「外伝/コミカライス版」解説
※「新巨人の星」に関連する外伝、コミカライズ版を解説
巨人の星外伝 それからの飛雄馬
●「巨人の星外伝 それからの飛雄馬」
原作:梶原一騎先生
作画:川崎のぼる先生
週刊少年マガジン 1978年02月12日 第7号掲載
「資格が・・・・ある」「あ、あそこまで野球に燃えつきた人には俺たちを許さぬ資格が!」
星飛雄馬が魔球・大リーグボール3号で完全試合を達成しながら、そのマウンド上で左腕もまた完全破壊され、人知れず去ってから3年後・・・
宮崎県の日向三高野球部は練習中にトラブルに巻き込まれたが、サングラス姿の謎の青年に危機を救われる。彼は一体?
舞台は「巨人の星」最終回から3年後。「新巨人の星」第1回は5年後の設定なので、この作品は正編と続編の間のエピソードになる。
当時は週刊読売誌上に「新巨人の星」が連載中だったが、本作は前作の掲載誌である週刊少年マガジンに掲載された。
結果を出せず甲子園で初戦敗退が続いていた宮崎県の日向三高野球部は、飛躍的なレベルの向上により準決勝進出を決めていた。
野球部監督である甲斐は、飛躍のきっかけとなった「あの人」を思い出す・・・・
本作は日向三高の甲斐監督が主人公的な立ち位置で、飛雄馬はそれに協力する謎の男として描かれる。まさしく外伝といった内容。
かつての恋人・日高美奈と出会った地が舞台であり、全編を通してどこか切ない雰囲気の作品。
練習中に敗戦が続く事を地元のチンピラに馬鹿にされた野球部は乱闘騒ぎを起こしてしまう。夢を絶たれることを恐れた甲斐は焦るが、突然現れた謎の男がボートのオールで甲斐の足を叩き折る。
「命のいらない風来坊」と称するその男は代わってチンピラたちを相手にするが、只ならぬ雰囲気に飲まれた彼等は逃走。その場は収まったものの重傷を負った甲斐は怒る。
だが、男は高校野球の監督が乱闘を演じたらどうなるのか?甲子園出場どころか解散に追い込まれるだろうと断言する。納得する甲斐だが、一連の様子を見ていた男は、相手の挑発に乗り乱闘を先導した主力選手三名を除名処分とするよう伝えるのだった。
後日練習中に現れた男は負傷した甲斐に代わり、見事なシート・ノックを見せる。春季キャンプで宮崎に来た川上監督率いる巨人軍と同じ空の下で「出ると負け」が目立つ野球部の特訓は続いた。只者ではない・・・彼は何者なのか?
ここでの飛雄馬は「新巨人の星」序盤や「巨人のサムライ炎」に登場した時のようなクールな雰囲気。(何故かサングラス姿になるとクールになる率高し)
短編ではあるが、ラストの飛雄馬の台詞、退部処分となり、逆恨みから猟銃を飛雄馬に向けた元野球部員たちが、その正体を知り崩れ落ちながら口にした台詞は前作を知る者の胸を打つものがあるのではないか。
掲載誌が異なる関係なのか不明だが、最後まで飛雄馬が素顔を見せる事はない。最後にサングラスを外したコマは後姿で描かれ、周囲に名前を明かす事もなかった。日向三高野球部に自らが鍛え上げた3人の新鋭を残した後、静かに彼は去って行くのだった・・・。
この作品で飛雄馬は優れたコーチとしての一面を見せるが、掲載時期等を考えると、この外伝が後の作品で描かれる「コーチとしての飛雄馬」像のヒントになった可能性があるのではないか?と筆者は推測。
また、宮崎キャンプに来た巨人軍のシーンで「新巨人の星」連載当時のタッチで描かれる川上監督が見れるのは嬉しい。
巨人軍はまだ王者の地位を維持している時期であり、勿論長島も現役選手。後の展開を思わせる台詞、描写等は本作では見られない。
作品タイトル通り、本作はあくまで前作「巨人の星」の外伝である事が分かる。
栄光を掴んだと同時に破滅し、人知れず去った後、巨人軍が屈辱の最下位となるまでの5年の間、飛雄馬は何を思い、何をしていたのか?その答えがここにある。
空白の時期を埋める貴重な外伝作品である。
新巨人の星(コミカライズ版)
●「新巨人の星(コミカライズ版)」
原作:梶原一騎先生/川崎のぼる先生
作画:井上コオ先生
月刊テレビマガジン 1977年10月号~1978年08月号連載
増刊テレビマガジン 1978年01月増刊号/1978年04月増刊号掲載
全11回+番外編2回
本作はアニメ化と同時に連載スタート。梶原一騎先生原作である「侍ジャイアンツ」で知られる井上コオ先生が作画担当となった。
連載期間は放映に合わせる形で約1年。謎の代打屋登場から長島巨人悲願のV1達成までが描かれている。
1話~3話:第1章「泥濘の章」に該当。伴の協力を得て打撃特訓を続ける中、右腕で剛速球を投げられた自分に驚く。
4話~6話:第2章「鳴動の章」に該当。巨人軍のキャンプにテスト生として参加。屈辱に耐える姿が描かれる。
7話~11話:第3章「噴煙の章」に該当。宮崎キャンプから戻り、背番号3を譲り受け、「殺人スクリュー・スピン・スライディング」で活躍。掛布との対決を経てオールスター戦で右投げのベールを脱ぐ。
週刊少年誌より更に下の年齢層を対象とした月刊児童誌の連載で、ページ数も決して多くはないが、その内容は侮るなかれ。原作漫画とアニメの展開をベースにオリジナル要素も加わり、独自の世界観を確立している。また、構成として表記されている城山昇氏はアニメ版の脚本も担当。
本作独自の設定として、飛雄馬は当初名前を伏せて八百屋に居候していた。この八百屋の家族は非常に温かみのあるキャラクターで、特に飛雄馬を慕う少年「マーぼう」はかつての左腕時代飛雄馬の小さな理解者であったター坊を彷彿させる好キャラ。
さすがに読者層の異なる原作漫画版に登場するのは無理があるが、この家族はアニメ版パート2のレギュラーである寿司屋親子の原型とも言える、読者と登場人物を繋ぐ存在である。
純粋に飛雄馬を応援するマーぼうの存在は大きく、巨人軍へ再入団し、宮崎キャンプから帰ってきた飛雄馬が背番号3のユニフォームを真っ先に見せたのはマーぼうであった。
基本的に1話完結のストーリーとなるため、2頁見開きの山場が効果的に使用されており、最大の山場であるオールスター戦での大遠投シーンは原作漫画と同じく見開きで描かれている。
「侍ジャイアンツ」にも言えることだが、井上先生の描く表情豊かなキャラクター達は好印象で、且つ非常に読みやすい。児童誌での連載を担当されたのは最適だったと言えよう。
原作漫画版、アニメ版は大人向けの内容を子供に読ませる(見せる)というギャップに苦しんだ感があるが、読者層を児童に絞ったコミカライズ版はそういった迷いは感じない。原作漫画版で飛雄馬が恋に苦しんだ鷹ノ羽圭子のエピソード等はあり得ない世界観である。
筆者は「新巨人の星」という作品が最も綺麗に終わることのできたタイミングは、(結果論に過ぎないが)飛雄馬の巨人復帰1年目である昭和51年。最下位翌年のリーグ優勝時点だと確信しているが、このコミカライズ版は丁度そこで完結している。原作漫画版、アニメ版、「巨人のサムライ炎」と数パターンある結末の中で、史実に合わせた形で最も綺麗に終わったのがコミカライズ版というのも興味深い。
この作品は過去一度も単行本化されておらず、合本化されたこともない。
現在、オリジナル「巨人の星」「新巨人の星」以外の周辺作品を読むことは困難となっている。このまま埋もれてしまうにはあまりに惜しい作品である。
新巨人の星Ⅱ(コミカライズ版)
「新巨人の星Ⅱ(コミカライズ版)」
原作:梶原一騎先生/川崎のぼる先生
作画:秋月研二先生
月刊少年マガジン 1979年05月号~1979年10月号連載
全6回
本作はアニメ版「新巨人の星Ⅱ」及び「巨人のサムライ炎」と同時期に連載開始。作画は秋月研二先生が担当。
井上コオ先生のコミカライズ版を引き継ぐ内容ではなく、原作漫画版とも異なる独自の世界観である。
掲載誌は前作の児童誌から少年誌となり、やや対象年齢に変化が見られ、物語はアニメ版のオリジナル展開を基に大胆に再構成された。今回はアニメ版脚本を担当した一人である金城芳三氏が構成に参加。「脚本」として表記されている。
本作独自の展開として、宿命のライバルの復活を現役選手である花形、左門が祝福する場面がある。つまり花形は飛雄馬の復活前に球界に復帰している(あるいは元々引退していない)ことになる。
また舞台設定は劇中描写から1979年(昭和54年)である事に驚く。
原作漫画版は1978年(昭和53年)シーズン中に終了しており、アニメ版も明確な描写は無いものの同年と思われる。1979年は既に江川卓が入団しており、巨人は5位に沈んだ年。サムライ炎では飛雄馬が引退した年である。発表されたのが少年誌である為、史実に深く絡んだ描写は無いものの、飛雄馬がカムバックした年が大幅に異なるのは面白い。果たしてどんなドラマがあり、彼は帰ってきたのか?
そして本作の大きな特徴として、この物語の実質的な主人公が飛雄馬の新たなる相棒「丸目 太」であることが挙げられる。
本作の連載期間はアニメ版パート2と同様に半年であり、かつ月刊少年誌掲載であるため、飛雄馬自身の描写は復帰戦からの快進撃の後、左門にフォームの欠陥を見破られ二軍落ちとなり、新大リーグボール開発を決意する・・・とアニメ版の新魔球登場イベントを全6回の中で描く関係上、急ぎ足となってしまった感がある。が、それと同時進行する形で丸目が野球に目覚め、飛雄馬の相棒となるまでのドラマは丁寧に描かれている。
青雲高校レスリング部主将であり、校内で番長として君臨していた丸目の心境の変化は見所の一つで、ある程度野球人として完成されてしまった飛雄馬に代わり物語を引っ張った。
また本作にはオリジナルのヒロイン・上条小百合が登場する。原作漫画版の鷹ノ羽圭子、アニメ版の咲坂洋子と違い、飛雄馬ではなく丸目と絡む役割であったところからも、意図的に彼を物語の中心に持ってきた感がある。
TV放映終了に合わせる形で連載は終了。新魔球が完成し、新たなる相棒を得た飛雄馬は花形、左門の待つグラウンドへ向かう!
まさにこれからという所で終わってしまったのが非常に残念である。丸目の物語としては綺麗に纏まっているが、やはり星・丸目バッテリーとライバルたちとの激闘は読んでみたかったと思う。
本作も未単行本化作品であり、今後、刊行されることを期待したい。