてオープン戦最終の巨人・ヤクルト戦の日がやって来た。堀内投手が先発となり、リリーフで飛雄馬は待機。復帰した花形との初対決はこの最終戦に回ってきた。原作ではペナントレース開幕後の初対決となったが、アニメでは前倒しに。ここは原作通りにして欲しかったが、おそらく前倒しになったのは本作が一旦完結となるためではないだろうか。
次回が昭和52年ペナントレース開幕とロメオとの初対決なので、その前に一度宿命のライバルとの対決を入れたかったのでは?(そうでなければ華麗なる復帰を果たした花形の出番がないまま、番組は一旦終了してしまう。)この推測が正しければ、残り話数の関係上、初対決がオープン戦となったのはもったいなかったと思う。
全力の対決を花形は望み、飛雄馬もそれに応える。結果は飛雄馬の勝利となったが、本番ではこうはいかない。これから本当の野球地獄が始まるのだと一徹は一人呟くのだった。
第52話「はばたけ飛雄馬」
「花形、左門、そして飛雄馬。変わらんのう。昔とちっとも変わらん・・・野球という嵐が彼等に吹き荒れる。宿命の男たち・・・炎のごとく燃え、稲妻のごとく暴れ、凄まじい火花を散らしてぶつかり合う!!」
アニメ版「新巨人の星」は無事に一年の放送を終え、本話で一旦終了となった。41話以降、ノーコン克服、良き理解者である楠木の登場、サンダーの帰国、球界復帰に揺れていた花形の動向、ロメオ・南条の登場と地道に来シーズンへの準備を進めていた感があるが、この第52話でついに昭和52年ペナントレース開幕となった。ここで一旦終わってしまうのが非常に惜しい。とは言え、予定通りの一年間の放送であり、原作にほぼ追いついてしまった事情もある。原作はそのままアニメ化するには困難な展開(※原作漫画版第6章「不死鳥の章」解説参照)となるので、仮に放送が継続していたらどうなったのだろうか?
後番組「宇宙戦艦ヤマト2」も元々約半年間の放送を予定しており、その後の再開もこの時点で既に決定している。現在ネット等に散見する根拠なき打ち切り説は明確に否定しておこう。
さて今回。ミスター虎であるロメオ・南条との初対決がメインとなった。作画は34話が特に印象的だった、キャラクターの頭身が高くシャープな画が特徴の班。この班がパート1最終回担当だったのは嬉しい。
開幕直後からランニングホーマーを決め活躍するロメオ。記者団の質問には飛雄馬に対して敵意を剥き出しにした発言。一体ビル・サンダーは彼に何を吹き込んだのか突っ込みたくなる程である(笑)
後楽園球場で迎えた阪神との第一戦で飛雄馬は先発。伴は(いつものように)重役会議をサボり後楽園球場へ向かう。何気ないシーンだが、社屋入口からタクシーに乗り球場へ向かうシーンで伴重工業が後楽園に近い位置に立地していた事が判明。一徹の部屋には近所の幼い兄妹が来て一緒にテレビ観戦。ここは微笑ましいシーン。前回と同じく子供に慕われている一徹。当然、飛雄馬との関係を子供たちは知るよしもない。明子も吹っ切れたのか一徹宅を訪れ、飛雄馬を見守るのだった。
好調の飛雄馬は1番、2番打者と打ち取り、ついにロメオとの対決となる。南米リーグで速球投手に馴れていいるロメオはいきなり飛雄馬の速球を打ち出塁!一塁でヘルメットをコーチに投げ渡す姿を見て、王は彼はマナーが悪く自己顕示欲の強いタイプだ。惑わされるな!と助言。続けて田淵、更に掛布。冷静さを取り戻した飛雄馬はロメオのホームスチールを見破る!!ロメオは激しく悔しがり、掛布はロメオの身勝手な判断に怒る。試合は巨人の勝利で終わった。
一徹と明子は昔と何も変わらない、飛雄馬、花形、左門、今も彼らは火花を散らし戦っている・・・としみじみと語るのだった。
ここで朝日をバックに飛雄馬が走るイメージシーンが流れ、本作は一旦終了となる。(これは前作オープニングのラストを意識した演出だろうか?又は、エンディングの歌詞「夕日に消えたあのヒーローが朝日を浴びて帰って来たぞ」を意識したものだろうか?)
パート1全52話を通して感じるのが、原作で僅かに触れた描写を拾い、それを膨らませ物語を補完していること。所謂引き延ばし的なものではなく、原作を熟知していなければできない上手いフォローが多かった。逆に変更されて残念だった描写やテンポが悪くなった話もなくはないが、全体的には上手く纏まっていたと言えるだろう。
作画に関しては徐々に改善されていった感があるが、当たり外れの回があったのは事実である。(ここはパート2で更に改善されていく)
右投手として甦った飛雄馬の戦いはまだまだ続く。半年の空白期間を経て、物語は次回へ続く。
新巨人の星Ⅱ
第1話(通算第53話)「明日の栄光をつかめ」
「勝負の世界に過去の影響など何の役にも立たない。ただひたすら前へ。前へ!!」
半年の休止期間を経て、「新巨人の星Ⅱ」のタイトルで再スタート。オープニングは「行け行け飛雄馬」から「心に汗を」に変更。「ゆけゆけ飛雄馬」はエンディングとなった。前話は昭和52年日本シリーズ開幕直後で終了となったが、本話はいつの時期なのかこの時点では不明。飛雄馬は今季早くも3勝、巨人の切り札に成長しつつあると新聞記事にある。新規のBGM使用が増える本作だが、本話は全て新曲使用で52話から続けて視聴すると驚くかもしれない。オリジナル「巨人の星」とイメージ的に近かったパート1の曲と違い、パート2の曲は放送された年代を感じる雰囲気。爽やかな印象で所謂スポ根の時代ではなくなりつつあったと感じる。この回が放送される少し前に原作漫画版は連載が終了しており、パート1が終了した時点では第6章「不死鳥の章」辺りが連載中だった。「不死鳥の章」はアニメ化されておらず、原作のストックはほとんどない状態。主に第5章「噴火の章」の一部と第7章「新魔球の章」をベースにパート2は製作されている。また本作とほぼ同時期に「巨人のサムライ炎」が週刊読売誌上で連載スタート。今までは原作をベースに細かい補完がなされた印象だったアニメ版だが、ここから独自の展開に進んで行く。物語は母校である青雲高校に来賓として呼ばれた飛雄馬の前に、かつての伴を思わせる荒々しい青年・丸目が現れるところからスタート。レスリング部主将で野球部を軽視しており、飛雄馬や伴にも悪態をつく。挑発する彼に対し、飛雄馬は一球でも取れたら君の勝ちだとミットを渡す。その速球にボコボコにされる丸目だが、徐々に動きが様になってきているのに伴は気付く。そして辛うじてボールをキャッチした後に気絶。実は飛雄馬も丸目の才能に気づいていた。この回は実質新キャラである丸目の紹介編となる内容。伴の野球部への誘いを一度は断る彼だったが、飛雄馬のマウンドでの姿を見て入部を決意。果たして?
第2話(通算第54話)「対決!飛雄馬対花形」
「だが次の打席は負けない。もし駄目でも次の試合、次の試合に必ず君を打ち破る!」
第2話にして早くもライバルとの対決回となった。やはり放送初期の段階で視聴者の興味を引く必要があっての事だろうか?作画レベルも非常に高い。
今回丸目は登場しないが、同じく新キャラとなる飛雄馬を慕う幸子や子供たちが登場。パート2は人間・星飛雄馬の描写にも力を入れると当時の雑誌記事等で製作スタッフが語っており、そのための新キャラクターと思われる。
どういうわけか子供たちが巨人軍の寮に入り込み飛雄馬を叩き起こすのだが、部屋のレイアウトがパート1と変わっている(楠木のベッドがなく、明らかに一人部屋になっている)子供たちとの会話のシーンでは今まであまり描かれなかった豊かな表情の飛雄馬が見られる。賛否分かれるかもしれないが、今まで私生活の描写がほとんどなかったのは事実で、野球を離れた場での姿も描くことでドラマをより充実させる意図があった。
今回は再び花形との対決となり、51話に続き独特すぎるアイデアの特訓に挑む花形。いつもの右打席ではなく、より有利な左打席に立つことを想定し、その上でプールの水流の中でバットを振り、剛速球に打ち勝つ特訓である。切り札として成長しつつある飛雄馬は今回も絶好調。花形の特訓は前回と同じく一見とても変だが(笑)確実に効果があった。しかし飛雄馬の球はそれをも上回り、その球威で花形のバットは折れてしまう。再度の対決は飛雄馬の勝利、必ず次は打ち破ると宣言する花形に対し、改めて闘志を燃やす飛雄馬であった。
今回も大半の場面で、新BGMが使用されていたが、対決シーンではオリジナル「巨人の星」の後半で使用された曲を流用。重厚な雰囲気の曲はやはり合う。
さて次回。52話で初対決となったロメオ・南条が再び登場。
第3話(通算第55話)「吠えろ!南米の虎」
「口数が多いぞロメオ。勝負はグラウンドでつける!!」
52話で初対決となったロメオ・南条との再度の対決を描く本話だが、今回が最後の登場となってしまった。
その内容はライバルとの対決を描く一エピソードとしては十分面白いが、ライバルの退場回としてふさわしいとは思えない。彼が去る描写はなく、残念ながらアニメ版では花形・左門に続く第3の強敵という地位を確立することなく自然消滅してしまった。
原作漫画でも決して見せ場に恵まれたわけではないが、恋敵としての側面や最終章で彼らしい考えで飛雄馬に挑むエピソードが作られているので、早々と姿を消してしまったのは残念でならない。ビル・サンダーの弟子としてもっと出番が欲しかった。
この回は序盤の敗北からの逆転勝利までテンポ良く進む。原作にはない幼少期のロメオの姿も描かれている。
好調の飛雄馬だったが、9回2アウト、味方のエラーでピンチに追い込まれる。ここで打席に立ったロメオは独特のリズムに乗って決め球をホームラン!逆転スリーランを打たれた飛雄馬は敗北!
長島監督の意向により翌日の阪神との第2戦はベンチ入りを免除された飛雄馬は自分を応援してくれる少女・幸子の誘いでバレーの試合を観戦。ロメオが育った国・ブラジルのチームはサンバのリズムに合わせて攻撃を繰り出し、日本チームは苦戦しつつも時間差攻撃により辛うじて勝利する。これにヒントを得た飛雄馬は阪神との第3戦に登板。ロメオのリズム打法を崩し、見事打ち取る!演出が分かりにくいが、ここは投球動作開始からボールを放つまでのタイミングをずらしたことで打ち取ったと思われる。
ロメオの最後のカットはリズム打法敗北を悔しがる姿だった。まさかこれで退場とは当時誰も思わなかったのではないだろうか。
本話で飛雄馬が良く立ち寄る店「巨人寿司」と幸子の父親が登場。長島監督は出番がまだ少ない。一徹、明子は未登場。そして飛雄馬が打倒ロメオのために一人投げ込むシーンに捕手・楠木の姿はなかった。これは寂しい。彼の協力者としての立場は、今後丸目に引き継がれる事になる。
第4話(通算第56話)「左門の握った秘密」
「そんな馬鹿な・・・!!俺の手から球が離れると同時に打席を外していた!!」
パート2開始から4話目。1話は新キャラである丸目の登場、2、3話と花形、ロメオとの対決とオリジナル展開が続いたが、本話は原作漫画版第5章「噴火の章」で飛雄馬の致命的な欠陥に左門が気付くエピソードを基に作られている。
この回はとにかく左門が格好良い!そして非常に面白い。右投手復活後のライバルとの対決回では現時点で一番良かったのではないか。
久々に京子、左門の弟妹たちも登場。何気に電話を取り次ぐ場面で飛雄馬と京子が直接話すシーンがある(本当に電話を取り次ぐだけなのが少し残念)
左門は飛雄馬の驚異的な剛速球の打倒を目指し研究を重ねるが、バットに当てるのが精一杯な状態。しかし、球団職員に依頼していた飛雄馬の投球映像を自宅の映写機で見ていた時、そのスクリーンを反対側で見ていた妹の「左手で投げてる・・・」その言葉にハッとなりスクリーンの裏側で映像を確認する左門。かつての左時代と何かが違う・・・!
そして迎えた大洋戦。左門は飛雄馬の球を見送り試合終了となるが、自らの推測「飛雄馬の投球フォームには致命的な穴がある」が正しいことを確信。続けて翌日の試合。絶好調の飛雄馬は左門一人に滅多打ちにされてしまう。絶対の自信のある球をミートされシングルヒット。ここでシュートが来ることが読めても、その威力から凡打になると予想し見送るシーンが左門らしい。二打席目はレフトにホームラン。三打席目は長島監督の指示で内角高めの球でペースを崩そうとするが、左門は飛雄馬の手から球が離れると同時に打席を外す!ここが非常に格好良い。まさにデータ魔・左門の本領発揮と言えよう。
そして三塁打を放ち、続けて四打席目は二塁打を放ち、サイクルヒットを達成。左門一人に巨人は敗れるのだった・・・。肩を落とす飛雄馬に二軍行きを告げる長島監督。果たしてどうなる?
今回は原作のエピソードにパート2独自の要素(幸子たちも話のテンポを崩さない程度に登場)を上手く付け足した回と言えるだろう。
第5話(通算第57話)「王貞治の忠告」
「怖い・・・今ここで俺の欠点が暴露される・・・だが、乗り越えなければ!!」
前回投球フォームを見抜かれ、左門一人に完敗してしまった飛雄馬。今回は34話、52話と同じ班が作画担当。動きが滑らかでキャラの等身が高く、原作に一番雰囲気が近いのはこの班の作画ではないか。そして飛雄馬の秘密は大洋ナインに伝わるところとなる。左門は飛雄馬が不死鳥のように復活することを願うのだった。
悔しさを隠せない飛雄馬は宿舎に戻らず町を彷徨い、そのまま夜の居酒屋へ。そこにはかつて左腕を痛めて右をメインとした戦法に転向するも成功できなかった元プロボクサーの老人がいた。右に転向した途端、相手に動きがことごとく読まれてしまった話を自分に置き換え、自らに致命的な弱点があるのでは?と考える。しかしそれが何か分からない・・・・。
後日、伴はようやく見つけた星に共に弱点を発見しようと提案する。そして投球練習を始めたところに王が突然現れる。彼は飛雄馬の球種を当ててみせると断言し、左門同様に全てを見抜く。実は飛雄馬の二軍落ちを進言したのは王だった。
原作では自らの打撃フォームの調整のために飛雄馬に投手を頼んだ際、その致命的な欠点に気付き、後に左門にも打ち込まれる展開となったが、アニメでは以前から薄々気付いていたという展開となった。ここは少し残念な気がする。全てが手遅れとなる前に二軍落ちとなった飛雄馬。落胆した彼だが、ここで以前と違うのは最後に笑顔を見せること。ドン底に沈んだまましばらく浮き上がってこなかった以前と比べ、その状況を受け入れ前向きに捉えようとしていることに精神的な成長を感じる。最後は伴と同じく飛雄馬を心配し探していた幸子に笑顔を見せ本話は終了。
そして本作は、あくまで原作を基本としつつ次回よりさらにオリジナル色の強い展開となる。さてどうなる?
第6話(通算第58話)「高校野球の暴れん坊」
「あのスイングのスピードとパワーはとても高校生とは思えん。一体誰なんだ・・・あいつは。」
1話(53話)に登場した新キャラクター・丸目が今回から本格的にレギュラー化。原作未登場のこの丸目が物語にどう関わってくるのか注目したい。
1話ラストで飛雄馬と伴の母校・青雲野球部への入部を決意した丸目だが、他校の応援団と乱闘騒ぎを起こし甲子園出場辞退の危機が。しかし丸目はその必要はないと退学届を用意していた。安易な考えの丸目に怒り、久々の柔道技で投げ飛ばす伴。今回は作画レベルが非常に高い班が担当しているが、美形キャラは一切登場しないのでもったいない気もする(笑)
母校も野球も簡単に捨てようとする丸目に対し、伴は星の姿を見せようと多摩川グラウンドへ強引に連れて行く。そこには二軍落ちし、一軍の背後で球拾いをしている飛雄馬が。かつてのエースも落ち目だなと笑う丸目だが、飛雄馬はキャッチしたボールを正確にノッカーの足元に投げボールを揃えていたことに驚く。
一軍の練習が終わり、フォーム改善の特訓を始めた飛雄馬の前に丸目はもう一度勝負しろと乱入。飛雄馬はその勝負を受け、プロの本気の球で丸目を打ち取る。悔しがり立ち去る丸目だったが、そのスイングのスピード、パワーは高校生のレベルを超えており、飛雄馬、そしてその勝負を見ていた長島監督は驚く。またもや完敗し声を上げて悔しがる丸目の姿で本話は終了。
丸目はその性格、容姿、設定等々、引退した伴の代わりに「飛雄馬の相棒」を勤めるために作られたキャラであることは間違いない。41話~52話まで登場した良き理解者である楠木が自然消滅しているのが残念ではあるが、楠木は精神的に大人であり、球団には選手としてではなく投手を育成する優れた能力を評価されている存在であった。地味ながら良いキャラだったが、あくまで「壁」としての立場であり、共に戦う相棒という意味では丸目への交代は正解だっただろう。(楠木は劇中で語られていた通り、家族のために故郷に帰ったと解釈したい)
第7話(通算第59話)「丸目、野球にかけろ!!」
「お、俺は・・・野球をやりてえよ!野球をやりてえんだよーーー!!」
引き続き丸目に焦点を当てた回となる。力の入った脚本で見どころも多く、この新キャラクターを本格的に育てて行こうとしていることが良く分かる。
半ばヤケになっている丸目は草野球の試合で代打を買って出て本塁打を放ち高笑い。野球なんか子供の遊びだと吐き捨てて立ち去る。彼は自分が野球に惹かれていると認められずにいた。苛々しながら夜になって帰宅すると、丸目の兄(運送会社運営・常識人)から鉄拳制裁を食らう。プロレスに入門したいと弟・太に頼まれてジムの会長に頭を下げていたのに当の本人は約束を忘れていたらしい。怒って当たり前だ(笑)男の勝負の世界にお前のような生半可な奴は通じないと諭す兄。弟より遥かにマトモだ・・・
また、長島監督が独自に丸目について調査していた事が判明。偶然の一致だろうが、ここは「巨人のサムライ炎」で主人公・水木炎の素性を探らせていた展開を知っていると思わずニヤリとしてしまう。
その頃、飛雄馬は二軍の試合の為遠征へ。幸子たちが駅で飛雄馬を見送るシーンが大変微笑ましい。今後も子供たちは登場し、今まで見られなかった穏やかな表情の飛雄馬が見られる。これはパート2の特徴の一つ。
飛雄馬を追って丸目は二軍戦を観戦。ヤジを飛ばすがフォーム改善を目指す飛雄馬は意に介さずヤクルト打線を抑え、二軍監督より一軍へ戻るよう指示される。王に指摘されてからのフォーム改善描写は原作漫画版でも少なかったが、アニメ版も本話でほぼ改善に成功。ただし、左門らに打ち勝つ「切り札」を得るため、二軍残留を希望する独自の展開となった。
球場に一人残っていた丸目。飛雄馬は丸目が投げ捨てたミットを渡し、ボールを受けるよう声をかける。その剛速球を受けた丸目は涙を流しながらついに本心を叫ぶ。俺は野球をやりたい!と。この場面は熱い。
「行くぞ丸目!!」「おう!どんと来い!!」
伴に代わる第2の相棒が誕生した。
第8話(通算第60話)「型破りの新入り」
「星さん!あんた一体、何を怖がってるんだ!!」
丸目は正式に巨人入団。青雲高校は退学したと思われる。奇しくも飛雄馬と同じ道をたどることになった。違うのは戦力不足の巨人側からのスカウトということ。(同じ原作者の「侍ジャイアンツ」的な入団)
丸目は初日から遅れて寮に到着し、お約束で寮長に怒られ四階の部屋まで逆立ちで進む。ここは体力よりバランス感覚の方に驚いてしまう(笑)
丸目は飛雄馬と同部屋となり、改めて楠木はもういないのだな・・・と実感させられる。その豪快な態度を見てかつての伴のようだと呟く飛雄馬。ここで左腕破壊の回想シーンがあるが、これは今後の展開の前振りとなる。
しばらく寝ていた(伸びていた)丸目だが、夜中に目を覚ますと一人特訓している飛雄馬を発見し驚く。(飛雄馬がライバルに打ち勝つにはこのままでは駄目だと独白する場面でロメオ・左門・花形が描かれるが、やはりロメオは3話(55話)で正式に退場したわけではなく自然消滅だったのだろう。)その後、練習を終えた飛雄馬は部屋に戻り休むものの悪夢にうなされる・・・丸目はそれを見て「何かを恐れている」と察するのだった。
翌日、二軍戦でラフプレーから乱闘騒ぎを起こしそうになった丸目を力づくで止める飛雄馬。丸目は出てくるたびに誰かに殴られるのが可笑しい。今回も派手に吹っ飛んでいる(笑)
その後、伴に自分に代わり星の女房役としてのサポートを頼まれるが断る丸目。すぐにでも一軍に戻れるのになぜ戻らない?と批判するが、星は納得するまで戻らないだろうと答える伴。それを鼻で笑う丸目だったが、一人グラウンド整備している飛雄馬の前に現れ、野球を勧めておきながらなぜ自分は逃げる、何を怖がっているのかと訴える。女房役はできないが協力はしてやってもいいと気持ちを上手く表現できない丸目は良い奴だ。その言葉によって飛雄馬は覚悟を決める。「右投手用大リーグボール」を開発すると!話数が60回まで進み、ついに新魔球について触れる時が来た。今後を期待させ次回へ。
第9話(通算第61話)「めざせ!大リーグボール」
「み、見えた・・・だ、大リーグボール・・・」
ついに新大リーグボール編スタート。パート2になってから作画レベルの高い回が増え、今回も非常に質が高い。今回は新魔球のヒントを掴む回。原作漫画版のゴルフ場で「予期せぬ第2の球」によって閃くシーンはアニメ版では存在せず、全く違う形となった。
新魔球開発を決意するが、また何も掴めずにいる飛雄馬。ここでかつての魔球・大リーグボール1号~3号を思い出すシーンがあるのは嬉しい。丸目相手に投げ込むが、その球威に丸目の手は腫れ上がる。これだけの球威があるなら魔球なんて言わずに早く一軍に戻れと悪態をつきながらその練習に付き合う丸目。原作とアニメは魔球開発の動機が異なり、原作では速球がいずれ通じなくなるのを予想しての開発、アニメではライバル打倒が理由となる。そしてついに新魔球のヒントが。
第1のヒント:休憩時間に飛んで来た虫が一瞬消えたように見えた飛雄馬。予想した軌道と違う動きをした時、目が動きに追いつかない。
第2のヒント:幸子が持っていた紙飛行機の動き。丸目のバットスイングの風圧で浮き上がりミートできない。
第3のヒント:飛雄馬は突然空港に向かい、操縦士から飛行機が飛ぶ原理の説明を受ける。
第1のヒントを得た直後に丸目に対して意図的に死球スレスレの球を投げて怒らせるシーンが可笑しい。立て続けに3つの描写が続くが、新魔球は「錯覚」と「空気抵抗」に関係があるようだ。
続けてテレビでは巨人・ヤクルト戦で本塁打を放つ花形の姿が。気分が悪いと丸目がチャンネルを変えると花形モータースのチームが参加しているレースの中継が。そこで飛雄馬は何かに気づき、後日レース場へ向かう。
第4のヒント:空気抵抗を減らす流線形の車体の下に落ち葉が吸い込まれていく。
レース後、花形モータースのスタッフに無茶を言い、一度レーシングカーに乗せて欲しいと頼む飛雄馬。腑に落ちない丸目。
スタッフは(実際には有り得ないが)スピードを出し過ぎないことを条件に一度だけ運転を許可。しかし不安に思ったかすぐに花形に電話。花形はライセンスを持っていない飛雄馬をなぜ乗せた、すぐに止めろと当然の返答。(ここでパート2では初となる明子が登場)飛雄馬の乗ったレーシングカーは160キロを超えた時点でコース場の芝生に乗り上げて停止。無茶苦茶な行動に慌てる丸目に対し、飛雄馬は魔球のヒントを掴んだと答える。果たしてその魔球とは何か?
第10話(通算第62話)「大リーグボールへの壁」
「一度噴出した炎は誰も消すことはできない。その炎が燃え尽きるまでは・・・」
前回新魔球のヒントを掴んだ飛雄馬。今回はそれを受けての秘密特訓の回となる。前作でも大リーグボール1号、1号改良型、2号と魔球を生み出す為の特訓エピソードがあったが(3号は変則的かつドラマチックな登場)、今回も非常に面白い。飛雄馬が文字通り暴走(笑)したレース場へ花形夫妻が到着。素人を搭乗させたレーシングスタッフが全然悪びれてないのが可笑しい。そのスタッフから大リーグボールのヒントを掴んだと口にしたことを知る花形と明子。明子はショックを受け、花形は苦しげな表情で、燃え尽きるまで飛雄馬を止めることはできない。そして、それはこの花形も同じこと・・・と語る。
丸目相手に投げ込み、ヒントは掴んだものの、それをまだ具体化出来ない飛雄馬。後日、丸目の悪態から偶然大リーグボール開発を決意したことを知った伴は驚く。場面は変わり、幸子たちが野球の試合中、場外に飛んでしまったボールを拾いに行くと、無人の廃工場で一人投げ込む飛雄馬がいた。声をかけられなかった幸子からそれを知った伴。幸子は「飛雄馬くんのフォームが何だか変な感じだった」と話す。そして後日、二軍戦でフォームが崩れ、コントロールが定まらず観客のヤジを浴びる飛雄馬の姿があった。伴は右腕をも破壊する恐れがある魔球開発を止めようとするが、飛雄馬の固い意志を思い知り沈黙するのだった・・・・。
更に場面は変わり廃工場へ。
第1の特訓:上下にセットされた2枚の鉄板の間にボールのサイズより狭い隙間がある。その隙間を目がけてサイドスローの剛速球で投げ込む。
「駄目だ!あの隙間を一球も通り抜けない!まだ球威が足りないのか・・・」という台詞があり、ボールが放たれた後にやや平らに見える描写がある。
何球も投げ込み、最後の一投が通り抜けた時、その場に倒れこむ飛雄馬。そこに駆け付ける丸目。飛雄馬を案じつつ、彼にとって「大リーグボール」とはどんな存在なのかを理解するのだった・・・。
その日の夜、明子から巨人寮へ電話が。飛雄馬は出ることを拒否し、丸目が変わりに出るが説明が下手すぎて笑える。伴に魔球の存在を漏らしたり、今回の丸目はダメダメである。後日飛雄馬代理の丸目に会った明子だが、たとえ飛雄馬本人に会えたとしても、もう止められないことは理解していた。その上で、丸目に弟の事を頼みますと告げ、その場を立ち去る・・・。
再び場面は変わり、今度は夜の神社。
第2の特訓:階段に縦一列に並べた蝋燭(ロウソク)。サイドスローから放たれたボールはその炎の真上を通過する!!
ここで本話は終了。謎多き特訓の正体とは?
第11話(通算第63話)「完成!大リーグボール右一号」
「今こそ大リーグボール右一号が・・・ベールを脱ぐ時!!」
ついに「巨人の星」世界に「第四の大リーグボール」が登場する。今回はその「新魔球の完成」を描く回であり、実戦デビューは次回となる。4話で左門に投球フォームを見破られてから実に7話。この回のためにこれまでの展開があったといっても過言ではない。丸目太というキャラクターは言ってみれば新魔球を捕球する相棒役として生まれたキャラクターであり、そのためにここまで彼のドラマが飛雄馬と平行する形で丁寧に描かれていたのである。魔球の開発描写は一徹、伴の協力を得る原作とは全く異なるものとなった。パート2の原作をベースにしながら少しずつ流れが変わっていく展開を比較しながら見るのも面白い。
物語は前回の特訓シーンの続きからスタート。蝋燭の真上をサイドスローから放たれた剛速球が通過し、その風圧で全ての炎が消えていく・・・。これは何を意味するのか?
巨人は敗戦が続き、長島監督は星投手の一軍復帰を要請するが、急に星が調子を崩し、現時点では一軍復帰は厳しいことを知らされ肩を落とす・・・。しかし、星は必ず帰ってくると信じるのだった。
長島監督は序盤から登場しているが、パート1程出番がなく、現時点まで物語に大きく絡むことがない。常に物語の中心にいたパート1からの変化の理由は、「長島巨人軍の最下位からの復活」という当初の目的は既に達成されており、物語が飛雄馬個人の視点に変化しているからではないか。しかし本作の長島は非常に魅力的な人物であり、登場場面が少ないのはもったいない気もする。そして場面は変わり、今度は海岸にいる飛雄馬。
第3の特訓:縦一列に並べた細長い板。その上を通過するボールは板の上をバウンドしながら飛んでいく。まるで川に投げた石が水面上を跳ねるように・・・。更に特訓は続き、今度は板を一部取り外した上で投球。飛雄馬は板が無い状態でも同じような動きをするボールを投げようとしていた。
風圧、空気抵抗、錯覚・・・様々なヒントが前回から続く謎の特訓に繋がっており、その目的はボール自体を変形させること、ボールを激しく振動させることではないか?と思われる。そしてついに変化を確認した飛雄馬!
魔球の完成を知った丸目は喜び、自分が最初にそれを捕球すると息巻いて練習場へ。しかしあまりの変化に捕球できない。丸目は恐怖を感じ、自分には無理だと言い出す・・・。ここは原作で捕手・山倉が捕球できない展開と重なるが、克服の方法はやはり異なる。丸目は不甲斐ない自分に喝を入れる為に伴と本気で組み合い何度も派手に投げ飛ばされる。一体丸目は何回殴られたり投げ飛ばされたりするのだろうか?(笑)しかしこうでなくては伴の代わりは務まらない。伴は大リーグボールを取れるのはお前しかおらん!と檄を飛ばし、丸目は特訓に挑む。
捕球特訓:投手と捕手の間に紙の壁があり、球はその紙を突き破り飛んでくる。捕手は直前までどこから飛んでくるか分からない。
ボールの変化はまだ視聴者には分からないように描写されており「動体視力」を養う特訓と思われる。正体不明の魔球にボコボコにされる丸目だが、ついに捕球に成功!
そして飛雄馬と丸目は試合に敗れ観客のヤジを浴びた監督の前に現れる。
「大リーグボール」を見て欲しいと。
試合後の静かな球場・・・バッターボックスには長島監督が立つ。今こそ大リーグボール右1号がベールを脱ぐ時が来た。
サイドスローから放たれたボールは長島の眼前で消えては現れ、やがて無数に分身!!
そのあまりの変化に驚愕する長島監督!
ついに本作に新魔球登場。次回へ続く。
第12話(通算第64話)「驚ろくべき魔球」
「バッターボックスに立った者だけが、その恐怖を味わうんだ・・・!」
新魔球・大リーグボール右1号の変化に驚く長島監督。思わず捕球した丸目にボールを見せるよう指示するが、何の変哲も無い普通のボール。ただならぬ空気を感じた王は長島に声をかける。「何があったのか。僕にはただボールが奇妙にブレたように見えた」と。そして長島に続き打席に立った王もその変化に驚愕。「まるで蜃気楼だ・・・」
こうして飛雄馬は一軍に復帰することになり、唯一魔球を捕球できる丸目もデビューとなった。丸目は打者が驚愕している時に凄いドヤ顔なのが可笑しい。また行きつけの店・巨人寿司に自分のサインを持参するのも阿呆っぽくて好印象。良いキャラに育ってきた感がある(笑)
6話以降、原作と流れが変わりアニメ独自の展開となったが、部分的に原作のシーンは再現されており、原作と同じく魔球を最初に披露するのは長島監督。「蜃気楼」と口にするのは王であった。バッターボックスに立つ打者以外に変化が見えない点も共通している。
恐るべき新魔球の誕生は伴の口から一徹に伝わる。パート2になってから12話目にしてようやく一徹が登場。全体の約半分まで未登場だったのは意外だ(5話で自宅に飛雄馬が訪れるシーンはあったが一徹は不在)
新キャラ・丸目を定着させ、新魔球が誕生し、ようやく舞台が整ってからの登場といったところだろうか。本話では大きな動きは見せず、静かに試合を見守るのだった。
そして一軍復帰戦の時が来た。相手は飛雄馬を二軍に叩き落した左門属する大洋。ランナーが一塁二塁で打者が左門。このピンチでの登板となったが丸目を捕球に専念させるため、敢えてランナーを進めた状態に。ボールを落とし慌てる丸目に「投げるな!」と指示する飛雄馬が格好良い。ついに大リーグボール右1号を実戦初披露する時が来た!本話から数パターンの投球バンクが使用されることとなるが、過去の大リーグボールのように投球動作の途中で一旦止め画となり背景が変化する演出が今回も採用されている。
その変化に「信じられん・・・!」と左門は驚き、球場ではバックネット裏にいた一人の客だけが「ボールが2つも3つも分かれた!」と騒ぐが誰も信じない。
実況席では「何かボールが奇妙にブレたような感じがした」と。球場に駆けつけた伴は「左右に大きく揺れたように見えたが・・・?」と変化を確認できない。続けて三球目。幻覚ではないのか?と左門は魔球を凝視するが、確かにボールは無数に分身した後にミットに収まる。「新しい魔球」の誕生を左門は確信するのだった!!
バックネット裏に移動した伴は今度こそ変化を確認。その際に口にした「大リーグボール」・・・。これを聞いた他の観客達の口からもその言葉が。実況席でもビデオで飛雄馬の投球を確認。スローで映し出されたその映像にはボールがいくつも分身する様子が。「見る位置によって変化の度合いが見えたり見えなかったりするようだ」と語られる。球場は騒然となるのだった。
打者と主審以外は変化が良く分からず、観客の一部だけが変化を確認・・・やがて球場全体が騒然となる展開は「巨人の星」の大リーグボール2号「消える魔球」の登場回を思い出す。
飛雄馬は左門以外には魔球を使用せず、試合は9回表に。再び打席に立つ左門は魔球をミートできず、ストライクゾーンに来るのを狙いバント作戦に出るが失敗。試合は巨人が勝利し、飛雄馬と丸目はこれからの戦いに闘志を燃やす。第四の新魔球のデビュー戦は非常に盛り上がる内容となった。
第13話(通算第65話)「蜃気楼ボールの秘密」
「星くん・・・・グラウンドで会おう!」
デビュー以来快進撃の大リーグボール右1号は王選手によって「蜃気楼ボール」と名付けられたことがアナウンサーの口から語られる。原作の「蜃気楼の魔球」と名称が異なるのは分かりやすさを求めたからだろうか?
花形は自宅でその映像を見ながら恐ろしいボールだと呟く。明子はお茶の用意ができたと声をかけるが、その険しい表情に驚き持っていた盆を落とす。明子が最初に盆を落としたのは第4話だが、今回は食器が割れなかったのが不幸中の幸いだった(笑)
飛雄馬は久しぶりに一徹の自宅を訪ねる。前回久々に登場した一徹だが、作品内でもしばらく会っていなかったようだ。ここでの一徹は穏やかな表情を見せてくれる。「苦しみを乗り越えた良い顔になったな」と。
既に老いて戦うことはできない一徹。原作漫画版では「最後にもう一度だけ」と伴と共に新魔球の開発に協力するエピソードがあったが、アニメ版では遠くから見守る立場となった。確かに、アニメ版の魔球の特訓に伴はともかく一徹が付き合うのは無理がある。その役割は丸目が一手に引き受けることになった。
丸目は行きつけの店「巨人寿司」で幸子に蜃気楼ボールの正体を聞かれるが、自分も良く分からないと素直に返答(笑)カウンター席に明らかに怪しい男が座っているが気付かず、飛雄馬がヒントを掴んだと思われる一連の出来事を喋ってしまう。伴と入れ替わるように出て行ったその男はかつて花形の部下だったことが判明。丸目は今回は殴られなかったが伴にバカモン!!と激しく怒られる(笑)蜃気楼ボールの危機を感じた伴は一徹と飛雄馬のいる場へ。しかし飛雄馬は花形はスパイを送りこむような男ではないと断言するのだった。
その元部下は丸目の言葉を記したメモを花形に渡すが、花形はそれを見ることなくメモを燃やす。誰の力も借りずに蜃気楼ボールを打ち破ってみせると。
花形は飛雄馬の謎の行動を振り返り、レーシングカーに乗って同じ状況を確認、なぜ分身するのか?と考える。しかし雨の中スピードを出したため、車両は大破。病院に担ぎ込まれた彼だったが怪我はなく、飛雄馬たちが病院に駆け付けた時は明子への手紙を残し姿を消していた。その手紙の奇妙な折り目・・・それは紙飛行機の折り目だった。ならば、次に花形が向かう先は・・・?
花形は空港にいた。駆け付けた飛雄馬たちにスパイの助言ではなく、自らの推理でここに辿り着いたこと、伴や丸目の慌てぶりから魔球の真実に近づきつつあることを確信したと静かに語る。ここでの飛雄馬と花形はまさに互いを好敵手と認め、信じている態度で非常に格好良い。
「星くん・・・・グラウンドで会おう!」花形は堂々とした態度でその場を立ち去る。最後に「飛雄馬くん」ではなく義兄弟となる前の「星くん」と呼んだのが印象に残る。果たして二人の対決はどんな決着を迎えるのか?今後の展開を期待させ次回へ。
第14話(通算第66話)「見えた!?蜃気楼ボール」
「蜃気楼ボールの正体は一体何なんだ・・・なぜボールがいくつにも見えるんだ!」
本話はパート1から度々行われていた原作の補完に相当するエピソードと解釈できる。今回もアニメ独自の展開の中で、原作のシーンが一部再現されているのは嬉しい。
16奪三振の完封勝ちを収めた飛雄馬。ヒーローインタビューで蜃気楼ボールは永久に不敗なのか?と問われた際に「理論として成立している以上、その理論を解明されれば打ち込まれて当然」と答える。これは原作のオープン戦でパ・リーグ打者を翻弄した後の記者団のインタビューに答えるシーンと同じ。違うのは原作が53年シーズン開幕前、本話はペナントレース中の出来事となっている点。原作漫画版「蜃気楼の魔球」は開幕戦で花形を打ち取ったが、再度の対決(最終対決)の際、花形は魔球の弱点に気づいており、既に特訓は完了していた。終盤急ぎ足の展開となってしまったため、魔球攻略に悪戦苦闘する様は描かれず、回想としてわずかに特訓するシーンがあるのみだったのが残念だが、本話は蜃気楼ボール攻略のために花形が様々な考えを巡らす姿が描写されている。
「なぜボールが複数に見える?」花形はまずバットをラケット代わりにしてテニスボールを打ち返す特訓を始める。変則的な動きを見せるボールに対応するためである。しかし魔球の解明には辿り着かない。ここは少年時代の「ノックアウト打法」の特訓をを思わる。
自宅でも攻略の糸口が掴めないまま素振りを続ける花形。本物の蜃気楼は誰にでも見えるのに、なぜ打者と審判、捕手にだけ見えるんだ!と苛立つが、偶然太陽を眺め、その眩しさから目を閉じた際に、自分の目に「太陽の残像」が残ることに気づく。
太陽を見た自分だけに見える残像・・・つまり、蜃気楼ボールに向き合う三人のみに変化して見えるのは残像現象の応用だ!と。
続けて2台のピッチングマシンと一人の投手を並列に立たせ、投手の球を確実に打つ特訓に挑む。しかしあくまで本物のボールは一つであり、効果を感じない花形。ここも原作のエピソードを一部再現しているが、アニメ版は本物のボールに影がある弱点はないので、三つの内の一つを黒い球とする描写は割愛された。
続けて川に石を投げて遊ぶ子供の姿を見て、下手投げで投じた方が石が跳ねやすいことを思い出す。飛雄馬はサイドスローで魔球を投じる。投球フォームの変化はボールを変化させるためだ。ヤクルトの選手に協力を依頼し、川の反対側からサイドスローで石を投じてもらい、バットで叩く。特訓により流血してしまうが、石の激しい軌道の変化に目が追いつかず、一瞬消えたように見えた。残像現象に対応する動体視力を養う特訓と思われたが、この石が消えた現象から攻略法を思いつく。そして試合の日がやってきた。
試合はヤクルトが7点をリードし、既に勝負は決している状況。打席は花形。ここで長島監督の指示により、花形の魔球打倒策の正体を見極めるために星が登板。花形に勝ってこそ蜃気楼ボールは完成する。
第一球から蜃気楼ボールを投じる飛雄馬。二球目で花形は目を一瞬閉じ、再び目を開けた時に変化の少ない(少なく見える)魔球を打つがチップ。フルスイングで魔球にバットを当てたのは花形が初だと驚く実況席。
残像現象に気づいていることを察した飛雄馬だが、それだけでは魔球を打てないと気迫の三球目を投じる!花形は再び魔球を打つが、目を閉じることで振り遅れピッチャーフライとなる。バットを折り激しく悔しがる花形。魔球の原理まで辿り着けたものの、勝負は飛雄馬の勝利で終わるのだった。
第15話(通算第67話)「悲運の天才児・難波」
「僕は残り少ない命を星さんとの戦いに賭ける。それが短い人生を生きた証と信ずればこそ!」
「巨人の星」の世界に今までにないタイプの新ライバル・難波爽(なんば・あきら)が登場。美麗な作画で番組を間違えて登場したのではないか?と思うほどのインパクト。彼の登場はパート2開始時から決まっていた。前後編の登場となったのは話数の関係もあるが、一番はやはりその人物設定だろう。もともと長く登場できない宿命のキャラだったのだ。
バントの指示を無視して勝ち越しのチャンスを逃してしまった丸目は二軍行きを言い渡される。無反省の丸目は蜃気楼ボールを取れるのは自分だけだと主張するが、長島監督は人のことより自分の心配をしろと一喝。現れた飛雄馬に助けを乞うが、飛雄馬は丸目を庇うのではなく、捕手・山倉を貸して欲しいと申し出る。ここでようやく動揺する丸目。もし伴がいたら絶対に殴られていたに違いない(笑)
この「山倉」の名・・・。彼は原作漫画版で「蜃気楼の魔球」を唯一捕球できる人物だった。飛雄馬が選んだのが彼なのは面白い。
二軍落ちした丸目は試合中に突然現れた「阪神の秘密兵器」を見て驚く。それはかつて同じ中学で道は違えど共に日本一をめざした天才児・難波であった。甲子園をめざすために突如転校してしまい、その後一切消息不明だった彼は今まで何をしていたのか?予告ホームランを見せつけるものの、苦しげな様子で試合場から去ってしまう難波。丸目は彼が余命幾ばくもなく、かつて消息不明となったのも治療に専念するため、そして治る可能性はないこと、最後に生きた証として同じく野球に命を賭ける飛雄馬との対決を望んでいることを知る。その外見に反し内面は熱かった難波。この場面は薔薇の花びらが飛び散る等、過剰なまでの演出と美しい作画で儚さが強調されている。自分も一軍に返り咲いてみせる、だから死ぬな!と涙を流し立ち去る丸目の姿で次回へ。Bパートに飛雄馬が登場しない異色回となった。
第16話(通算第68話)「燃やせ!青春の炎」
「僕はもっともっと野球がやりたい・・・あなたのような人と・・・」
難波編の後編となる本話。前回を作画レベルが非常に高い班が担当していたため、今回は一定のレベルは維持しているのものの、どうしても見劣りしてしまうのが残念。物語は丸目の一軍復帰祝いの場面からスタート。前回よほど堪えたのか必死に練習に取り組んだと思われる。幸子の「2~3年は戻れないと思っていた」という台詞が可笑しい。
明日からの阪神戦には難波が登板するのでは?残り少ない命である難波が気になる丸目。そして飛雄馬が登板した際に予想通り難波が代打で登場した。ここで謎のシーンがある。難波の前に出塁した背番号48の選手は長髪で色黒の肌。帽子を目深に被っており台詞もなく、実在した昭和52年、53年の阪神の背番号48の選手とは印象が全く異なり、どう見てもロメオだが真相は不明である。
人生で最初で最後になるかもしれない打席で蜃気楼ボールを投げれば、難波の野球人生は何も残せずに終わってしまうかもしれない。丸目は魔球を投げないようサインを出す。速球をミートしたものの納得できない難波。同情は不要。左腕が破壊されると知りながら大リーグボール3号を投げ続けた星飛雄馬なら分かるはずだ・・・と。
丸目から事情を聞いた飛雄馬はその気持ちを理解し、全力で挑むことを誓う。難波は次の試合に出ることを親に止められるが、好きな野球に命を懸けて死にたいと翌日の試合への出場を監督に訴える。そして飛雄馬も難波と戦うために連続登板。対決の時が来た!分身したボールが一つになった時を狙っても振り遅れる。ならば最初からストライクゾーンで構え、ボールが当たった瞬間に強引に振り切ることで魔球打倒を狙うが、その球威と打法によって手首は骨折し打ち取られるのだった・・・。全力で戦ったことに感謝する両者。僕はもっと野球をやりたいと涙を流す難波に、やるんだ、青春の炎が燃え尽きるまで!と答える飛雄馬。番外的な内容ではあるが、2話の中で難波という人物を可能な限り掘り下げ、うまく纏めたのではないだろうか。
第17話(通算第69話)「恐怖・死神ゴスマン」
「フッフッフッフッ・・・死神打法で打つ!!死ねッ!!」
予告の時点でクレイジーな内容が予想できる本話。間違いなくシリーズ中ナンバー1の怪作であり、究極の「なくても本筋に影響ない回」と断言出来る。しかし一周回って(?)この回のない本作を想像すると何と寂しいことか(笑)
予告で「飛雄馬を狙って噂の死神ゴスマンがついにやって来た!」とあるが、その噂を視聴者は何も聞いていないのが素敵だ。ゴスマンは本話で初めて登場したキャラクターであり、本話で出番も終了する(笑)
67、68話も番外的な内容だったが、難波と違いゴスマンは当初から登場が予定されていたキャラではないと思われる。なぜこの回が存在するのかは謎だが、魔球を前面に押し出した作風ゆえにゲスト的なライバルを登場させた可能性大か。
大リーグで数々の乱闘騒ぎを起こし、球界を追放されたゴスマン。パート1でサンダーの弟子として登場した「喧嘩屋マック」も荒っぽい人物だったが、今回は飛び抜けている。
謎の外国人選手がセ・リーグに入団するという情報を嗅ぎ付けた記者たちの台詞で、行方をくらませていたゴスマンがヒマラヤの秘境で凄まじい修行を積んでおり、ある目的のために近々来日することが判明する。ヒマラヤの秘境で特訓という時点でどこから突っ込んで良いか分からなくなるが、物語はノンストップで進行。
飛雄馬に外国から手紙が届き、そこには日本語かつ美しい文字で蜃気楼ボールを打ち破ると記されていた。挑戦状が届いたことは王の判断で伏せるはずだったが、丸目は記者達の誘導尋問にあっさり引っ掛かり喋ってしまい、いつもように伴にバカモン!と怒られるのだった(笑)
そしてついに巨人・広島戦に現れた死神!!「バックスクリーンに入っているお客様。ゲームに差し支えますので速やかに出て下さい」というアナウンスが流れる時点で普通の回ではない。球団に属さないゴスマンは個人的な立場で飛雄馬に勝負を挑む。打席に立っていた広島・ギャレット選手のヘルメットを手刀で叩き割り失神KO。なんて気の毒な役割なんだとギャレットに同情してしまう。警官隊が駆けつけ勝負はまたの機会と立ち去るが、翌日ゴスマンは多摩川グラウンドに現われ、名も無き選手たちをボコボコに。激高した丸目はゴスマンを追う!それを幸子から聞いた飛雄馬は後を追うが、川辺で伸びて背中に貼り紙されている丸目を発見(笑)ゴスマンからの挑戦状を受け取った飛雄馬はついに対決することになる。
「星!お前が負けたら大リーグの名を勝手に付けたボールを二度と投げるな!」と実にどうでもいい条件をつけるが、世界各地でスタープレイヤーを襲っていることが序盤に語られており、本当に理由はどうでも良かったのだろう。
怪しげなポーズで蜃気楼ボールに挑むゴスマン。一球目を見送るが、額に描かれた第三の眼で見破ると自信満々。ヒマラヤの特訓とはこの心眼会得のためだったのだ。その特訓の描写も文明社会とは思えない格好で強烈なイメージ。二球目も見送り、ここで軌道は読めたと確信。「死神打法」で打ち砕くと宣言し、ついに三球目。渾身の蜃気楼ボールに対し、ゴスマンは奇声を上げ、バットを放り投げる!!そのバットはボールに当たった瞬間へし折れ、そのままボールが額を強打!!強烈な表情でその場に倒れ失神する姿を見て「何とも恐ろしい男だった・・・」と飛雄馬が呟いたところで即END!!余韻も何もなく勝負が着いたと同時に本話は終了する(笑)勿論次回には一切関係ない。
ゴスマンがその後どうなったのかは不明。だが無事に決まっているので良しとしよう。実にとんでもない内容だが、全編突っ込みどころ満載でいろんな意味で面白い回であった。
第18話(通算第70話)「飛雄馬の恋」
「私の耳は貝の殻・・・海の響きを懐かしむ・・・」
番外的な話が3回続いたが、ここで飛雄馬の恋の物語が前後編で描かれる。但し内容は原作漫画版「不死鳥の章」とは(部分的に共通する点はあるが)異なる。
今回登場する人気DJ・咲坂洋子は原作における女優・鷹ノ羽圭子に相当するキャラクター。原作漫画では圭子を巡り、あろうことか飛雄馬、伴が同時に恋に落ちるヘビーな展開となったが、その内容は到底アニメ向きではなく、カットされるのもやむなしと言ったところ。連載中に事前に告知された「新ヒロインの登場」が予想外にファンから反発されたことを踏めてのアレンジだろうか?ドロドロとした人間関係は描かれず、飛雄馬と洋子の淡い恋物語となった。
丸目が夢中になって聴いているラジオ放送。DJの洋子のファンである丸目を放って寝ようとする飛雄馬だったが、番組のメインスポンサーが伴重工業となることを知り喜ぶ丸目の大声で飛び起きる。丸目は伴に直接電話して洋子のサインを貰ってくれるよう頼むが、人にサインできるような大物になれバカモン!とまた怒られる(笑)
後日番組の取材で洋子からインタビューを受ける飛雄馬だが、彼女に野球の知識は全く無く、その無神経にも見える態度に反感を持つ。原作とは真逆の第一印象であった。
その後、伴重工業に要望が多く寄せられていたこともあり、伴の頼みで再度洋子と会う飛雄馬。しかし洋子は今日は都合が悪くなったと中止を申し出る。怒る飛雄馬だが、番組に自殺をほのめかす内容の手紙を送ってきた子供を心配してのことだった。飛雄馬は洋子に協力し、子供を探して鎌倉へ。
手がかりが少なく途方に暮れるが、洋子は番組を通して子供に自殺を思い留まるよう訴える。すると海岸で一人ラジオを聴き涙している子供が・・・。今まさに命を絶とうとしている子供に、辛いことがあっても強く生きて行こうとしている人間がいる、ここにいる星飛雄馬選手も投手生命を絶たれた時はどれだけ辛かったか。それでも彼は不死鳥のように甦ったと話す。何も知らなかった彼女は飛雄馬のこれまでを調べた上で再度取材しようとしていたのだ。
辛うじて説得に成功し、子供の命を救えたことにホッとする二人・・・。互いを誤解していたと気づき、穏やかな表情を見せる飛雄馬と洋子の姿で次回へ続く。
第19話(通算第71話)「愛の二死満塁」
「貴方の心の中には・・・日高美奈さんが生きている・・・」
前回に続き飛雄馬の恋物語・後編となる本話。作画レベルは非常に高く、序盤から洋子の美麗カット3連発でスタート。前回は出会いまで、今回はまさしく飛雄馬と洋子の恋を描く。
洋子と出会ってからしばらくの期間が経過しているようで、二人は互いに惹かれている様子。明日からの巨人対ヤクルト戦で闘志を燃やす花形に対し、飛雄馬の心は洋子に・・・。この辺りの描写は青年となった飛雄馬らしくリアルである。但し、原作のような深く苦悩する描写はなく、あくまで淡い感情といったところ。
スタンドに彼女が来ていることに喜び、笑顔を見せる飛雄馬の描写は珍しい。
バッターボックスに立つ花形。一球目はファウル。ここで打球がスタンドの子供に!幸い怪我は無かったが、子供に駆け寄る洋子の姿を見てハッ!となる飛雄馬。かつて宮崎キャンプで美奈と出会った時と状況が似ていることに気づき、洋子に美奈の姿を重ねてしまうのだった・・・。
今回は洋子だけでなく回想で登場する美奈も非常に美しく描かれており、情感溢れる曲もあって前作のエピソードを知る者には胸に迫るものがある。原作とはまた違う形で二人の心の繋がりが確かに描写されていると言えるだろう。
美奈の死を思い出し、動揺した飛雄馬の表情は固くなる。その感情を振り払うように投げる飛雄馬だったが、変化の甘い蜃気楼ボールを花形は強打!(何気に蜃気楼ボールを打者がマトモに打ち返した描写は今回が初となる)
その打球が頭部に直撃し、倒れる飛雄馬。そのまま担架で運ばれてしまう姿を唖然とした表情で見送る花形が印象的。今回花形は物語の蚊帳の外で洋子とも関係なく、一切迷いの無い強敵といった感あり。
飛雄馬は病院のベッドで気を失っていた・・・。駆け付ける洋子、伴、丸目、幸子たち。
飛雄馬の身を案ずる洋子だが、飛雄馬は意識の無いまま「美奈・・・」と呟く。
美奈とは誰なのか、その事を伴に問う洋子。伴はかつて飛雄馬が愛した女性について静かに語るのだった・・・。
原作漫画版で圭子に恋した伴は読んでいて辛くなってくるほど可哀想な道化役となってしまったが、アニメ版は飛雄馬、洋子、美奈に焦点を当てた内容で、飛雄馬の理解者としての立場を最後まで貫いた。
飛雄馬の今でも変わらぬ美奈への愛を知った洋子。後日飛雄馬に回復祝いの花と手紙が届く。飛雄馬に別れを告げ、返事を保留していた海外への仕事に向かう洋子・・・。見送りに来た伴と幸子に見せる寂しげな表情が切ない。
互いに淡い気持ちを抱いたまま離れてしまった二人。原作漫画版の飛雄馬の苦悩と別れのシーンは強く印象に残るが、洋子との出会いと別れも原作の単なる簡略版的なものではなく、力の入った内容となった。
所謂恋愛としての描写は後編のみだったので、あと1話は欲しかったという気持ちにもなるが、原作漫画連載中に読者からの反発の声もあった事実を踏まえるなら、惜しい思いを抱かせたまま退場させた構成は正解だったのではなかろうか。
気迫を取り戻した飛雄馬の力投と旅立つ洋子の姿で本話は終了。次回へ続く。
第20話(通算第72話)「魔球攻略作戦」
「蜃気楼ボールは・・・風に弱か!!」
いよいよアニメ版「新巨人の星」もラストが近づいて来た。ラスト3部作の前振りとなる本話。この回ラストで左門が確信したことが次回の展開に大きく影響する。
先発、リリーフと重要な局面で登板してくる星によって左門の所属する大洋は投手のローテーションが崩れ、打者はタイミングを狂わされ、このままではペナントレースで巨人の独走を許してしまうと、魔球対策プロジェクトチームを組むことになった。星を叩き潰す刺客に選ばれたのは左門。彼は監督の指示によりしばらくベンチから外れ、蜃気楼ボール対策に専念する。
本話は魔球攻略の研究シーンが続き、どれも非常に興味深い。第14話(通算第66話)で花形が魔球の原理に迫り、その正体はボールの激しい揺れによる残像現象であることを突き止めたが、今回は左門がその秘密に迫る。
映写室らしき場所で対策チームは投球フォームを確認。ボールが手を離れた瞬間に映像をストップすると、星は直球を投げていた!特殊な握り方はしていないと左門は驚愕。しかし蜃気楼ボールがどの変化球よりも激しく変化するのはなぜか?対策班はここで回転する彩色された的にダーツを投げ、残像現象とは物を見た後にしばらくの間、まだそれを見ていると感じる現象であると説明。そして的は星が蜃気楼ボールを投じる時の速度「162キロ」に合わせていると。ここで判明する飛雄馬の投球速度は驚異的な数値である。これだけの速度があれば魔球は不要では?と考えるのは野暮。この作品はそれを打つ強敵がひしめく世界なのだ。
しかしなぜ直球が残像現象を引き起こすほど激しく変化するのか?その答えを対策班はまだ分からずにいた。(ここは花形が先を行っており、水面を跳ねる石の原理を応用しようと投球フォームを変更したのに気づいていた)しかし、レーザー光線を鏡で屈折させる実験を見せ、これと同じ現象が起きている可能性はあると左門に伝える。ここはやや難解だが、レーザー光線が球であり、鏡が空気の壁という説明である。
続けて魔球がストライクゾーンを通過する際の位置の研究中に左門はそれよりも「複数に変化した魔球が打席直前でどうして一つに戻るのか?」の解明が重要と訴える。一つに見えた時にはすでに遅く、振り遅れる。左門はレーザー光線と同じ原理で複数セットされた鏡に反射しながら飛んでくる光の球を打つストレートな特訓を始めるが、結果を出せない。しかし海岸をランニング中に上空を飛ぶ飛行機を見て何かに気づく・・・。
同じ頃、飛雄馬は丸目に残像現象を引き起こした後、なぜ元に戻り自分が捕球できるのかを問われ、飛行機が音速を超えた時に起きる「ソニック・ブーム現象」について語る。しかし丸目は理解できないのだった(笑)
そして、左門もそれに気づき、対策班に超音速ジェット機が空気の壁を破る際に起きるソニック・ブームの原理を応用し、空気抵抗の壁を破った際にボールが安定=一つに戻ることを説明。ここも難解になるが、飛雄馬の球が音速より速いという意味ではないと台詞のある通り、あくまで原理の応用である。飛行機が飛ぶ際に音の速さより機体が遅ければ音が先に空気の層を和らげるため、機体は楽に飛べる。しかし音速を超える機体は激しい空気抵抗を受けながら道なき道を切り開いて飛ぶ形となる。空気の層を破った時に起きる衝撃波がソニック・ブーム・・・。暴走する車が急ブレーキをかけたように球が一つに戻るのはこれだと。
会議場所である旅館の敷地内にある水流に笹船を3つ浮かべ、板で1つしか通過できないよう先を塞ぎ、笹船が一ヶ所に集まり通過する様を見せる左門。なかなか理解出来なかった監督もここでようやく理解する。
そして迎えた大洋戦。魔球打倒のため欠場していた左門は9回に登場。その原理、打倒のヒントを掴んだ彼は一球目の蜃気楼ボールを叩くが振り遅れファウル。続けて第二球だが、この時グラウンドに偶然小さなつむじ風が起きる・・・。その中で放たれた蜃気楼ボール。その風は魔球の変化をかき消し、複数に変化したボールが一つに戻ってしまう。残像が消えたと驚く丸目!左門はこれを見逃さずホームラン!ついに打たれた魔球・・・・。しかし、蜃気楼ボールは本当に敗れたのか?左門はなぜ残像がすぐに消えてしまったか考える。つむじ風だ・・・!あれで残像が消えたのだ。「蜃気楼ボールは風に弱い」と確信し次回へ続く。
第21話(通算第73話)「激烈!!ツバメ返し打法」
「次の巨人・ヤクルト最終戦で全てが終わる!・・・野球地獄の炎が燃え尽きる!!」
物語は最終3部作へ。
ここから最終回まで怒涛の展開となり、次回で宿命のライバル・花形満との決着が描かれる。原作では明確な決着がなかった飛雄馬と花形。そして、いつの間にか弱点に気づき特訓を完了させていた花形にあっけなく破られた魔球。これらの描写や物語の構成を大幅に変更し、シリーズ最大の山であった右投手復活のベールを脱いだオールスター戦の大遠投に匹敵するもう一つの山を終盤に持ってきたことは十分評価に値するだろう。
前回左門に本塁打を許したものの、その後も蜃気楼ボールは冴えわたり、巨人は勝利を重ねていた。ここでTVのアナウンスで「V1」が目前という台詞があるが、これは脚本ミスで惜しい。ここはV2又はV3が正しい。
ペナントレースも終盤となり、ヤクルトとは最終戦が近づいている状況である。すでに優勝気分の丸目、幸子たちに対し、飛雄馬は左門の打席で偶然起きたつむじ風によって残像が消えた不安を口にする。もし、その「偶然」を「必然」に変えられたら・・・と。
場面は変わり、花形は魔球打倒の特訓で、「光学実験スタジオ」にいた。蜃気楼ボールを再現した立体映像を見て驚く花形。さっそく特訓を開始するが何度スイングしても打つことはできない・・・ここで挿入される無数に分身したボールが花形に迫るイメージシーンが面白い。オリジナル「巨人の星」でもたびたび見られた独特の映像表現を思わせる。
さらに場面は変わり、一徹に会いに来た明子の姿が・・・。その表情は晴れない。すでに夫と弟が再び戦いを繰り広げる事への覚悟を決めていたはずだが、事情が変わった。花形の子供を身籠っていたのだ・・・。
原作連載中に「花形・明子の間にぜひ子供を」というファンからの要望が寄せられていたが、そういった声を反映したのかは不明。しかしここからも最後に向けて纏めに入っていることが分かる。一徹はあえて花形に明子のことを伝える。それを聞いた彼はある覚悟を決めるのだった・・・・。
空港で自分は今まさに「空気の壁」にぶつかっていると語る花形。魔球はおそらくボール自体が空気抵抗の壁を作りだし変化を生み出すのではと推測する一徹。その空気の壁を破壊出来たら・・・・。まさに左門の打席で起きたつむじ風の現象と同じことが起きる筈。だがスイングの風圧で壁を破壊したとしても、その時すでにスイングは終わっている。しかし、もし終わっていなかったとしたら・・・・。一徹はその動きに筋肉が耐えられるわけがないと断言する。
(この花形と一徹の会話の意味は風圧で空気の壁を破壊し、魔球の変化を消した後、バットを再度引き戻し魔球を打つタイミングを作り出せば打倒出来るか、という意味である)
翌朝、とある場に出かける花形。しかし一人出発した彼を一徹は待っていた。「父と子」の決着はすでに着いている。これは「野球に生きる男・飛雄馬」と「野球しか知らずに生きてきた自分」の最後の戦いだと。
花形の最後の戦いに一徹が協力する展開は興味深い。原作で魔球開発の協力を申し出たのとは真逆である。
覚悟の特訓の前に山寺で瞑想する一徹と花形。その会話から「蜃気楼ボールの打倒=野球人生の終焉」であることが分かる。そして一徹は花形に「大リーグボール養成ギブス」を渡すのだった!ここは「大リーグボール打倒ギブス」と言うべきか。
二人は滝の前で魔球打倒の特訓を開始。流れる滝の中を揺れながら落ちていく葉・・・。すなわち激しく分身しながら飛んでくるボールを叩け!風圧で変化を消し、さらなるスイングでボールを叩く。名付けて「ツバメ返し打法」
短期間でマスターするための激しい特訓が続く。ギブスの強烈な締め上げに耐えながら魔球打倒の執念に燃える花形。鬼と化した一徹。そして特訓の果てについに滝の中の落ち葉を叩く!!花形は次なる巨人・ヤクルト最終戦が宿命のライバルとしての最後の戦いになる、それがどんな結果になろうとも悔いはないと闘志を燃やす。いよいよ野球地獄の炎が燃え尽きる時が来た・・・!!
前編として大いに盛り上がる回だが、やや急ぎ足な展開か。テンポ良く話が進むが、本話の内容を2話分のボリュームで見てみたかった気もする。はたして花形との最終対決はどうなる?
第22話(通算第74話)「蜃気楼ボール破れる!!」
「さらば僕達の青春・・・!!」
星飛雄馬と花形満。長きに渡り死闘を繰り広げてきた二人の最終対決の時が来た。
本話は作画、演出も非常に力の入った回で見所も多い。特に作画に関しては頂点と言って良いだろう。少年時代から始まった宿命のライバルとの戦いが本話で決着する。
前回、魔球打倒の切り札となる「ツバメ返し打法」をマスターした花形。数日に渡る一徹との特訓で一人では歩けない状態で帰宅。驚く明子。
その明子を心配し、花形邸を訪れていた伴は、野球から足を洗ったはずの一徹が花形と二人で何をしていたのかと問う。一徹は「本当の終わりまでにはもう一幕ある・・・」と言い、久々に酒を飲みたくなったと序盤でたびたび登場していた屋台へ。屋台の親父は後姿しか映らないが、以前より痩せた印象なのは気のせいだろうか(笑)
伴はかつて飛雄馬の左腕を破壊した最後の死闘が明日のヤクルト戦で再現されると聞き、実の息子と義理の息子をそこまで追い込むとは!と非難するが、一徹はそれを否定。宿命のライバルたちが行きつく所まで行きついただけのこと。そして明日、野球地獄の炎が燃え尽きる・・・と静かに語るのだった。
一方、飛雄馬は病院にいた。もし左門の打席で起きた自然現象を人為的に起こしたらどうなるか。医師は「論理的に可能でも相反する動きを一度に行った場合、筋肉がバラバラになり野球生命が終わる。」と断言。これは前作で「大リーグボール3号を投げ続けた結果どうなるのか?」と医師に確認した場面を思い出させる。その時は彼自身の運命についての確認だったが、今回は真逆となった。
飛雄馬は「偶然」を「必然」に変える命取りの方法が存在した場合、それを本当に実行してくる相手は一人しかいないと確信していた。
そして翌日。ヤクルトとの最終戦の日の朝、全てを察した明子は花形に球場へ行くと伝える。お腹の中の子に、父がどんなに真剣に生きてきたか見せるために・・・。向きあう二人の姿が切ない。
この回は全編が最終対決の緊張感に包まれており、物語が終局を迎えつつあることが伝わってくる。
そして始まったヤクルト最終戦。先発の飛雄馬の蜃気楼ボールが冴え渡る。花形はベンチ裏で黙々と素振りを続け、その時を待つ。「星くんの魔球を必ず打つ自信はある。だがそれは一打席だけ」・・・ツバメ返し打法を実戦で使用できるのは一回限りなのだ。
ここでも65話ラストと同じく「飛雄馬くん」から「星くん」に呼び名が戻っている。使用されたシーンから推測するに意図的に変更していると思われる。その効果は十分ある。
また花形の素振りを無言で見つめる広岡監督が印象的。この後に何をやろうとしているのかは知らないはずだが、その覚悟を察している演出なのは間違いない。
場面は変わり、自宅のテレビで観戦している一徹。その手には妻の遺影が。やがて生まれてくる孫の父親となる男と飛雄馬の最後の戦いを一緒に見て欲しいと・・・。
伴は自分が野球の試合を見るのが怖くなるのは初めてと感じつつ球場へ。同じく本当は怖い。でもどんなに怖くとも見なければならない・・・・と語る明子と共にスタンドに向かう。
飛雄馬はすでに14三振を奪い、出塁したランナーはゼロ。完全試合達成の可能性が出てきたことで緊張する丸目。しかし飛雄馬は関心を示さず、花形は必ず出てくると闘志を燃やす。
そして試合は9回表のヤクルト攻撃。初球から蜃気楼ボールを投じ一人目は三振。二人目はキャッチャーフライ。あと一人だ!史上初の二度目の完全試合達成となるか?27人目のバッターは誰だ?そして・・・
「花形さんが出てくる!」
「ヤクルト 選手の交代をお知らせします。鈴木に代わってバッター花形 背番号3」
現われた花形。大きな歓声。緊張した表情の明子、伴。飛雄馬は花形の様子がいつもと違うことに気づく。
花形は静かに夜空を眺めた後に打席へ。見守る一徹・・・。
第一球は蜃気楼ボール。花形は手を出さず見送る。「素晴らしい。星くん・・・何度見ても君の生み出した魔球は、君自身の命のように美しい。そしてその美しい球を打てる僕は幸せだ!」口元に笑みが浮かぶ花形。
第二球も花形は見送る。手を出さない理由を理解できない伴に明子は、花形は別れを惜しんでいるのだと伝える。誰よりも明子が気持ちを理解している演出は良かったのではないか。
花形はここで初めて理解していた。かつて飛雄馬が投手生命の終わりを予知しながら、どんな気持ちで大リーグボール3号を投げていたのかを。
「静かだ・・・・静かすぎる。いつもの花形さんと違う・・・まさか!」飛雄馬も花形がこの打席に全てを懸けていると確信する。そして最後の時が来た!
「来い!星くん!!」
「行くぞ!花形!!」
渾身の蜃気楼ボールを投じる飛雄馬!激しく分身するボール。大きく構えた花形は一瞬穏やかな表情を見せた後、強烈な一振りによる風圧で空気の壁を破壊!更にバットを強引に引き戻す!!
無数に分身したボールが一つに戻り、驚く飛雄馬と丸目!!ここで筋肉の破壊をイメージした稲妻が走るカットが入り、棒球となった魔球を渾身の一打でスタンドに運ぶ花形!!
このツバメ返し打法のシーンは美麗なタッチで知られる荒木伸吾氏自身が直接原画を描いた可能性大。
花形役である声優・井上真樹夫氏の熱演が凄まじい、強烈な打倒シーンであった。
完全試合目前で魔球を破った花形は全身の痛みに耐えられずベースタッチと同時に倒れこむ。駆け寄る飛雄馬、巨人、ヤクルトの両ナイン。
あなたの勝ちだ。あなたのような人に打たれたことを誇りに思う・・・と飛雄馬。
君のような素晴らしいライバルを持てて僕は幸せだ、いま僕は何の悔いなく野球に別れを告げられる・・・と花形。
宿命のライバル同士の長き戦いは終わったのである。
最終回一話前にこの回を持って来た構成は大いに評価に値する。しかもこの回は原作にはないアニメ版独自の内容である。その台詞や演出を見るに、前作を含め深く内容を理解していなければとうてい書けるものではない。
二人の最後の戦いを見届けた一徹は、また一人野球に青春をかけた若者が燃え尽きて行った・・・これで良かったのか、だがわしは野球に懸けた一生に悔いはない、飛雄馬、そして花形も・・・と妻の遺影に語りかける。その時に異変が!
突如目を見開き、苦しげな表情で倒れ込む一徹の姿で次回へ続く。
第23話(通算第75話)「新たなる出発」
「飛雄馬・・・巨人の星をめざせ!!」
全75話の長期シリーズもいよいよ最終回となった。
悪夢の昭和50年。巨人軍屈辱の最下位からスタートした物語は、果たしてどんな結末を迎えるのか?
宿命のライバル同士の最後の死闘は終わり、花形は球界を去った・・・。
巨人軍は一歩一歩と優勝に近づき、飛雄馬自身も右投手として初の20勝を達成しようとしていた。
一徹が倒れた事を知り驚く伴。以前から体調が優れなかったと住民から聞き、気づけなかったことを悔やむ・・・。
一徹の体調の件は過去に触れておらず、前回ラストでまさに劇中描写の通り突然倒れたのだが、やや唐突な展開ではある。(仮に伏線を張るなら21話(73話)がベストでは?)
この突然の師の異変は同原作者の「柔道一直線」を思わせるが、それを意識したものかは不明。しかし、花形を通して飛雄馬に最後の戦いを挑んだのは、その台詞からも自らの死を意識した上だったと思われる。
この最終3部作がもし4部作であれば、この辺りの描写も細かくフォローされたのではないか。原作の細かい補完の多かったアニメ版だけに惜しい。
そして最後の打者を蜃気楼ボールで打ち取り、巨人はセ・リーグ優勝!!今回はかつての最下位からの逆転優勝を描いた回(38話)と異なり、あくまでも背景として描かれている。長島巨人軍ではなく、飛雄馬と一徹父子の物語の結末なのだ。
伴は医師から一徹は余命幾何もないことを知らされ愕然とする・・・・。だが一徹は自らの運命をすでに悟っていた。そして伴に飛雄馬と明子には知らせるなと話す。あの二人にはそれぞれの戦いがあり、余計な心配をさせてはならないと・・・。
伴にその約束を守ることはできなかった。酒に酔い、フラフラの状態で練習帰りの飛雄馬に会いに行き、明日から日本シリーズだから何か奢ってくれると期待している丸目を怒鳴り先に帰らせる。(伴と丸目のかけ合いはパート2の名物と化していたが、これがラストとなった。)飛雄馬と二人になった伴は親父さんに会いに行ってやれと話す。
しかし飛雄馬は日本シリーズに勝ち、「巨人の星」と輝いた日にその報告に行くと答えるのだった・・・
場面は変わり、巨人は日本シリーズで連勝。飛雄馬はローテーション無視の力投を続け、日本一に王手となった。
やや急ぎ足の感があるが、逆にここをじっくり描けば間延びしたのでは。焦点がブレることなく飛雄馬と一徹の描写に絞ったのは正解だろう。
余談ではあるが、このローテーションを無視しての力投は原作漫画版「侍ジャイアンツ」終盤を思わせる。ただし、その結末は全く異なる。意図したものかは不明だが、原作者の他作品まで取り入れた集大成的なラストを考えていた可能性はある。
最終戦はなんと先発で登板。飛雄馬は心の中で一徹に「巨人の星をめざしてきた自分の全てをこの試合に懸ける」と誓う。
その一徹は病院から抜け出し、自宅に戻っていた。自分の死に場所は自分で決める・・・・・。
「見える・・・また大きく羽ばたこうとしている不死鳥の姿が・・・!!」
ここでも「長島巨人悲願のV1達成なるか」との台詞があるが、単純なミスなのか、意図したものかは不明。そして試合開始第一球はあの「大リーグボール1号」だった!
左投手時代の魔球がここで登場するとは!原作漫画版でテスト的に使用するものの、「右の制球力では使えない」という結果に終わった魔球が、アニメ版では最後に登場。これはアニメ版では問題なく使えるという意味ではないので誤解なきよう。あくまで一回限りの使用である。続けて「大リーグボール2号・消える魔球」「大リーグボール3号」登場!
禁断の魔球である3号を投げたのには驚くが、これも劇中の描写からこの日本シリーズ最終戦を自らの集大成とするべく、あえて投げたと思われる。(もちろんこの後に投げた様子はない)
8回までパ・リーグ王者である阪急打線を封じ込め、奪三振は既に16。日本シリーズ初の完全試合達成の可能性が見えてきた。一徹は死が迫る中、力投する飛雄馬の姿に不死鳥を重ねていた・・・。
そしてついに9回。最後の打者となった。
「父ちゃん。見ていてくれ!!」
飛雄馬は渾身の蜃気楼ボールを投じ、バットが空を切る。
かつての左腕投手時代に続き、右腕で完全試合を達成。再び栄光の「巨人の星」を掴んだのである!!
その瞬間を見届けた時、一徹は穏やかな笑顔を見せ、静かに目を閉じる・・・。
一徹が死すその時に、幼き飛雄馬と自分の姿を思い出すシーンが切ない。
父であり、師であり、最強の敵でもあった星一徹。その存在感は絶大であった。
この展開はアニメ版独自のもので、原作における一徹は存命である。最重要キャラクターである一徹を死亡させることで明確に「巨人の星」を完結させる製作側の強い意志を感じる。
長島巨人は日本一を達成。最高殊勲選手賞に輝いた飛雄馬の姿を明子の入院する病院のテレビで見ている花形。そこに伴からの電話が。
一徹の死を知り驚く花形・・・そして明子が出産。一人の命が燃え尽き、今またもう一人の命が誕生したと目に涙を浮かべるのだった。
「燃えて・・・燃え尽きて灰になるまで!」
試合後、長島監督より伴から電話があったと知らされる飛雄馬・・・
長島は「君は巨人の星だ。そう報告するんだぞ。あの人に・・・」と。
飛雄馬は一徹の自宅に駆けつける。そこには息を引きとった一徹と伴がいた。
「俺はあなたを誇りに思ってきた。父ちゃん・・・ありがとう」と一徹に鍛えられた少年時代を思い出し、涙を流す飛雄馬。父子とも別れの際に思うことは同じであった・・・
それからしばらくの時間が経過し、また巨人軍が動き出した。
多摩川グラウンドでは中畑選手がコーチから猛ノックを受け、丸目は話題のルーキー・江川選手の専属捕手となっていた。そこに現われる飛雄馬。
パート2放送開始時は所謂「江川問題」で世間が騒然となっていた頃で、ラストで江川が登場するのは面白い。
丸目に明日の巨人軍は君たちの肩にかかっている。頑張れと声をかけ、練習を見学に来た幸子に今まで使用して来たグローブを渡す飛雄馬。喜ぶ幸子だが、なぜ大事なグローブを?一瞬不安な表情になるのだった。
場面は変わり、長島監督の自宅を訪れた飛雄馬。
「そうか・・・決めたか」の長島の言葉に「身勝手なことばかり言って申し訳ありません」と飛雄馬。彼は考えた末、本場大リーグへの挑戦を決意していた。
「監督に頂いた背番号3・・・お返しします」
しかし長島は「その必要はない。背番号3はお前のものだ!」「行ってこい星!本場大リーガーに揉まれて、更に大きくなって帰ってくることを巨人軍は待っている!!」と答えるのだった。
パート2になってから(物語の視点の変化から)出番が減った長島監督だが、最後に熱い言葉と貫禄を見せてくれた。
第1話の泥濘に沈んだ長島巨人軍からここまでの流れを知る者には、胸が熱くなる名シーンではないか。
飛雄馬は一徹の眠る墓の前で大リーグに旅立つことを報告する。
その墓標には「野球に生き 野球を愛し 野球に死す」と記されていた・・・。
雨の中、旅立ちを父に力強く報告する姿に、「巨人の星」がいよいよ終わるということを実感させられる。
後日。旅立つ飛雄馬を見送る花形、明子、左門、伴、丸目、幸子たち。
(分かりにくいが引きのカットでは明子の姿も見える)
最後に流れる曲は「ゆけゆけ飛雄馬」である。
港での別れとなったのは、海を見ながら新たなる魔球に思いを馳せた原作のラストシーンを意識した可能性があるのではないだろうか。
パート2途中から原作漫画版と物語が分岐したことで、アニメ版はファンの声に真剣に耳を傾け、できる限りのことは全てやろうとした感がある。
それは史実に(昭和53年ペナントレースはヤクルトが優勝。巨人は2位)合わせる形でヤクルトが優位となった時点で未完とした原作漫画版や、選手として限界に達し、新たなる逸材に後を託すサムライ炎とはまた違う方向性であった。
どれが良いという話ではなく、アニメ版はこの流れで正解ではないか。
本話における試合描写等、時にはやや過剰なフォローや惜しい点もあったことは否定できないが、最も一般的な読者・視聴者が望んだであろう形に纏めた製作側の姿勢は評価されるべきである。
夕日に消えたヒーローが朝日を浴びて帰ってきた新たなる物語は、様々な試練を乗り越え、再び「巨人の星」を掴み、ここに完結したのである。
劇場版「新巨人の星」
1977年(昭和52年)12月1日公開
上映時間:76分
併映作品 「BIG-1(ビッグワン)物語 王貞治」
東映系で公開された、テレビシリーズ第1話~第5話を基に再構成した劇場版。
謎の代打屋登場から伴と再会し、巨人復帰を目指すまでが描かれる。
ストーリーは原作に近い形に少々変更。アニメ版本編では居酒屋で酒を煽るシーンが草野球の試合より先になっていたが、本作では原作通りに直されている。
台詞も若干の変更があり、第1話の長島監督が自らの方向性は間違っていないと一人叫ぶ場面の「しかし何かが足りない・・・私にはそれが分からない・・・」が「私は新しい「巨人の星」を待っているのだ・・・」と明確に答えを出す内容となっている。ラストシーンの飛雄馬と伴の会話の内容も異なり、野球人間ドックについて語るのではなく、映画のラストらしい台詞に変更されている。
スムーズに各話を繋げてはいるのものの、一本の映画として見た場合、やや間延びした印象。5話の伴のお見合いの話もそのまま残っているが、テンポを考えるならカットしても良かったのでは?
選択された5話分の内容的に仕方ない所ではあるが、映画前半(1~3話冒頭まで)に見せ場が集中しており、謎の代打屋の正体が飛雄馬と判明した後は花形、明子、伴が飛雄馬の行動に困惑する展開なので、最後に伴が協力する形で纏まるものの、少々地味で盛り上りに欠ける。筆者の個人的希望としては、(単発の映画としてなら)前作の映像と併せて再構成された「第1話」をじっくり描いて欲しかったと思う。
劇場版「新巨人の星 嵐の中のテスト生」
1978年(昭和53年)3月18日公開
上映時間:24分
併映作品 「地球防衛軍(短縮版)」「ルパン三世」「家なき子」
前作と異なり、東映ではなく東宝系で公開。「東宝チャンピオンまつり」内の一本として、テレビシリーズ第17話がそのまま公開されている。この回はスクープを狙う新聞記者・田島の視点で描かれる一話完結の物語なので、劇場公開向きと判断されたのだろうか?まだスクリュー・スピン・スライディングは登場しておらず飛雄馬の活躍はないが、ドキュメント風にテスト生(飛雄馬)を追う内容がなかなか面白い一編である。