新巨人の星(コミカライズ版)解説


第1話

うわさにきくが名はしれぬ!

なぞのホームランバッター登場!

 

「この物語は、ジャイアンツが長島新かんとくのもと、球団はじめての最下位(びり)になった二年まえの夏からはじまる。」

東京近郊の草野球界に突然現れた凄腕の有料代打屋。彼の正体は一体・・・?

掲載誌は児童誌であるテレビマガジン。原作漫画版とほぼ同じ導入部だが、言葉の置き換え等のアレンジが面白い。

居酒屋のテレビに映るのは大量リードを許し、苦戦する巨人軍。酒を飲みながら涙する飛雄馬・・・ここは原作漫画版では世間から浮いている孤独な姿を言葉ではなく画で読者に理解させ、夜の街に消えて行く印象的なシーンだったが、コミカライズ版では下宿先の八百屋の子供「マーぼう」が迎えに来る。このマーぼうはテレビマガジン読者層とほぼ同年齢の少年であり、本作の大きな特徴でもある。

マーぼうに何故巨人の帽子を被っているのか?と尋ねられ、「むかし巨人軍のエースだった星飛雄馬というピッチャーにもらったんだ」と答えるが、幼いマーぼうは星飛雄馬を知らない。「まだ赤ん坊だったからな」と寂しく笑う姿は、子供のレギュラーキャラを登場させながら、上手く序盤の寂しげな雰囲気を表現している。

後日、八百屋に現われた伴。長年の調査でついに親友の居場所をつきとめた伴は、下宿人の「飛田」なる男は巨人の元エース・星飛雄馬であることと、かつて左腕を破壊し姿を消した経緯を語る。ここは前作の原作漫画版ラストの十字架を背に立ち去る場面も再現されている。伴は彼が一人特訓を続ける山奥へ車を走らせる。

飛雄馬はバッターとして、再び巨人の星を目指そうとしていた。投げることはできなくても、5割の成功率を維持できれば、ピンチヒッター専門でも役に立てると。よみがえれ飛雄馬!

 


第2話

長島かんとく まっててくれ!

 

伴は行方をくらませていた親友・星飛雄馬が低迷する長島巨人の為、密かに特訓を続けていた奥多摩に駆けつけた!

原作漫画版と異なるのは何と言ってもマーぼうも同行している点。本作は花形夫妻が未登場のため、再び野球地獄に踏み入れようとする「業」のドラマは抑えられ、スピーディーに話は進む。

飛雄馬の巨人復帰への熱い思いを知った伴は協力を決意し、マーぼうも「ぼくもついてるよ!」と声をかける。3人で笑いあうシーンは微笑ましい。

井上コオ先生の絵柄も実にマッチしており、同じシチュエーションでありながら飛雄馬の野球への未練や惨めな状況は、巨人復帰を目指し、熱く燃える前向きな描写となっている。これは読者層が児童であることを意識しての変更かと思われるが、コミカライズとして正しい判断だろう。但し、低迷する長島巨人の様子はしっかりと描かれている。

伴の協力により、ついに巨人復帰計画はスタートした。(本作では計画名を「野球人間ドック」とは呼称しない。)密かにプロの二軍投手達を高額で雇い、伴重工業グラウンドで打撃特訓を受ける飛雄馬。この覆面投手団。原作では全員サングラス姿だったが、本作では本当に覆面を被っており、マーぼうが「みんなデストロイヤーみたいだ!」と口にするのが可笑しい。彼等と同じく素性を隠す為、飛雄馬はここで初めてサングラス姿となる。

そしてグラウンドに突然現れた老人・・・「おろかじゃ飛雄馬!」父・一徹が登場し次回へ。

 


第3話

右うでで、あ、あんなに

あんなにはやいたまが、なげられた・・・・

 

第3話はテレビマガジン本誌ではなく別冊付録に収録されており、頁数も多い。内容も力が入っており、いよいよコミカライズ独自の展開が目立ってくる。

父・一徹の言葉を聞き入れず、ひたむきに覆面投手団相手の打撃特訓を続ける飛雄馬。自らの自信の無さから悪夢にうなされ、それに打ち勝つため深夜に部屋で素振りを始めるが、飛雄馬の部屋は2階なので八百屋親子が地震と勘違いして飛び起きてしまうシーンが可笑しい。この八百屋親子は居候である飛雄馬を心から応援しており、それを暖かく見守る姿が微笑ましい。その存在は大きく、本作を語る上で欠かせない存在だろう。

後日、練習中に再び現われた一徹は、何と覆面投手に代わって飛雄馬にボールを投げる。スローボール等を巧みに使い分け、飛雄馬が打ち取られてしまう描写には驚く。

「あきらめろ飛雄馬」・・・そう言い残し、父は立ち去るのだった。

花形の不在や、ビル・サンダー登場前であること、発表誌が月刊誌であること等で、一徹や伴はより行動的になっている印象である。

その後、飛雄馬を励ます為、マーぼうと仲間たちはトレーニング場を作り(ここは子供らしい発想で可愛らしいシーン)、再び奮起し練習に励む飛雄馬は、伴に頼まれ伴重工業の野球チームの試合で代打として打席に立ち、本塁打を放つ。

これで勝負は決したと伴は残りの回でライトの守備を星に任せるが、予想に反し返球出来ない彼に向かって打球が!!走るランナー。しかし左腕は既に・・・

焦る飛雄馬は、咄嗟に「右腕」でボールを投げる。その凄まじい球威は!!

自分の身体に秘められた可能性に驚く飛雄馬。果たしてどうなる?

 


番外編①

飛雄馬をよみがえらせるため、元大リーグのコーチがやってきた!

 

本話は本編の流れに含まれない番外エピソードとなる。第3話とは異なる形で右投げの秘密が明かされるが、本編とほぼ同時期に何故このような形で発表されたのかは不明。

発表誌が本誌ではなく増刊号であり、単発エピソードで完結させる必要性がある為、このような形になったのではないかと推測。

覆面投手団(本編と異なり、マスク姿ではなくサングラス姿)を相手に連日特訓を続ける飛雄馬だが、伴はアメリカから大物打撃コーチであるビッグ・ビル・サンダーを呼び寄せる。

サンダーはお茶目な性格が強調されており、飛雄馬の居候する八百屋で一緒に寝泊まりする。八百屋親子との会話シーンが楽しい。

コミカライズ版には「左門メモ」のエピソードは存在せず、伴の自宅でセ・リーグ一軍投手の投球モーションを撮影したビデオをサンダー自身がメモし、それを再現。飛雄馬のバッティング技術は目に見えて向上していくが、何としても巨人復帰を阻止せんと一徹がサンダーに接触。強打者である阪神・田淵(のコーチ)に魅力を感じたサンダーは飛雄馬のコーチを辞め、打者としての再起は過去の栄光へのプラスには決してならない。新しい人生を歩むべきだと語る・・・・。そのサンダーの言葉から父親の関与を知った飛雄馬は怒りのあまり「右手」でボールを掴み、渾身の力で投げる!

その球威に驚くサンダーと伴。飛雄馬は自らが右利きであり、幼き頃に左利きに矯正された事実を明かすのだった・・・・・元々右利きであることを知っているのは本話のみの設定である。制球力に大きな問題を抱えているため、元々投手復活は考えていなかったという展開には驚く。

しかし、その球威を見たサンダーは阪神との契約を取り下げ、飛雄馬の右投手復活の可能性に賭けることを決意するのだった!

設定変更に関しては賛否が分かれるだろうが、単発の読切エピソードとして読んだ場合、右投げの遠投を山場に持ってきた内容は十分楽しめる。サンダーの好人物ぶりが光る一篇である。

 


第4話

とうとう 大どんでんがえしのひみつに気づきおったか!

 

第3話ラストで自らの右腕が生きている事に気付いた飛雄馬!

代打ではなく、投手として復活出来る可能性に気付いた飛雄馬は、伴と供に一徹の住むアパートへ向かう。

右腕の秘密に気付くことを恐れていた一徹は驚愕。原作漫画版では花形の口から一徹に伝えられ、そこで大どんでん返しの正体を明かす流れなので、本作の飛雄馬と伴が直接一徹に話に行く展開には驚く。登場キャラクターを絞ったことでキャラの行動が整理され、シンプルな流れとなり、対象の読者層にも理解しやすい内容となっている。飛雄馬の巨人復帰を巡る様々な人間模様、特に自らのエゴを剥き出しにする一徹の描写は本作には不要だろう。

左腕を破壊した悲劇を再び繰り返すと言うのかと反対する一徹に対し、心の中で燃え続ける炎を消すことは出来ないと断言し、部屋を飛び出す飛雄馬。

追って来た伴は、直接長島監督に会うのだと車に星を乗せ、多摩川グラウンドへ急行する。久々に見た星の姿に喜ぶ長島監督だが、巨人復帰の意思を伝えると厳しい表情を見せる。来季はパ・リーグより超大物打者である張本を獲得すると。打者としての復帰はないと察した伴は、秘密にしていた右投げを口にする。だが、長島は何も反応しない・・・・

後日、もはや復帰の道は絶たれたかと悲観する飛雄馬の前に、突如現れた王貞治!それを遠くから見つめる長島監督。果たして・・・・?

原作漫画版の重要エピソードに独自のアレンジを加えつつ、物語は次なるステージへ進む。

 


第5話

かくして・・・あらゆるわるいきろくをぬりかえ、ジャイアンツは最下位で昭和五十年はおわった。

 

今回も第3話と同じく別冊付録に収録。本話はテスト生として巨人軍宮崎キャンプに参加する重要エピソードである。

前回、突如現れた王に向かい、全力でボールを投げる飛雄馬。ここで「定まらないコントロールもデッドボールにならなければ武器にもなり得る」と伴の口から語られる。これは本来は一徹の台詞であり、大胆な変更だが、王との対決の中での台詞であり不自然さは感じない。それを見た長島は何も語らず立ち去るのだった・・・。

かくして悪夢の昭和50年は終わり、後日長島から伴へ連絡が来る。「巨人軍の宮崎キャンプに合流せよ」・・・喜ぶ飛雄馬と八百屋一家。しかし伴の表情は固い。テスト生としての自費参加であり、マスコミの好奇の目に晒されるのは間違いないのだ。

覚悟を決め、宮崎キャンプに合流した飛雄馬は予想通りマスコミの格好の餌食となる。惨めな状況に耐える姿は痛々しい。「た、たえろ星・・・・いまこそ男一ぴき  たえねばならん しょうねん場じゃい!!」苦しげな表情の伴。

しかし長島監督が動いた。今しばらく彼をそっとしておいて欲しいと。頭を下げる彼の姿を見て、記者達は持っていたフィルムを破棄するのだった・・・・これは本作独自の展開で、直後「がんばれや・・・」と静かに立ち去る長島監督が非常に格好良い。

そして王始め他の選手達も「もどってこい不死鳥よ!」「ふたたび巨人の星とかがやけ!」と声をかける。涙する飛雄馬・・・。

児童向けにアレンジされているとは言え、やはりヘビーな展開ではあるが、最後にホッとするシーンを持ってくる構成は月刊誌の別冊付録として上手く纏められており、十分評価に値するのではないだろうか。

 


第6話

飛雄馬 あこがれのジャアンツへ入団決定!

 

本話でついに巨人復帰!!連載開始から約半年かけての再入団となった。

ここまでの過程は原作漫画版、アニメ版とも非常に丁寧に描かれているが、本作も月刊児童誌連載という頁数の制限がある中で、やや急ぎ足な点はあるものの、「第三の新巨人の星」として十分読ませる内容となった。

サードに転向する高木を鍛える長島監督。高木の後方には球拾いとしてテスト生(飛雄馬)が。グラブは右手にはめている状況である。右投げは極秘とされ、練習の機会に恵まれない飛雄馬。だが、それを見つめる伴には策があった。長島監督が必ず星を見直す時が来る。その日のための秘密兵器がやって来ると・・・。

そして宮崎空港に到着した飛行機から現れた大柄のアメリカ人。伴と合流し、飛雄馬の前に現われたのは大リーグの大物名コーチであるビッグ・ビル・サンダーであった!

既に番外編①で登場しているサンダーだが、あらためて本編でも登場となった。その目的は原作とは異なり、「殺人スクリュー・スピン・スライディング」の伝授である。数日後の紅白戦までにマスターし、活躍する事で巨人復帰を認めさせようと言うのだ。(よって、サンダーは打撃コーチではない。)

特訓を終え、ついに打席に立った飛雄馬は初球から打ち、そのまま一気に二塁を狙う。序盤からいきなり飛び出す殺人スライディングに巨人ナイン全員が驚愕するのだった!!

ブーイング飛び交う中、続けて三塁で激突した張本が理解を示すシーンは本作独自の描写で面白い。試合後、長島監督に「ユニフォームを着替えて来い」と声をかけられる飛雄馬。そして・・・伴の前に現われたのは栄光の背番号3のユニフォーム姿の親友であった。再び不死鳥は灰の中から甦ったのである。

 


第7話

な、なんとしてもるいにでて、殺人スクリュー・スピン・スライディングをやらなければ、ピンチヒッターとしてのおれのかちはない!

 

宮崎キャンプを終えた巨人軍。羽田空港へ向かう飛行機内の飛雄馬は短髪になり、精悍な印象に変化。巨人軍は長髪を禁じている為だ。それまでは同じ井上コオ先生作画担当である「侍ジャイアンツ」主人公である番場蛮を思わせる長髪だったが、ここで「井上先生の描く星飛雄馬」が完成した感がある。

羽田空港には飛雄馬の到着を待つ伴、サンダー、マーぼうの姿が。「みてくれマーぼう。これを」飛雄馬は背番号3のユニフォームを自分を純粋に応援してくれた小さな理解者に真っ先に見せる。そして、甦った不死鳥は今度は大空に羽ばたかなくてはならない・・・飛雄馬は闘志を燃やし、昭和51年ペナントレースは開幕した!

だが、飛雄馬の出番はなかなか来ない。焦る飛雄馬だが、ライバルたる阪神戦での起用がついに決定。かつて青雲高校時代に、そして左腕投手時代に死闘を繰り広げた甲子園でバッターボックスに立つ!本作に花形満は未登場だが、甲子園決勝で飛雄馬と花形が抱き合い、伴が涙する有名なカットがここで再現されている。是非本作にも登場して欲しかったところだが、舞台である昭和50~51年は花形の球界復帰前であり、花形専務としての暗躍は児童誌に向いているとは言い難く、カットはやむを得ないと言ったところか。

ついに塁に出た「ブラック・ジャガー」飛雄馬は二塁、三塁、そして本塁と連続で殺人スクリュー・スピン・スライディングを使用し1点をもぎ取る!!全編を通してテンションの高い回となった。

 


番外編②

殺人スライディングがつかえない

飛雄馬大ピンチ!

 

番外編第2弾。本話は番外編①と異なり、本編第7話~第8話間に存在すると思われるエピソード。増刊号掲載の為、1話完結で手堅く纏まった好編である。

殺人スクリュー・スピン・スライディングで代打の切り札として活躍する飛雄馬。対阪神戦で外角狙いの初球からいきなりヒットを飛ばし、一気に本塁を狙う!暴走とも言える大胆さだが、確実にアウトとなるタイミングで殺人スライディングを使用し1点をもぎ取る!その活躍を喜ぶ下宿先である八百屋の親子。飛雄馬を慕う一人息子・マサル(マーぼう)は、飛雄馬に少年野球の審判をして貰う事を思いつく。何気ない描写だが、「主人公が自分の身近にいる」のはマーぼうと同じ年齢層である読者を意識したものであるのは間違いない。

そして翌日。飛雄馬の前で出塁したマーぼうは殺人スライディングを真似て怪我をしてしまう。更に偶然居合わせたマスコミに記事にされてしまい、責任を感じる飛雄馬・・・自分を慕い、応援してくれた子供が自分の真似をしたために歩けなくなってしまうかもしれないのだ。

試合でも精彩を欠き、次に気のないバッティングをしたら即二軍行きとなると宣告されてしまうが、長島監督は飛雄馬が自信を取り戻す事を信じているのだった。

そして代打の出番のないまま1ヶ月が経過し、マーぼうのギプスが取れる時が来た。痛みから倒れ込んでしまう姿にショックを受けた飛雄馬はその場から立ち去る・・・だが、医師はマーぼうの努力次第で治ると断言。伴はマーぼうを連れて後を追う。

球場に現われず、野球に別れを告げようとしていた飛雄馬の前で、マーぼうは痛みに耐えながら歩く・・・・再びグラウンドに戻ってもらうために!

場面は変わり、巨人阪神戦。同点のまま九回裏となり、巨人は選手を使いつくし、代打代走が不在のピンチ。そこに現われた飛雄馬。

「一球目からホームスチールをやって、マーぼうにほんものの殺人スライディングをみせてやる!」

マーぼうよ、きっとなおってくれ!飛雄馬は大きく夜空に舞い上がった。まるで不死鳥のように。 

秀逸なラストであり、コミカライズ版ならではの魅力の詰まった回と言えるだろう。

 


第8話

し しんじられません

星が右手でごう速球をなげました!

 

ついに本話で右投げのベールを脱ぐ時が来た!

サンダーの裏切り、殺人スライディングの敗北、そしてオールスター戦での大遠投と、全編が見所満載の回である。あまりにも殺人スライディングの活躍が目立ちすぎてしまい、このままでは本来の目標である右投手復活への道が遠のき、ピンチヒッターで終わってしまうかもしれない・・・そう考えたサンダーは阪神の打撃コーチに就任。その入団記者会見で掛布を育て、殺人スライディングを破ると宣言。驚愕する飛雄馬。果たしてサンダーは自分を裏切ったのか?

場面は変わり、掛布に二つのコマを使って打倒策を説明するサンダー。「回転するコマは後から投じたコマのより勢いある回転で弾き飛ばされる」・・・掛布の特訓描写が少なく、すぐに対決の場面に移行してしまうのは頁数の関係だろうが、少し残念ではある。

もはや対決あるのみ。激突する両雄!サンダー・掛布コンビの前に猛威を奮った殺人スライディングは破れるのだった。

飛雄馬は長島監督にオールスター戦出場辞退を申し出るが、長島監督に却下される。考えがあると・・・

そして迎えたオールスター戦。パ・リーグは三塁にランナーを進め、強打者・門田が打席に立つ。ここでセ・リーグ古葉監督は長島監督の頼みを聞き入れ、返球できない星をライトに。怒る観客。だが飛雄馬は理解した!長島監督は自分に何をさせようとしているのかを。

フライをキャッチした飛雄馬は、ボールを「右手」に持ち替えバックホーム!!恐るべき剛速球が弾丸のようにミットに収まった!

原作漫画版で2頁見開きで描かれた大遠投シーンは、コミカライズ版でも同じく迫力ある見開きで再現された。全編イベントの連続であるため、話を纏めるのに苦労した感があるが、ダイジェスト的内容にならず上手く構成されているのは、アニメ版でも上手く原作エピソードを補完していた脚本・城山昇氏の作品への理解度の高さによるものが大きい。

ついに右投げを披露した飛雄馬。右投手復活の日は近い。

 


第9話

つ ついにおれはジャイアンツのマウンドへ・・・・かえってきた!

 

前回のイベント編を経て、ついに右投手としてカムバックする回である。

全11話で復活は実に第9話。

アニメ版では右投手復活は第34話。「新巨人の星」という作品は、かつての英雄が夢よ再びと巨人軍復帰を目指す試練のドラマであった。これは当時の読者、視聴者が望んでいた展開だろうか?恐らくその答えはNOだろう。しかし、ここまでの時間をかけた丁寧な描写があればこそ、奇跡の復活のカタルシスを生むのだ。それはコミカライズ版である本作も同様だろう。

極秘の特訓は続く。しかしコントロールが一向に定まらない。球威はあっても全くストライクが入らなければ相手はフォアボールを狙ってくる。焦る飛雄馬。

一方、サンダーは掛布に対し「星の投手復活は間違いない」とピッチャーの位置を1m前にずらして打つ特訓を指示する。脅威の剛速球対策だ。

再び場面は戻り、飛雄馬の前に王が現れ、コントロール調整用投法「ノーワインドアップ」を試すよう助言する。この投法と組み合わせる事でカウントを整えれば・・・長島監督は決断する。

 

ついにその時が来た。巨人阪神戦、九回表、ツーアウト満塁のピンチ。

「ジャイアンツ せんしゅのこうたいをおしらせします ピッチャー小林にかわってリリーフ星 背番号3」

右投手・星飛雄馬。ついにマウンドに立つ!

 

打席に立つのは掛布。殺人スライディングを巡るライバル同士の対決が再び実現。そのノーコンぶりと球威に驚く掛布だが、ストライクが来た時に必ず打つと闘志を燃やす。ここで想定外のノーワインドアップの使用に驚くサンダーと掛布。最後は真っ向勝負で打ち取り勝利する飛雄馬。巨人のピンチを救うのだった。

そして九回裏。王の劇的なホームランで試合終了。最後の見せ場を王に持ってくる構成は面白い。掛布を打ち取ったボールをマーぼうにプレゼントする飛雄馬。巨人はV1に向けて前進する!

 


第10話

巨人の優勝めざし 

なげまくる星飛雄馬

 

原作漫画版はオールスター戦の大遠投~右投手復帰戦までが物語のピークとして構成されており、その後の長島巨人軍のV1達成までの描写は意外なほど少ない。これは既に物語の焦点が次に控える阪急との日本シリーズ、そして翌シーズンへの展開に移行しつつあったことを意味する。アニメ版では1話丸々補完エピソードが制作されたが、本話は原作漫画ともアニメとも異なるオリジナルエピソードでV1達成を描いた。

リリーフとしての飛雄馬の活躍は続き、長島巨人は悲願の初優勝を目前としていた。次のヤクルトとの三連戦で一勝すればセ・リーグ制覇となるのだ。しかし、ヤクルト広岡監督の自宅に謎の電話が・・・電話の主は一徹であり、星投手の弱点を密かに伝える。果たしてその内容とは?

そして迎えた三連戦。巨人が2点をリードした七回裏。ヤクルトが1塁にランナーを進めた状態で星が登板した。謎の言葉を信じた広岡監督の指示で打者は初球からバントを狙う。意表を突かれた飛雄馬が一塁に投げた球は大暴投に。ここで「右では守備が全くの素人」である事が露呈してしまう。1点を返され、更にランナー1、2塁のピンチ。強打者・マニエルを前にノースリーとなり、焦る飛雄馬はフォアボールを避ける為に投じた甘い球を打たれ、巨人は敗北!続く2戦も逃し、残るは広島との最終戦のみとなった。

そして九回裏。広島はランナーを3塁に進め、またもや巨人はピンチとなる。もはやリリーフ不在の危機に長島監督はどう動くのか?

そこに泥だらけになった飛雄馬が登場。スクイズを狙ってくる打者に対し、飛雄馬は何と投球直後に突進!スライディングしながら自ら打球をキャッチし危機を脱する!ついに長島巨人は悲願のV1を達成するのだった。

致命的な弱点を乗り越えた飛雄馬の姿を静かに見守り、安堵の涙を流す一徹の姿で本話は終了。原作漫画版で描かれた翌シーズンに露呈する投球フォームで球種を読まれる展開とも異なる守備の未熟さを突いたエピソードであった。次回最終回。

 


第11話

おれとジャイアンツのねんがんは日本シリーズに優勝することだ・・・・

こんどはかならず日本一のざをとってみせる。かならず・・・

 

アニメ版(パート1)放映に合わせて約1年間連載された本作も本話が最終回となる。

舞台は日本シリーズ巨人阪急戦。3勝3敗で迎えた最終戦からスタート。4対2で阪急リードで九回表、阪急の攻撃となる場で飛雄馬がリリーフで登場。前話から少々時間が経過しており、日本シリーズ最終戦、しかも9回表からのスタートには驚く。スタンドには一徹、伴、マーぼうの姿が。

やはりコントロールに難があるためボールを連発する飛雄馬だが、カウントを稼ぐ為のノーワインドアップ投球時を狙い打ちされ、強烈なピッチャー返しに襲われる!その球を思わず「右手」で受けてしまう飛雄馬。かつての左腕投手時代の癖が抜けていない描写はここでも再現されている。

ピッチャー返しの描写は原作漫画やアニメよりもダイレクトで、飛雄馬は続く打球も直撃を受けて倒れこむ。ここは交代するしかないと考える長島監督に対し、飛雄馬はそれを拒否。自分に考えがあると。それを聞いた長島は続投を決める。ノーアウト1、2塁の危機をどう乗り越えるのか?

再び襲ってきた猛打球に対し、飛雄馬は殺人スクリュー・スピン・スライディングでボールを弾き飛ばし、一気にトリプルプレーで阪急打線を抑え込んだ!!

しかし九回裏、巨人は無得点で終わり、昭和51年日本シリーズは阪急が勝利したのだった・・・。敢闘賞に選ばれた飛雄馬。それをスタンドから祝福するマーぼう、伴、静かに見守る一徹。

飛雄馬は日本シリーズを制し、今度こそ巨人を日本一にすることを胸に誓い、闘志を燃やすのだった。

 

月刊テレビ児童誌は常に新番組を優先した構成であり、開始時は大々的に特集を組まれた作品も終了時は記事、連載漫画とも縮小されてしまうことが多い。放送開始時は大々的に特集を組まれた「あの巨人の星の続編」も同様であり、残念ながら特集記事は無く、最終回の頁数も少ない。本作は第1話36頁、第2話~第10話迄は26頁前後、第11話16頁、別冊掲載の番外編①は50頁、番外編②40頁とコミカライズとしては比較的頁数は多い作品である為、ラストも頁数は維持して欲しかったところである。

その影響は顕著であり、日本シリーズ最終戦九回表からスタートする他、全体的に急ぎ足な展開となっており、コミカライズ版の特徴である各話で効果的に使用されていた見開き描写が無いのは残念。序盤に見られた日常シーンは巨人復帰後は当然減ったが、飛雄馬を支えた八百屋夫婦は最後に1カットだけでも登場して欲しかったと思う。一徹、伴とマーぼうが僅かに登場したのは幸いであるが、仮に本話が前話と同じ頁数であれば、もっと試合もドラマも描けたかと思うと惜しい。

しかし原作の要点はしっかりと押さえており、殺人スライディングで阪急打線を封じ、史実通り阪急に敗れたものの、新たなる目標に向けて前を向く飛雄馬の姿で爽やかに物語を締め括っている。

城山昇氏の原作への理解度の高い構成と井上コオ先生の親しみやすい絵柄の本作は、児童を対象としたコミカライズ版として高い水準を維持した作品となった。