「外伝/コミカライス版」解説

※「新巨人の星」に関連する外伝、コミカライズ版を解説

 

巨人の星外伝 それからの飛雄馬

●「巨人の星外伝 それからの飛雄馬」

 

原作:梶原一騎先生

作画:川崎のぼる先生

週刊少年マガジン 1978年02月12日 第7号掲載

 

「資格が・・・・ある」「あ、あそこまで野球に燃えつきた人には俺たちを許さぬ資格が!」

 

星飛雄馬が魔球・大リーグボール3号で完全試合を達成しながら、そのマウンド上で左腕もまた完全破壊され、人知れず去ってから3年後・・・

宮崎県の日向三高野球部は練習中にトラブルに巻き込まれたが、サングラス姿の謎の青年に危機を救われる。彼は一体?

 

舞台は「巨人の星」最終回から3年後。「新巨人の星」第1回は5年後の設定なので、この作品は正編と続編の間のエピソードになる。

当時は週刊読売誌上に「新巨人の星」が連載中だったが、本作は前作の掲載誌である週刊少年マガジンに掲載された。

 

結果を出せず甲子園で初戦敗退が続いていた宮崎県の日向三高野球部は、飛躍的なレベルの向上により準決勝進出を決めていた。

野球部監督である甲斐は、飛躍のきっかけとなった「あの人」を思い出す・・・・

本作は日向三高の甲斐監督が主人公的な立ち位置で、飛雄馬はそれに協力する謎の男として描かれる。まさしく外伝といった内容。

かつての恋人・日高美奈と出会った地が舞台であり、全編を通してどこか切ない雰囲気の作品。

 

練習中に敗戦が続く事を地元のチンピラに馬鹿にされた野球部は乱闘騒ぎを起こしてしまう。夢を絶たれることを恐れた甲斐は焦るが、突然現れた謎の男がボートのオールで甲斐の足を叩き折る。

「命のいらない風来坊」と称するその男は代わってチンピラたちを相手にするが、只ならぬ雰囲気に飲まれた彼等は逃走。その場は収まったものの重傷を負った甲斐は怒る。

だが、男は高校野球の監督が乱闘を演じたらどうなるのか?甲子園出場どころか解散に追い込まれるだろうと断言する。納得する甲斐だが、一連の様子を見ていた男は、相手の挑発に乗り乱闘を先導した主力選手三名を除名処分とするよう伝えるのだった。

 

後日練習中に現れた男は負傷した甲斐に代わり、見事なシート・ノックを見せる。春季キャンプで宮崎に来た川上監督率いる巨人軍と同じ空の下で「出ると負け」が目立つ野球部の特訓は続いた。只者ではない・・・彼は何者なのか?

ここでの飛雄馬は「新巨人の星」序盤や「巨人のサムライ炎」に登場した時のようなクールな雰囲気。(何故かサングラス姿になるとクールになる率高し)

短編ではあるが、ラストの飛雄馬の台詞、退部処分となり、逆恨みから猟銃を飛雄馬に向けた元野球部員たちが、その正体を知り崩れ落ちながら口にした台詞は前作を知る者の胸を打つものがあるのではないか。

 

掲載誌が異なる関係なのか不明だが、最後まで飛雄馬が素顔を見せる事はない。最後にサングラスを外したコマは後姿で描かれ、周囲に名前を明かす事もなかった。日向三高野球部に自らが鍛え上げた3人の新鋭を残した後、静かに彼は去って行くのだった・・・。

 

この作品で飛雄馬は優れたコーチとしての一面を見せるが、掲載時期等を考えると、この外伝が後の作品で描かれる「コーチとしての飛雄馬」像のヒントになった可能性があるのではないか?と筆者は推測。

また、宮崎キャンプに来た巨人軍のシーンで「新巨人の星」連載当時のタッチで描かれる川上監督が見れるのは嬉しい。

巨人軍はまだ王者の地位を維持している時期であり、勿論長島も現役選手。後の展開を思わせる台詞、描写等は本作では見られない。

作品タイトル通り、本作はあくまで前作「巨人の星」の外伝である事が分かる。

栄光を掴んだと同時に破滅し、人知れず去った後、巨人軍が屈辱の最下位となるまでの5年の間、飛雄馬は何を思い、何をしていたのか?その答えがここにある。

空白の時期を埋める貴重な外伝作品である。

 

 


新巨人の星(コミカライズ版)

●「新巨人の星(コミカライズ版)」

 

原作:梶原一騎先生/川崎のぼる先生

作画:井上コオ先生

月刊テレビマガジン 1977年10月号~1978年08月号連載

増刊テレビマガジン 1978年01月増刊号/1978年04月増刊号掲載

全11回+番外編2回

 

本作はアニメ化と同時に連載スタート。梶原一騎先生原作である「侍ジャイアンツ」で知られる井上コオ先生が作画担当となった。

連載期間は放映に合わせる形で約1年。謎の代打屋登場から長島巨人悲願のV1達成までが描かれている。

 

1話~3話:第1章「泥濘の章」に該当。伴の協力を得て打撃特訓を続ける中、右腕で剛速球を投げられた自分に驚く。

4話~6話:第2章「鳴動の章」に該当。巨人軍のキャンプにテスト生として参加。屈辱に耐える姿が描かれる。

7話~11話:第3章「噴煙の章」に該当。宮崎キャンプから戻り、背番号3を譲り受け、「殺人スクリュー・スピン・スライディング」で活躍。掛布との対決を経てオールスター戦で右投げのベールを脱ぐ。

 

週刊少年誌より更に下の年齢層を対象とした月刊児童誌の連載で、ページ数も決して多くはないが、その内容は侮るなかれ。原作漫画とアニメの展開をベースにオリジナル要素も加わり、独自の世界観を確立している。また、構成として表記されている城山昇氏はアニメ版の脚本も担当。

 

本作独自の設定として、飛雄馬は当初名前を伏せて八百屋に居候していた。この八百屋の家族は非常に温かみのあるキャラクターで、特に飛雄馬を慕う少年「マーぼう」はかつての左腕時代飛雄馬の小さな理解者であったター坊を彷彿させる好キャラ。

さすがに読者層の異なる原作漫画版に登場するのは無理があるが、この家族はアニメ版パート2のレギュラーである寿司屋親子の原型とも言える、読者と登場人物を繋ぐ存在である。

純粋に飛雄馬を応援するマーぼうの存在は大きく、巨人軍へ再入団し、宮崎キャンプから帰ってきた飛雄馬が背番号3のユニフォームを真っ先に見せたのはマーぼうであった。

基本的に1話完結のストーリーとなるため、2頁見開きの山場が効果的に使用されており、最大の山場であるオールスター戦での大遠投シーンは原作漫画と同じく見開きで描かれている。

 

「侍ジャイアンツ」にも言えることだが、井上先生の描く表情豊かなキャラクター達は好印象で、且つ非常に読みやすい。児童誌での連載を担当されたのは最適だったと言えよう。

原作漫画版、アニメ版は大人向けの内容を子供に読ませる(見せる)というギャップに苦しんだ感があるが、読者層を児童に絞ったコミカライズ版はそういった迷いは感じない。原作漫画版で飛雄馬が恋に苦しんだ鷹ノ羽圭子のエピソード等はあり得ない世界観である。

 

筆者は「新巨人の星」という作品が最も綺麗に終わることのできたタイミングは、(結果論に過ぎないが)飛雄馬の巨人復帰1年目である昭和51年。最下位翌年のリーグ優勝時点だと確信しているが、このコミカライズ版は丁度そこで完結している。原作漫画版、アニメ版、「巨人のサムライ炎」と数パターンある結末の中で、史実に合わせた形で最も綺麗に終わったのがコミカライズ版というのも興味深い。

 

この作品は過去一度も単行本化されておらず、合本化されたこともない。

現在、オリジナル「巨人の星」「新巨人の星」以外の周辺作品を読むことは困難となっている。このまま埋もれてしまうにはあまりに惜しい作品である。

 


第1話

うわさにきくが名はしれぬ!

なぞのホームランバッター登場!

 

「この物語は、ジャイアンツが長島新かんとくのもと、球団はじめての最下位(びり)になった二年まえの夏からはじまる。」

東京近郊の草野球界に突然現れた凄腕の有料代打屋。彼の正体は一体・・・?

掲載誌は児童誌であるテレビマガジン。原作漫画版とほぼ同じ導入部だが、言葉の置き換え等のアレンジが面白い。

居酒屋のテレビに映るのは大量リードを許し、苦戦する巨人軍。酒を飲みながら涙する飛雄馬・・・ここは原作漫画版では世間から浮いている孤独な姿を言葉ではなく画で読者に理解させ、夜の街に消えて行く印象的なシーンだったが、コミカライズ版では下宿先の八百屋の子供「マーぼう」が迎えに来る。このマーぼうはテレビマガジン読者層とほぼ同年齢の少年であり、本作の大きな特徴でもある。

マーぼうに何故巨人の帽子を被っているのか?と尋ねられ、「むかし巨人軍のエースだった星飛雄馬というピッチャーにもらったんだ」と答えるが、幼いマーぼうは星飛雄馬を知らない。「まだ赤ん坊だったからな」と寂しく笑う姿は、子供のレギュラーキャラを登場させながら、上手く序盤の寂しげな雰囲気を表現している。

後日、八百屋に現われた伴。長年の調査でついに親友の居場所をつきとめた伴は、下宿人の「飛田」なる男は巨人の元エース・星飛雄馬であることと、かつて左腕を破壊し姿を消した経緯を語る。ここは前作の原作漫画版ラストの十字架を背に立ち去る場面も再現されている。伴は彼が一人特訓を続ける山奥へ車を走らせる。

飛雄馬はバッターとして、再び巨人の星を目指そうとしていた。投げることはできなくても、5割の成功率を維持できれば、ピンチヒッター専門でも役に立てると。よみがえれ飛雄馬!

 


第2話

長島かんとく まっててくれ!

 

伴は行方をくらませていた親友・星飛雄馬が低迷する長島巨人の為、密かに特訓を続けていた奥多摩に駆けつけた!

原作漫画版と異なるのは何と言ってもマーぼうも同行している点。本作は花形夫妻が未登場のため、再び野球地獄に踏み入れようとする「業」のドラマは抑えられ、スピーディーに話は進む。

飛雄馬の巨人復帰への熱い思いを知った伴は協力を決意し、マーぼうも「ぼくもついてるよ!」と声をかける。3人で笑いあうシーンは微笑ましい。

井上コオ先生の絵柄も実にマッチしており、同じシチュエーションでありながら飛雄馬の野球への未練や惨めな状況は、巨人復帰を目指し、熱く燃える前向きな描写となっている。これは読者層が児童であることを意識しての変更かと思われるが、コミカライズとして正しい判断だろう。但し、低迷する長島巨人の様子はしっかりと描かれている。

伴の協力により、ついに巨人復帰計画はスタートした。(本作では計画名を「野球人間ドック」とは呼称しない。)密かにプロの二軍投手達を高額で雇い、伴重工業グラウンドで打撃特訓を受ける飛雄馬。この覆面投手団。原作では全員サングラス姿だったが、本作では本当に覆面を被っており、マーぼうが「みんなデストロイヤーみたいだ!」と口にするのが可笑しい。彼等と同じく素性を隠す為、飛雄馬はここで初めてサングラス姿となる。

そしてグラウンドに突然現れた老人・・・「おろかじゃ飛雄馬!」父・一徹が登場し次回へ。

 


第3話

右うでで、あ、あんなに

あんなにはやいたまが、なげられた・・・・

 

第3話はテレビマガジン本誌ではなく別冊付録に収録されており、頁数も多い。内容も力が入っており、いよいよコミカライズ独自の展開が目立ってくる。

父・一徹の言葉を聞き入れず、ひたむきに覆面投手団相手の打撃特訓を続ける飛雄馬。自らの自信の無さから悪夢にうなされ、それに打ち勝つため深夜に部屋で素振りを始めるが、飛雄馬の部屋は2階なので八百屋親子が地震と勘違いして飛び起きてしまうシーンが可笑しい。この八百屋親子は居候である飛雄馬を心から応援しており、それを暖かく見守る姿が微笑ましい。その存在は大きく、本作を語る上で欠かせない存在だろう。

後日、練習中に再び現われた一徹は、何と覆面投手に代わって飛雄馬にボールを投げる。スローボール等を巧みに使い分け、飛雄馬が打ち取られてしまう描写には驚く。

「あきらめろ飛雄馬」・・・そう言い残し、父は立ち去るのだった。

花形の不在や、ビル・サンダー登場前であること、発表誌が月刊誌であること等で、一徹や伴はより行動的になっている印象である。

その後、飛雄馬を励ます為、マーぼうと仲間たちはトレーニング場を作り(ここは子供らしい発想で可愛らしいシーン)、再び奮起し練習に励む飛雄馬は、伴に頼まれ伴重工業の野球チームの試合で代打として打席に立ち、本塁打を放つ。

これで勝負は決したと伴は残りの回でライトの守備を星に任せるが、予想に反し返球出来ない彼に向かって打球が!!走るランナー。しかし左腕は既に・・・

焦る飛雄馬は、咄嗟に「右腕」でボールを投げる。その凄まじい球威は!!

自分の身体に秘められた可能性に驚く飛雄馬。果たしてどうなる?

 


番外編①

飛雄馬をよみがえらせるため、元大リーグのコーチがやってきた!

 

本話は本編の流れに含まれない番外エピソードとなる。第3話とは異なる形で右投げの秘密が明かされるが、本編とほぼ同時期に何故このような形で発表されたのかは不明。

発表誌が本誌ではなく増刊号であり、単発エピソードで完結させる必要性がある為、このような形になったのではないかと推測。

覆面投手団(本編と異なり、マスク姿ではなくサングラス姿)を相手に連日特訓を続ける飛雄馬だが、伴はアメリカから大物打撃コーチであるビッグ・ビル・サンダーを呼び寄せる。

サンダーはお茶目な性格が強調されており、飛雄馬の居候する八百屋で一緒に寝泊まりする。八百屋親子との会話シーンが楽しい。

コミカライズ版には「左門メモ」のエピソードは存在せず、伴の自宅でセ・リーグ一軍投手の投球モーションを撮影したビデオをサンダー自身がメモし、それを再現。飛雄馬のバッティング技術は目に見えて向上していくが、何としても巨人復帰を阻止せんと一徹がサンダーに接触。強打者である阪神・田淵(のコーチ)に魅力を感じたサンダーは飛雄馬のコーチを辞め、打者としての再起は過去の栄光へのプラスには決してならない。新しい人生を歩むべきだと語る・・・・。そのサンダーの言葉から父親の関与を知った飛雄馬は怒りのあまり「右手」でボールを掴み、渾身の力で投げる!

その球威に驚くサンダーと伴。飛雄馬は自らが右利きであり、幼き頃に左利きに矯正された事実を明かすのだった・・・・・元々右利きであることを知っているのは本話のみの設定である。制球力に大きな問題を抱えているため、元々投手復活は考えていなかったという展開には驚く。

しかし、その球威を見たサンダーは阪神との契約を取り下げ、飛雄馬の右投手復活の可能性に賭けることを決意するのだった!

設定変更に関しては賛否が分かれるだろうが、単発の読切エピソードとして読んだ場合、右投げの遠投を山場に持ってきた内容は十分楽しめる。サンダーの好人物ぶりが光る一篇である。

 


第4話

とうとう 大どんでんがえしのひみつに気づきおったか!

 

第3話ラストで自らの右腕が生きている事に気付いた飛雄馬!

代打ではなく、投手として復活出来る可能性に気付いた飛雄馬は、伴と供に一徹の住むアパートへ向かう。

右腕の秘密に気付くことを恐れていた一徹は驚愕。原作漫画版では花形の口から一徹に伝えられ、そこで大どんでん返しの正体を明かす流れなので、本作の飛雄馬と伴が直接一徹に話に行く展開には驚く。登場キャラクターを絞ったことでキャラの行動が整理され、シンプルな流れとなり、対象の読者層にも理解しやすい内容となっている。飛雄馬の巨人復帰を巡る様々な人間模様、特に自らのエゴを剥き出しにする一徹の描写は本作には不要だろう。

左腕を破壊した悲劇を再び繰り返すと言うのかと反対する一徹に対し、心の中で燃え続ける炎を消すことは出来ないと断言し、部屋を飛び出す飛雄馬。

追って来た伴は、直接長島監督に会うのだと車に星を乗せ、多摩川グラウンドへ急行する。久々に見た星の姿に喜ぶ長島監督だが、巨人復帰の意思を伝えると厳しい表情を見せる。来季はパ・リーグより超大物打者である張本を獲得すると。打者としての復帰はないと察した伴は、秘密にしていた右投げを口にする。だが、長島は何も反応しない・・・・

後日、もはや復帰の道は絶たれたかと悲観する飛雄馬の前に、突如現れた王貞治!それを遠くから見つめる長島監督。果たして・・・・?

原作漫画版の重要エピソードに独自のアレンジを加えつつ、物語は次なるステージへ進む。

 


第5話

かくして・・・あらゆるわるいきろくをぬりかえ、ジャイアンツは最下位で昭和五十年はおわった。

 

今回も第3話と同じく別冊付録に収録。本話はテスト生として巨人軍宮崎キャンプに参加する重要エピソードである。

前回、突如現れた王に向かい、全力でボールを投げる飛雄馬。ここで「定まらないコントロールもデッドボールにならなければ武器にもなり得る」と伴の口から語られる。これは本来は一徹の台詞であり、大胆な変更だが、王との対決の中での台詞であり不自然さは感じない。それを見た長島は何も語らず立ち去るのだった・・・。

かくして悪夢の昭和50年は終わり、後日長島から伴へ連絡が来る。「巨人軍の宮崎キャンプに合流せよ」・・・喜ぶ飛雄馬と八百屋一家。しかし伴の表情は固い。テスト生としての自費参加であり、マスコミの好奇の目に晒されるのは間違いないのだ。

覚悟を決め、宮崎キャンプに合流した飛雄馬は予想通りマスコミの格好の餌食となる。惨めな状況に耐える姿は痛々しい。「た、たえろ星・・・・いまこそ男一ぴき  たえねばならん しょうねん場じゃい!!」苦しげな表情の伴。

しかし長島監督が動いた。今しばらく彼をそっとしておいて欲しいと。頭を下げる彼の姿を見て、記者達は持っていたフィルムを破棄するのだった・・・・これは本作独自の展開で、直後「がんばれや・・・」と静かに立ち去る長島監督が非常に格好良い。

そして王始め他の選手達も「もどってこい不死鳥よ!」「ふたたび巨人の星とかがやけ!」と声をかける。涙する飛雄馬・・・。

児童向けにアレンジされているとは言え、やはりヘビーな展開ではあるが、最後にホッとするシーンを持ってくる構成は月刊誌の別冊付録として上手く纏められており、十分評価に値するのではないだろうか。

 


第6話

飛雄馬 あこがれのジャアンツへ入団決定!

 

本話でついに巨人復帰!!連載開始から約半年かけての再入団となった。

ここまでの過程は原作漫画版、アニメ版とも非常に丁寧に描かれているが、本作も月刊児童誌連載という頁数の制限がある中で、やや急ぎ足な点はあるものの、「第三の新巨人の星」として十分読ませる内容となった。

サードに転向する高木を鍛える長島監督。高木の後方には球拾いとしてテスト生(飛雄馬)が。グラブは右手にはめている状況である。右投げは極秘とされ、練習の機会に恵まれない飛雄馬。だが、それを見つめる伴には策があった。長島監督が必ず星を見直す時が来る。その日のための秘密兵器がやって来ると・・・。

そして宮崎空港に到着した飛行機から現れた大柄のアメリカ人。伴と合流し、飛雄馬の前に現われたのは大リーグの大物名コーチであるビッグ・ビル・サンダーであった!

既に番外編①で登場しているサンダーだが、あらためて本編でも登場となった。その目的は原作とは異なり、「殺人スクリュー・スピン・スライディング」の伝授である。数日後の紅白戦までにマスターし、活躍する事で巨人復帰を認めさせようと言うのだ。(よって、サンダーは打撃コーチではない。)

特訓を終え、ついに打席に立った飛雄馬は初球から打ち、そのまま一気に二塁を狙う。序盤からいきなり飛び出す殺人スライディングに巨人ナイン全員が驚愕するのだった!!

ブーイング飛び交う中、続けて三塁で激突した張本が理解を示すシーンは本作独自の描写で面白い。試合後、長島監督に「ユニフォームを着替えて来い」と声をかけられる飛雄馬。そして・・・伴の前に現われたのは栄光の背番号3のユニフォーム姿の親友であった。再び不死鳥は灰の中から甦ったのである。

 


第7話

な、なんとしてもるいにでて、殺人スクリュー・スピン・スライディングをやらなければ、ピンチヒッターとしてのおれのかちはない!

 

宮崎キャンプを終えた巨人軍。羽田空港へ向かう飛行機内の飛雄馬は短髪になり、精悍な印象に変化。巨人軍は長髪を禁じている為だ。それまでは同じ井上コオ先生作画担当である「侍ジャイアンツ」主人公である番場蛮を思わせる長髪だったが、ここで「井上先生の描く星飛雄馬」が完成した感がある。

羽田空港には飛雄馬の到着を待つ伴、サンダー、マーぼうの姿が。「みてくれマーぼう。これを」飛雄馬は背番号3のユニフォームを自分を純粋に応援してくれた小さな理解者に真っ先に見せる。そして、甦った不死鳥は今度は大空に羽ばたかなくてはならない・・・飛雄馬は闘志を燃やし、昭和51年ペナントレースは開幕した!

だが、飛雄馬の出番はなかなか来ない。焦る飛雄馬だが、ライバルたる阪神戦での起用がついに決定。かつて青雲高校時代に、そして左腕投手時代に死闘を繰り広げた甲子園でバッターボックスに立つ!本作に花形満は未登場だが、甲子園決勝で飛雄馬と花形が抱き合い、伴が涙する有名なカットがここで再現されている。是非本作にも登場して欲しかったところだが、舞台である昭和50~51年は花形の球界復帰前であり、花形専務としての暗躍は児童誌に向いているとは言い難く、カットはやむを得ないと言ったところか。

ついに塁に出た「ブラック・ジャガー」飛雄馬は二塁、三塁、そして本塁と連続で殺人スクリュー・スピン・スライディングを使用し1点をもぎ取る!!全編を通してテンションの高い回となった。

 


番外編②

殺人スライディングがつかえない

飛雄馬大ピンチ!

 

番外編第2弾。本話は番外編①と異なり、本編第7話~第8話間に存在すると思われるエピソード。増刊号掲載の為、1話完結で手堅く纏まった好編である。

殺人スクリュー・スピン・スライディングで代打の切り札として活躍する飛雄馬。対阪神戦で外角狙いの初球からいきなりヒットを飛ばし、一気に本塁を狙う!暴走とも言える大胆さだが、確実にアウトとなるタイミングで殺人スライディングを使用し1点をもぎ取る!その活躍を喜ぶ下宿先である八百屋の親子。飛雄馬を慕う一人息子・マサル(マーぼう)は、飛雄馬に少年野球の審判をして貰う事を思いつく。何気ない描写だが、「主人公が自分の身近にいる」のはマーぼうと同じ年齢層である読者を意識したものであるのは間違いない。

そして翌日。飛雄馬の前で出塁したマーぼうは殺人スライディングを真似て怪我をしてしまう。更に偶然居合わせたマスコミに記事にされてしまい、責任を感じる飛雄馬・・・自分を慕い、応援してくれた子供が自分の真似をしたために歩けなくなってしまうかもしれないのだ。

試合でも精彩を欠き、次に気のないバッティングをしたら即二軍行きとなると宣告されてしまうが、長島監督は飛雄馬が自信を取り戻す事を信じているのだった。

そして代打の出番のないまま1ヶ月が経過し、マーぼうのギプスが取れる時が来た。痛みから倒れ込んでしまう姿にショックを受けた飛雄馬はその場から立ち去る・・・だが、医師はマーぼうの努力次第で治ると断言。伴はマーぼうを連れて後を追う。

球場に現われず、野球に別れを告げようとしていた飛雄馬の前で、マーぼうは痛みに耐えながら歩く・・・・再びグラウンドに戻ってもらうために!

場面は変わり、巨人阪神戦。同点のまま九回裏となり、巨人は選手を使いつくし、代打代走が不在のピンチ。そこに現われた飛雄馬。

「一球目からホームスチールをやって、マーぼうにほんものの殺人スライディングをみせてやる!」

マーぼうよ、きっとなおってくれ!飛雄馬は大きく夜空に舞い上がった。まるで不死鳥のように。 

秀逸なラストであり、コミカライズ版ならではの魅力の詰まった回と言えるだろう。

 


第8話

し しんじられません

星が右手でごう速球をなげました!

 

ついに本話で右投げのベールを脱ぐ時が来た!

サンダーの裏切り、殺人スライディングの敗北、そしてオールスター戦での大遠投と、全編が見所満載の回である。あまりにも殺人スライディングの活躍が目立ちすぎてしまい、このままでは本来の目標である右投手復活への道が遠のき、ピンチヒッターで終わってしまうかもしれない・・・そう考えたサンダーは阪神の打撃コーチに就任。その入団記者会見で掛布を育て、殺人スライディングを破ると宣言。驚愕する飛雄馬。果たしてサンダーは自分を裏切ったのか?

場面は変わり、掛布に二つのコマを使って打倒策を説明するサンダー。「回転するコマは後から投じたコマのより勢いある回転で弾き飛ばされる」・・・掛布の特訓描写が少なく、すぐに対決の場面に移行してしまうのは頁数の関係だろうが、少し残念ではある。

もはや対決あるのみ。激突する両雄!サンダー・掛布コンビの前に猛威を奮った殺人スライディングは破れるのだった。

飛雄馬は長島監督にオールスター戦出場辞退を申し出るが、長島監督に却下される。考えがあると・・・

そして迎えたオールスター戦。パ・リーグは三塁にランナーを進め、強打者・門田が打席に立つ。ここでセ・リーグ古葉監督は長島監督の頼みを聞き入れ、返球できない星をライトに。怒る観客。だが飛雄馬は理解した!長島監督は自分に何をさせようとしているのかを。

フライをキャッチした飛雄馬は、ボールを「右手」に持ち替えバックホーム!!恐るべき剛速球が弾丸のようにミットに収まった!

原作漫画版で2頁見開きで描かれた大遠投シーンは、コミカライズ版でも同じく迫力ある見開きで再現された。全編イベントの連続であるため、話を纏めるのに苦労した感があるが、ダイジェスト的内容にならず上手く構成されているのは、アニメ版でも上手く原作エピソードを補完していた脚本・城山昇氏の作品への理解度の高さによるものが大きい。

ついに右投げを披露した飛雄馬。右投手復活の日は近い。

 


第9話

つ ついにおれはジャイアンツのマウンドへ・・・・かえってきた!

 

前回のイベント編を経て、ついに右投手としてカムバックする回である。

全11話で復活は実に第9話。

アニメ版では右投手復活は第34話。「新巨人の星」という作品は、かつての英雄が夢よ再びと巨人軍復帰を目指す試練のドラマであった。これは当時の読者、視聴者が望んでいた展開だろうか?恐らくその答えはNOだろう。しかし、ここまでの時間をかけた丁寧な描写があればこそ、奇跡の復活のカタルシスを生むのだ。それはコミカライズ版である本作も同様だろう。

極秘の特訓は続く。しかしコントロールが一向に定まらない。球威はあっても全くストライクが入らなければ相手はフォアボールを狙ってくる。焦る飛雄馬。

一方、サンダーは掛布に対し「星の投手復活は間違いない」とピッチャーの位置を1m前にずらして打つ特訓を指示する。脅威の剛速球対策だ。

再び場面は戻り、飛雄馬の前に王が現れ、コントロール調整用投法「ノーワインドアップ」を試すよう助言する。この投法と組み合わせる事でカウントを整えれば・・・長島監督は決断する。

 

ついにその時が来た。巨人阪神戦、九回表、ツーアウト満塁のピンチ。

「ジャイアンツ せんしゅのこうたいをおしらせします ピッチャー小林にかわってリリーフ星 背番号3」

右投手・星飛雄馬。ついにマウンドに立つ!

 

打席に立つのは掛布。殺人スライディングを巡るライバル同士の対決が再び実現。そのノーコンぶりと球威に驚く掛布だが、ストライクが来た時に必ず打つと闘志を燃やす。ここで想定外のノーワインドアップの使用に驚くサンダーと掛布。最後は真っ向勝負で打ち取り勝利する飛雄馬。巨人のピンチを救うのだった。

そして九回裏。王の劇的なホームランで試合終了。最後の見せ場を王に持ってくる構成は面白い。掛布を打ち取ったボールをマーぼうにプレゼントする飛雄馬。巨人はV1に向けて前進する!

 


第10話

巨人の優勝めざし 

なげまくる星飛雄馬

 

原作漫画版はオールスター戦の大遠投~右投手復帰戦までが物語のピークとして構成されており、その後の長島巨人軍のV1達成までの描写は意外なほど少ない。これは既に物語の焦点が次に控える阪急との日本シリーズ、そして翌シーズンへの展開に移行しつつあったことを意味する。アニメ版では1話丸々補完エピソードが制作されたが、本話は原作漫画ともアニメとも異なるオリジナルエピソードでV1達成を描いた。

リリーフとしての飛雄馬の活躍は続き、長島巨人は悲願の初優勝を目前としていた。次のヤクルトとの三連戦で一勝すればセ・リーグ制覇となるのだ。しかし、ヤクルト広岡監督の自宅に謎の電話が・・・電話の主は一徹であり、星投手の弱点を密かに伝える。果たしてその内容とは?

そして迎えた三連戦。巨人が2点をリードした七回裏。ヤクルトが1塁にランナーを進めた状態で星が登板した。謎の言葉を信じた広岡監督の指示で打者は初球からバントを狙う。意表を突かれた飛雄馬が一塁に投げた球は大暴投に。ここで「右では守備が全くの素人」である事が露呈してしまう。1点を返され、更にランナー1、2塁のピンチ。強打者・マニエルを前にノースリーとなり、焦る飛雄馬はフォアボールを避ける為に投じた甘い球を打たれ、巨人は敗北!続く2戦も逃し、残るは広島との最終戦のみとなった。

そして九回裏。広島はランナーを3塁に進め、またもや巨人はピンチとなる。もはやリリーフ不在の危機に長島監督はどう動くのか?

そこに泥だらけになった飛雄馬が登場。スクイズを狙ってくる打者に対し、飛雄馬は何と投球直後に突進!スライディングしながら自ら打球をキャッチし危機を脱する!ついに長島巨人は悲願のV1を達成するのだった。

致命的な弱点を乗り越えた飛雄馬の姿を静かに見守り、安堵の涙を流す一徹の姿で本話は終了。原作漫画版で描かれた翌シーズンに露呈する投球フォームで球種を読まれる展開とも異なる守備の未熟さを突いたエピソードであった。次回最終回。

 


第11話

おれとジャイアンツのねんがんは日本シリーズに優勝することだ・・・・

こんどはかならず日本一のざをとってみせる。かならず・・・

 

アニメ版(パート1)放映に合わせて約1年間連載された本作も本話が最終回となる。

舞台は日本シリーズ巨人阪急戦。3勝3敗で迎えた最終戦からスタート。4対2で阪急リードで九回表、阪急の攻撃となる場で飛雄馬がリリーフで登場。前話から少々時間が経過しており、日本シリーズ最終戦、しかも9回表からのスタートには驚く。スタンドには一徹、伴、マーぼうの姿が。

やはりコントロールに難があるためボールを連発する飛雄馬だが、カウントを稼ぐ為のノーワインドアップ投球時を狙い打ちされ、強烈なピッチャー返しに襲われる!その球を思わず「右手」で受けてしまう飛雄馬。かつての左腕投手時代の癖が抜けていない描写はここでも再現されている。

ビッチャー返しの描写は原作漫画やアニメよりもダイレクトで、飛雄馬は続く打球も直撃を受けて倒れこむ。ここは交代するしかないと考える長島監督に対し、飛雄馬はそれを拒否。自分に考えがあると。それを聞いた長島は続投を決める。ノーアウト1、2塁の危機をどう乗り越えるのか?

再び襲ってきた猛打球に対し、飛雄馬は殺人スクリュー・スピン・スライディングでボールを弾き飛ばし、一気にトリプルプレーで阪急打線を抑え込んだ!!

しかし九回裏、巨人は無得点で終わり、昭和51年日本シリーズは阪急が勝利したのだった・・・。敢闘賞に選ばれた飛雄馬。それをスタンドから祝福するマーぼう、伴、静かに見守る一徹。

飛雄馬は日本シリーズを制し、今度こそ巨人を日本一にすることを胸に誓い、闘志を燃やすのだった。

 

月刊テレビ児童誌は常に新番組を優先した構成であり、開始時は大々的に特集を組まれた作品も終了時は記事、連載漫画とも縮小されてしまうことが多い。放送開始時は大々的に特集を組まれた「あの巨人の星の続編」も同様であり、残念ながら特集記事は無く、最終回の頁数も少ない。本作は第1話36頁、第2話~第10話迄は26頁前後、第11話16頁、別冊掲載の番外編①は50頁、番外編②40頁とコミカライズとしては比較的頁数は多い作品である為、ラストも頁数は維持して欲しかったところである。

その影響は顕著であり、日本シリーズ最終戦九回表からスタートする他、全体的に急ぎ足な展開となっており、コミカライズ版の特徴である各話で効果的に使用されていた見開き描写が無いのは残念。序盤に見られた日常シーンは巨人復帰後は当然減ったが、飛雄馬を支えた八百屋夫婦は最後に1カットだけでも登場して欲しかったと思う。一徹、伴とマーぼうが僅かに登場したのは幸いであるが、仮に本話が前話と同じ頁数であれば、もっと試合もドラマも描けたかと思うと惜しい。

しかし原作の要点はしっかりと押さえており、殺人スライディングで阪急打線を封じ、史実通り阪急に敗れたものの、新たなる目標に向けて前を向く飛雄馬の姿で爽やかに物語を締め括っている。

城山昇氏の原作への理解度の高い構成と井上コオ先生の親しみやすい絵柄の本作は、児童を対象としたコミカライズ版として高い水準を維持した作品となった。

 

 


新巨人の星Ⅱ(コミカライズ版)

「新巨人の星Ⅱ(コミカライズ版)」

 

原作:梶原一騎先生/川崎のぼる先生

作画:秋月研二先生

月刊少年マガジン 1979年05月号~1979年10月号連載

全6回

 

本作はアニメ版「新巨人の星Ⅱ」及び「巨人のサムライ炎」と同時期に連載開始。作画は秋月研二先生が担当。

井上コオ先生のコミカライズ版を引き継ぐ内容ではなく、原作漫画版とも異なる独自の世界観である。

掲載誌は前作の児童誌から少年誌となり、やや対象年齢に変化が見られ、物語はアニメ版のオリジナル展開を基に大胆に再構成された。今回はアニメ版脚本を担当した一人である金城芳三氏が構成に参加。「脚本」として表記されている。

 

本作独自の展開として、宿命のライバルの復活を現役選手である花形、左門が祝福する場面がある。つまり花形は飛雄馬の復活前に球界に復帰している(あるいは元々引退していない)ことになる。

また舞台設定は劇中描写から1979年(昭和54年)である事に驚く。

原作漫画版は1978年(昭和53年)シーズン中に終了しており、アニメ版も明確な描写は無いものの同年と思われる。1979年は既に江川卓が入団しており、巨人は5位に沈んだ年。サムライ炎では飛雄馬が引退した年である。発表されたのが少年誌である為、史実に深く絡んだ描写は無いものの、飛雄馬がカムバックした年が大幅に異なるのは面白い。果たしてどんなドラマがあり、彼は帰ってきたのか?

 

そして本作の大きな特徴として、この物語の実質的な主人公が飛雄馬の新たなる相棒「丸目 太」であることが挙げられる。

 

本作の連載期間はアニメ版パート2と同様に半年であり、かつ月刊少年誌掲載であるため、飛雄馬自身の描写は復帰戦からの快進撃の後、左門にフォームの欠陥を見破られ二軍落ちとなり、新大リーグボール開発を決意する・・・とアニメ版の新魔球登場イベントを全6回の中で描く関係上、急ぎ足となってしまった感がある。が、れと同時進行する形で丸目が野球に目覚め、飛雄馬の相棒となるまでのドラマは丁寧に描かれている。

青雲高校レスリング部主将であり、校内で番長として君臨していた丸目の心境の変化は見所の一つで、ある程度野球人として完成されてしまった飛雄馬に代わり物語を引っ張った。

 

また本作にはオリジナルのヒロイン・上条小百合が登場する。原作漫画版の鷹ノ羽圭子、アニメ版の咲坂洋子と違い、飛雄馬ではなく丸目と絡む役割であったところからも、意図的に彼を物語の中心に持ってきた感がある。

TV放映終了に合わせる形で連載は終了。新魔球が完成し、新たなる相棒を得た飛雄馬は花形、左門の待つグラウンドへ向かう!

まさにこれからという所で終わってしまったのが非常に残念である。丸目の物語としては綺麗に纏まっているが、やはり星・丸目バッテリーとライバルたちとの激闘は読んでみたかったと思う。

 

本作も未単行本化作品であり、今後、刊行されることを期待したい。

 


第1話

勝負の世界に過去の栄光などなんのやくにもたたない!

つねにあしたにむかってはしるしかないんだ!!

 

物語は昭和54年。後楽園球場の巨人阪神戦から始まる。右投手として甦った星飛雄馬は、リリーフとして復帰第一戦のマウンドに立った!

既にツーアウトを取り、最後の打者である掛布も抑えた飛雄馬をスタンドから祝福する花形と左門。同時におそろしい敵が舞い戻って来たことを実感するのだった・・・・。

この冒頭シーンから本作は原作漫画版や井上コオ先生作画のコミカライズ版とも全く異なる設定であることが分かる。星飛雄馬は長島巨人が屈辱の最下位となった昭和50年に再び姿を現し、翌51年に復帰を果たすのではなく、巨人がV3を逃した翌年。江川事件により世間からを非難を浴び、5位に沈んだ昭和54年ペナントレース中に右腕投手として復活するのだ。よって本作では代打時代は存在しなかった事になる。

その第1話はアニメ版パート2の第1話をベースとした物語となった。母校青雲高校の野球部の創立十周年式典に招かれた飛雄馬と伴は、会場に乱入したレスリング部主将である丸目太と出会う。たかがガキの球あそびと笑う丸目は野球部を軽視し、挑発的な行動を繰り返すが飛雄馬は動じず、ならば自分の球を一球でも捕れたら君の勝ちだと勝負を持ちかける。「おれに野球のまねごとをさせようってのか!」と暴れる丸目に対し「真剣勝負だ。こわいかい?」と言い放つ飛雄馬。

プロの球を舐めた丸目は飛雄馬の剛速球を捕球することはできず、腹に直撃され吹っ飛ばされる!ここはアニメ版の印象的なシーンを忠実に再現。しかしボコボコにされながら徐々に様になっていく様子に驚く伴・・・逃げずに立ち向かう丸目は最後の一球をついに捕球出来た瞬間、気を失いその場に倒れ込んだ。

後日、丸目は伴と共に後楽園球場にいた。試合を観戦しながら伴は青雲高校野球部OBとして、丸目に野球をやってみないか?と声をかけるが彼は拒否する。しかし散々痛めつけられた飛雄馬が、実は自分を認めていた事を知り、俺はあいつの球を滅多打ちにしてやる!と一転。果たしてどうなる?

 


第2話

右投げ転向の星飛雄馬の弱点みぬく左門豊作!!

 

飛雄馬との出会いから数日が経過。あれから丸目はレスリング部の練習に姿を見せなくなっていた・・・もはや今の高校レスリング界で自分と対等に戦える相手はいない。その自分が星の速球に叩きのめされたという事実が頭から離れずにいたのだ。

一方、飛雄馬との初対決に闘志を燃やす左門は、自宅で飛雄馬の投球を撮影したビデオを見ながら、ある「弱点」に気付く。アニメ版に合わせた流れだが、第1話で巨人に復帰したばかりという本作独自の背景があるだけに、やはり急展開すぎる感はある。また、ここで左門の妻となった京子が登場。原作漫画版同様、本編に深く関わることは無かったものの、やはり前作キャラの登場は嬉しい。

再び場面は変わり、自宅で兄に星飛雄馬とはどんな男なのかと尋ねる丸目。兄は理屈抜きでほれる男だろうと答え、思った事は力いっぱいやれ。人生は一度きりだと励ます。アニメ版同様、弟とは違い出来た人間だった。

そして迎えた巨人大洋戦。復帰後、負け知らずの四連勝の飛雄馬だが、この左門との初対決でカムバックが本物かどうか真価が分かると全力で挑む。が、左門は飛雄馬の球をことごく読み、第一打席、二打席とヒット。そして三打席目で場外ホームランと完膚なきまでに叩きのめされてしまう!好投の中で左門一人に打ち崩されたのは何故か?

その時、長島監督は王選手からある言葉を聞き、降板した飛雄馬に二軍へ行くよう指示する。ショックを受ける飛雄馬。左門の気付いた秘密とは何か?

 


第3話

二軍おちの宣告をうけた飛雄馬!はたして一軍復帰の秘策をつかめるか!?

 

本話の主人公は丸目であり、飛雄馬の動向はその背景的に描かれている。飛雄馬は前話で左門一人に打ち込まれ二軍落ちとなるが、本作では復帰から右投手として完成するまでの過程の描写がないため、唐突な印象は否めない。右投手として甦った星飛雄馬は復帰後に即連勝を重ね、あっという間に弱点を見破られ二軍落ちしたことになる。作品タイトルこそアニメ版と同じく「新巨人の星Ⅱ」であるが、その内容は「Ⅱ」にあらず、本作独自の世界観である故に無理が生じているが、何故このような設定変更があったのか?

前作コミカライズ版の掲載された児童誌から月刊少年誌に舞台を移し、パート2とはいえ、あくまでも「新番組のコミカライズ」としての仕切り直しがその理由と思われるが、それを描くには頁数も話数も不足していたのは残念である。

甲子園を目指す青雲高校野球部の紅白試合に乱入した丸目は、エースである高瀬に大口を叩き勝負を挑むが、一球もミートできず無様な姿を晒し、自分が野球の素人であると思い知らされるのだった。本話では丸目の幼馴染である上条小百合が登場。暴走する丸目にも物怖じしないキャラで、馬鹿な行動が目立つ丸目との会話は面白い。

落ち込む丸目を案ずる小百合の前に現れた飛雄馬は、丸目宛に素質はあるものの、その才能を開花させるには相応の努力が必要であると記した手紙を渡す。初めて会った時に彼に何かを感じた飛雄馬は再び青雲高校を訪れていたのだ。その飛雄馬を探し、ようやく見つけた伴は王が気付いた飛雄馬の秘密を伝える。「おれの右の弱点は・・・過去の左投げ!?」

ここは当然原作と同じく球種を読まれる投球フォームの未熟さを指すが、本作単独で見た場合、この台詞が何を意味するのか分かりにくい。過去の左投げが何故弱点なのか?明らかに説明不足で残念である。そして飛雄馬は伴に数日前から考えていたことを明かす。「右・大リーグボール1号」を開発し、必ず一軍に復帰すると。丸目の今後の動向が気になりつつ次回へ続く。

 


第4話

一軍復帰をかけて大リーグボール完成をめざす星に最大のピンチ襲来!!

 

本話もメインとなるのは丸目の動向であり、飛雄馬の物語と並行して展開する。

手も足も出なかった青雲高校野球部主将の高瀬と再び戦う為、黙々と練習を続ける丸目。

前回登場した幼馴染である小百合は丸目家の隣に住んでおり、一人練習する姿を見て声をかけるものの、彼の耳には届かない。

「男の意地をかけても、おれはきさまのタマを打ってみせる!」と頭の中は高瀬との対決が全てであった。その彼は今後どう飛雄馬と絡んでくるのか?

一方、多摩川グラウンドで練習中の飛雄馬は、一軍に復帰し、ライバル達に投げ勝つには「大リーグボール右1号」しかない結論に至っていたが、まだヒントを掴めずにいた。前話で明かされた「過去の左投げ」の弱点に関しては、原作漫画版のような投球フォームの改良を目指すのではなく、新魔球での対抗となった。飛雄馬の剛速球を二軍選手では捕球できず、かつての伴のようなパートナーが欲しいと考えるが・・・

後日、丸目は野球部の前に現れた。高瀬に真剣勝負を挑み、高瀬もそれに全力で応える。野球に関しては全くの素人だった丸目は高瀬の球に食い下がり、勝負は着かぬまま二人とも力尽きる。高瀬は丸目の才能と努力を認め、野球部の力になって欲しいと声をかけるのだった・・・。

 

再び場面は多摩川グラウンドへ。丸目は練習中の飛雄馬に野球部に入ったことを伝え立ち去る。新大リーグボール開発用の捕手は自軍選手では務まらず、丸目を想定していた飛雄馬はどうするのか?

 


第5話

星飛雄馬と丸目太!

ふたりの男に一大転機が到来!!

 

野球部へ入部した丸目はその才能を開花させ、青雲高校では飛雄馬と伴以来、実に10年ぶりの大物の登場にわき立っていた。それを報じた新聞を読みながら複雑な表情の飛雄馬。新大リーグボールのヒントは掴めず、ただ時間だけが過ぎていく・・・

そんな時、飛雄馬は偶然「蠅が予想したコースと違う方向に動いた時、一瞬消えたと錯覚すること」に気付く。確か二、三日前にも同じ気持ちになった・・・子供達が紙飛行機をバットで叩こうとしても風圧で紙飛行機がそれを避けてしまったとき、テレビで富士グランプリレースの中継を見ていたとき・・・果たしてこれは何に結び付くのか?

場面は変わり、青雲高校野球部は地区予選ベスト8へ進出。丸目の活躍は続き、大いに注目を集めていた。しかし試合中にかつての不良仲間から執拗に煽られ乱闘騒ぎを起こしてしまう。責任を感じた丸目は退学届を提出し、青雲高校を去ってしまうのだった・・・・

その頃、飛雄馬は富士スピードウェイにいた。伴から話を聞いていたレーシングチームのスタッフは、スピードを出しすぎない事を条件に飛雄馬の頼みを聞き入れ、レーシングカーへの搭乗を許可する。(アニメ版では花形モータースのチームだが、伴との繋がりのあるチームに変更されている)飛雄馬は「空気抵抗」の事を考えながら162キロまで加速。そこで急激にコースを変えレーシングカーはコース外に弾き飛ばされる!慌てるスタッフたち。ここはアニメ版でもそうだが、いきなりレーシングカーに乗って確信犯的にコース外に飛び出すのだから迷惑な話である(笑)

助け起こされた飛雄馬は「大リーグボール右1号が見えてきた・・・」と呟く・・・次回最終回

 


第6話

さあ ふたりでいこう!左門 花形がまちうける男の戦場グラウンドに

大リーグボール右一号をひっさげて

 

アニメ版「新巨人の星Ⅱ」は予定通り約半年間の放送を終え、巨人の星シリーズは完結。コミカライズ版である本作も同時期に終了となった。

前回で新大リーグボールのヒントを掴んだ飛雄馬は密かに特訓を開始。板と板の細い隙間をボールが通り抜けるよう投げ込むが、ボールは一向に変化しない。これは何を意味するのかはアニメ版でも明確な台詞では説明されていないが、空気抵抗に関連しボール自体も変形させることを意味する。つまり本作で開発中の魔球は原作漫画版の「蜃気楼の魔球」ではなく、アニメ版の「蜃気楼ボール」であることが分かる。

その練習の場に駆け付けた伴から丸目が退学した事を聞かされ驚く飛雄馬・・・ここで新魔球を捕球出来るのは丸目しかいないと思っていたこと。野球部に入部したため可能性が消えてしまっていたが、実は今でも丸目の力が必要なことを明かすのだった。

長島巨人は低迷が続き、ついにBクラスに転落。新聞に「江川 あいかわらずの一発病!」「巨人五位 投手陣そうくずれ」とあり、本作の舞台が1979年(昭和54年)と分かる(新聞記事のコピーではなく、新たに描かれたものである為、作者のミスではない。)

丸目は野球用具を焼き捨てようとしていた。そこに伴が現れ、本当に良いのかと問いかける。迷う丸目。伴は「男がこれときめたことにすべてをかけるということは どういう事か見てこい!」とメモを渡す。

翌日メモに記された場に向かった丸目は、一人特訓を続ける飛雄馬の姿を見た。縦一列に並べた蝋燭の上を球が通過し、全てではなく1本ずつ間隔を空けながら炎を消す事を目的とする。しかし結果を出せず焦る飛雄馬・・・その姿を見た丸目はミットを持ち、キャッチャー位なら協力してやってもいいぜと声をかける。丸目に感謝し、必ず完成させると投げ込む飛雄馬。そのひた向きな姿を見た丸目は「本物の男 野球バカ・・・たいしたもんだよ星・・・あんたには負けた」と疲労から捕球出来ずボロボロになりながら認める。そしてついにボールが変化!!複数に分身したボールに驚く丸目。ようやく大リーグボール右1号が誕生した。

飛雄馬は丸目に巨人に入り、俺の球を受けてくれと頼む。二人は花形・左門の待つ「男の戦場」に向かうのだった!

 

全6回の連載はここで終了。コミカライズの宿命とは言え、ここからという所で完結となった。本作を振り返ると飛雄馬自身の描写はイベントを消化するだけで精一杯になっている感があり、説明不足な点も多い。

丸目をメインとする構成は意図的なものかは不明だが、その選択は正解だったのではないか。当時の掲載誌を確認すると、所謂恋愛要素の強い漫画が主流となっており、既に巨人の星の時代ではなくなっていたことが読み取れる。だからこそ、本作も未完であった原作漫画版をベースに物語を完結させたアニメ版と同様に最後まで描き切って欲しかったと思う。

新魔球という盛り上がる要素があるにも関わらず、連載期間と頁数の問題でそれを活かしきれなかった感のある惜しい作品である。