新巨人の星Ⅱ(コミカライズ版)解説
第1話
勝負の世界に過去の栄光などなんのやくにもたたない!
つねにあしたにむかってはしるしかないんだ!!
物語は昭和54年。後楽園球場の巨人阪神戦から始まる。右投手として甦った星飛雄馬は、リリーフとして復帰第一戦のマウンドに立った!
既にツーアウトを取り、最後の打者である掛布も抑えた飛雄馬をスタンドから祝福する花形と左門。同時におそろしい敵が舞い戻って来たことを実感するのだった・・・・。
この冒頭シーンから本作は原作漫画版や井上コオ先生作画のコミカライズ版とも全く異なる設定であることが分かる。星飛雄馬は長島巨人が屈辱の最下位となった昭和50年に再び姿を現し、翌51年に復帰を果たすのではなく、巨人がV3を逃した翌年。江川事件により世間からを非難を浴び、5位に沈んだ昭和54年ペナントレース中に右腕投手として復活するのだ。よって本作では代打時代は存在しなかった事になる。
その第1話はアニメ版パート2の第1話をベースとした物語となった。母校青雲高校の野球部の創立十周年式典に招かれた飛雄馬と伴は、会場に乱入したレスリング部主将である丸目太と出会う。たかがガキの球あそびと笑う丸目は野球部を軽視し、挑発的な行動を繰り返すが飛雄馬は動じず、ならば自分の球を一球でも捕れたら君の勝ちだと勝負を持ちかける。「おれに野球のまねごとをさせようってのか!」と暴れる丸目に対し「真剣勝負だ。こわいかい?」と言い放つ飛雄馬。
プロの球を舐めた丸目は飛雄馬の剛速球を捕球することはできず、腹に直撃され吹っ飛ばされる!ここはアニメ版の印象的なシーンを忠実に再現。しかしボコボコにされながら徐々に様になっていく様子に驚く伴・・・逃げずに立ち向かう丸目は最後の一球をついに捕球出来た瞬間、気を失いその場に倒れ込んだ。
後日、丸目は伴と共に後楽園球場にいた。試合を観戦しながら伴は青雲高校野球部OBとして、丸目に野球をやってみないか?と声をかけるが彼は拒否する。しかし散々痛めつけられた飛雄馬が、実は自分を認めていた事を知り、俺はあいつの球を滅多打ちにしてやる!と一転。果たしてどうなる?
第2話
右投げ転向の星飛雄馬の弱点みぬく左門豊作!!
飛雄馬との出会いから数日が経過。あれから丸目はレスリング部の練習に姿を見せなくなっていた・・・もはや今の高校レスリング界で自分と対等に戦える相手はいない。その自分が星の速球に叩きのめされたという事実が頭から離れずにいたのだ。
一方、飛雄馬との初対決に闘志を燃やす左門は、自宅で飛雄馬の投球を撮影したビデオを見ながら、ある「弱点」に気付く。アニメ版に合わせた流れだが、第1話で巨人に復帰したばかりという本作独自の背景があるだけに、やはり急展開すぎる感はある。また、ここで左門の妻となった京子が登場。原作漫画版同様、本編に深く関わることは無かったものの、やはり前作キャラの登場は嬉しい。
再び場面は変わり、自宅で兄に星飛雄馬とはどんな男なのかと尋ねる丸目。兄は理屈抜きでほれる男だろうと答え、思った事は力いっぱいやれ。人生は一度きりだと励ます。アニメ版同様、弟とは違い出来た人間だった。
そして迎えた巨人大洋戦。復帰後、負け知らずの四連勝の飛雄馬だが、この左門との初対決でカムバックが本物かどうか真価が分かると全力で挑む。が、左門は飛雄馬の球をことごく読み、第一打席、二打席とヒット。そして三打席目で場外ホームランと完膚なきまでに叩きのめされてしまう!好投の中で左門一人に打ち崩されたのは何故か?
その時、長島監督は王選手からある言葉を聞き、降板した飛雄馬に二軍へ行くよう指示する。ショックを受ける飛雄馬。左門の気付いた秘密とは何か?
第3話
二軍おちの宣告をうけた飛雄馬!はたして一軍復帰の秘策をつかめるか!?
本話の主人公は丸目であり、飛雄馬の動向はその背景的に描かれている。飛雄馬は前話で左門一人に打ち込まれ二軍落ちとなるが、本作では復帰から右投手として完成するまでの過程の描写がないため、唐突な印象は否めない。右投手として甦った星飛雄馬は復帰後に即連勝を重ね、あっという間に弱点を見破られ二軍落ちしたことになる。作品タイトルこそアニメ版と同じく「新巨人の星Ⅱ」であるが、その内容は「Ⅱ」にあらず、本作独自の世界観である故に無理が生じているが、何故このような設定変更があったのか?
前作コミカライズ版の掲載された児童誌から月刊少年誌に舞台を移し、パート2とはいえ、あくまでも「新番組のコミカライズ」としての仕切り直しがその理由と思われるが、それを描くには頁数も話数も不足していたのは残念である。
甲子園を目指す青雲高校野球部の紅白試合に乱入した丸目は、エースである高瀬に大口を叩き勝負を挑むが、一球もミートできず無様な姿を晒し、自分が野球の素人であると思い知らされるのだった。本話では丸目の幼馴染である上条小百合が登場。暴走する丸目にも物怖じしないキャラで、馬鹿な行動が目立つ丸目との会話は面白い。
落ち込む丸目を案ずる小百合の前に現れた飛雄馬は、丸目宛に素質はあるものの、その才能を開花させるには相応の努力が必要であると記した手紙を渡す。初めて会った時に彼に何かを感じた飛雄馬は再び青雲高校を訪れていたのだ。その飛雄馬を探し、ようやく見つけた伴は王が気付いた飛雄馬の秘密を伝える。「おれの右の弱点は・・・過去の左投げ!?」
ここは当然原作と同じく球種を読まれる投球フォームの未熟さを指すが、本作単独で見た場合、この台詞が何を意味するのか分かりにくい。過去の左投げが何故弱点なのか?明らかに説明不足で残念である。そして飛雄馬は伴に数日前から考えていたことを明かす。「右・大リーグボール1号」を開発し、必ず一軍に復帰すると。丸目の今後の動向が気になりつつ次回へ続く。
第4話
一軍復帰をかけて大リーグボール完成をめざす星に最大のピンチ襲来!!
本話もメインとなるのは丸目の動向であり、飛雄馬の物語と並行して展開する。
手も足も出なかった青雲高校野球部主将の高瀬と再び戦う為、黙々と練習を続ける丸目。
前回登場した幼馴染である小百合は丸目家の隣に住んでおり、一人練習する姿を見て声をかけるものの、彼の耳には届かない。
「男の意地をかけても、おれはきさまのタマを打ってみせる!」と頭の中は高瀬との対決が全てであった。その彼は今後どう飛雄馬と絡んでくるのか?
一方、多摩川グラウンドで練習中の飛雄馬は、一軍に復帰し、ライバル達に投げ勝つには「大リーグボール右1号」しかない結論に至っていたが、まだヒントを掴めずにいた。前話で明かされた「過去の左投げ」の弱点に関しては、原作漫画版のような投球フォームの改良を目指すのではなく、新魔球での対抗となった。飛雄馬の剛速球を二軍選手では捕球できず、かつての伴のようなパートナーが欲しいと考えるが・・・
後日、丸目は野球部の前に現れた。高瀬に真剣勝負を挑み、高瀬もそれに全力で応える。野球に関しては全くの素人だった丸目は高瀬の球に食い下がり、勝負は着かぬまま二人とも力尽きる。高瀬は丸目の才能と努力を認め、野球部の力になって欲しいと声をかけるのだった・・・。
再び場面は多摩川グラウンドへ。丸目は練習中の飛雄馬に野球部に入ったことを伝え立ち去る。新大リーグボール開発用の捕手は自軍選手では務まらず、丸目を想定していた飛雄馬はどうするのか?
第5話
星飛雄馬と丸目太!
ふたりの男に一大転機が到来!!
野球部へ入部した丸目はその才能を開花させ、青雲高校では飛雄馬と伴以来、実に10年ぶりの大物の登場にわき立っていた。それを報じた新聞を読みながら複雑な表情の飛雄馬。新大リーグボールのヒントは掴めず、ただ時間だけが過ぎていく・・・
そんな時、飛雄馬は偶然「蠅が予想したコースと違う方向に動いた時、一瞬消えたと錯覚すること」に気付く。確か二、三日前にも同じ気持ちになった・・・子供達が紙飛行機をバットで叩こうとしても風圧で紙飛行機がそれを避けてしまったとき、テレビで富士グランプリレースの中継を見ていたとき・・・果たしてこれは何に結び付くのか?
場面は変わり、青雲高校野球部は地区予選ベスト8へ進出。丸目の活躍は続き、大いに注目を集めていた。しかし試合中にかつての不良仲間から執拗に煽られ乱闘騒ぎを起こしてしまう。責任を感じた丸目は退学届を提出し、青雲高校を去ってしまうのだった・・・・
その頃、飛雄馬は富士スピードウェイにいた。伴から話を聞いていたレーシングチームのスタッフは、スピードを出しすぎない事を条件に飛雄馬の頼みを聞き入れ、レーシングカーへの搭乗を許可する。(アニメ版では花形モータースのチームだが、伴との繋がりのあるチームに変更されている)飛雄馬は「空気抵抗」の事を考えながら162キロまで加速。そこで急激にコースを変えレーシングカーはコース外に弾き飛ばされる!慌てるスタッフたち。ここはアニメ版でもそうだが、いきなりレーシングカーに乗って確信犯的にコース外に飛び出すのだから迷惑な話である(笑)
助け起こされた飛雄馬は「大リーグボール右1号が見えてきた・・・」と呟く・・・次回最終回
第6話
さあ ふたりでいこう!左門 花形がまちうける男の戦場グラウンドに
大リーグボール右一号をひっさげて
アニメ版「新巨人の星Ⅱ」は予定通り約半年間の放送を終え、巨人の星シリーズは完結。コミカライズ版である本作も同時期に終了となった。
前回で新大リーグボールのヒントを掴んだ飛雄馬は密かに特訓を開始。板と板の細い隙間をボールが通り抜けるよう投げ込むが、ボールは一向に変化しない。これは何を意味するのかはアニメ版でも明確な台詞では説明されていないが、空気抵抗に関連しボール自体も変形させることを意味する。つまり本作で開発中の魔球は原作漫画版の「蜃気楼の魔球」ではなく、アニメ版の「蜃気楼ボール」であることが分かる。
その練習の場に駆け付けた伴から丸目が退学した事を聞かされ驚く飛雄馬・・・ここで新魔球を捕球出来るのは丸目しかいないと思っていたこと。野球部に入部したため可能性が消えてしまっていたが、実は今でも丸目の力が必要なことを明かすのだった。
長島巨人は低迷が続き、ついにBクラスに転落。新聞に「江川 あいかわらずの一発病!」「巨人五位 投手陣そうくずれ」とあり、本作の舞台が1979年(昭和54年)と分かる(新聞記事のコピーではなく、新たに描かれたものである為、作者のミスではない。)
丸目は野球用具を焼き捨てようとしていた。そこに伴が現れ、本当に良いのかと問いかける。迷う丸目。伴は「男がこれときめたことにすべてをかけるということは どういう事か見てこい!」とメモを渡す。
翌日メモに記された場に向かった丸目は、一人特訓を続ける飛雄馬の姿を見た。縦一列に並べた蝋燭の上を球が通過し、全てではなく1本ずつ間隔を空けながら炎を消す事を目的とする。しかし結果を出せず焦る飛雄馬・・・その姿を見た丸目はミットを持ち、キャッチャー位なら協力してやってもいいぜと声をかける。丸目に感謝し、必ず完成させると投げ込む飛雄馬。そのひた向きな姿を見た丸目は「本物の男 野球バカ・・・たいしたもんだよ星・・・あんたには負けた」と疲労から捕球出来ずボロボロになりながら認める。そしてついにボールが変化!!複数に分身したボールに驚く丸目。ようやく大リーグボール右1号が誕生した。
飛雄馬は丸目に巨人に入り、俺の球を受けてくれと頼む。二人は花形・左門の待つ「男の戦場」に向かうのだった!
全6回の連載はここで終了。コミカライズの宿命とは言え、ここからという所で完結となった。本作を振り返ると飛雄馬自身の描写はイベントを消化するだけで精一杯になっている感があり、説明不足な点も多い。
丸目をメインとする構成は意図的なものかは不明だが、その選択は正解だったのではないか。当時の掲載誌を確認すると、所謂恋愛要素の強い漫画が主流となっており、既に巨人の星の時代ではなくなっていたことが読み取れる。だからこそ、本作も未完であった原作漫画版をベースに物語を完結させたアニメ版と同様に最後まで描き切って欲しかったと思う。
新魔球という盛り上がる要素があるにも関わらず、連載期間と頁数の問題でそれを活かしきれなかった感のある惜しい作品である。