「巨人のサムライ炎」解説

 

●「巨人のサムライ炎」

 

原作:梶原一騎先生

作画:影丸譲也先生

週刊読売 1979年05月20日(第21号)~1980年08月17日(第34号)連載

全61回

 

「巨人のサムライ炎」は週刊読売誌上で「新巨人の星」終了から約一ヶ月後に連載開始した「姉妹編」である。

前作最終回において、未完となったことについて原作者自らの釈明文が掲載され、その中で既に本作についての構想が語られている。

 

正当な続編か、所謂歴史のIFかはともかく「新巨人の星」のその後が確認できるという資料的価値一点のみで語られることが多い本作だが、ここでは主人公・水木炎に注目し物語を追ってみる。

 

これまで梶原作品を取り扱った記事等では単独作品として「巨人のサムライ炎」とはどんな作品だったのかは殆ど触れておらず、水木炎とはどんな人物なのかご存知ない方も多いのではないだろうか。

水木炎は一見「侍ジャイアンツ」の主人公・番場蛮や「空手バカ一代」後半を代表するキャラクター・芦原英幸に近い印象だが、過去作品の主人公たちとはまた違う、明るさとダークな一面を併せ持つ多情多感なサムライである。

 

第一次長嶋政権末期と被る本作。現実では巨人軍はリーグ優勝することも出来ず低迷した時期であり、やがて長嶋監督は無念の解任となってしまう。

その厳しい状況の中で連載された「原作・梶原一騎」最後の巨人軍漫画はどのような物語だったのか確認したい。

 


第1章「春雷編

江川問題に騒然の昭和54年春。サムライ水木炎登場!

 

昨季優勝を逃し、江川問題で巨人軍への批判が高まる中、多摩川グラウンドでの江川の投球練習に突如乱入した青年。彼の正体は?

長島監督はフリースカウト・沢田に調査を命じる。

 

新巨人の星の完結編の要素を持った第1章「春雷編」。原作漫画版「新巨人の星」のページでも解説したが、ここでは本来の主人公である水木炎に焦点を当てて解説する。

作品タイトルから「侍ジャイアンツ」主人公の番場蛮と比較されがちな水木炎だが、番場ほど根が純粋な性格ではなくダークな一面も見せる。

掲載誌が週刊読売ということもあるだろうが、第1話から江川の投球練習に突如乱入し、そのボールを打ち返し逃走。理由は友人達との賭け事。つまり金銭目的である。歌舞伎町のディスコ内でしっかり回収している様子は面白い。その彼に興味を持ち、「前歴を洗え」とフリースカウトの沢田修に命じる長島監督。序盤はV3を逃した巨人、江川問題等に触れつつテンポ良く進む。

親友である馬耳念仏朗との会話のシーンも楽しく、水木炎の明るいキャラは他の梶原作品主人公とはまた違った魅力を感じる。炎と接触した沢田は試合中での報復プレーや退部、退学処分を繰り返していたことを知り驚くが、長島監督は「星飛雄馬とは正反対のタイプ」であると、更に調査を続行するよう指示するのだった。

 

連載開始前の原作者のコメントで語られているが、本作の主人公の性格設定には優等生的な雰囲気の巨人軍に荒々しい「サムライ」を導入してみたいという意図がある。それは「侍ジャイアンツ」で既に実現しているが、後の展開から推測するに、巨人軍低迷の時代に少年誌では描けない、より豪快な(ある意味腹黒さも含めた)キャラを新たに描こうとしていたのではないだろうか。

 

そして、沢田から「ある男」と勝負して貰うと聞いた炎はグラウンドへ向かう。サングラス姿のその男に投打とも完敗する炎。男は「巨人の星」星飛雄馬だった・・・それ以来、ディスコで踊っても頭から離れなくなり(照明の光が蜃気楼の魔球に見えてしまうシーンが印象的)我慢ならなくなった炎は馬耳を巻き込んで復讐のため特訓を始める。ここで昨季に花形が蜃気楼の魔球打倒の為に行った特訓方法が登場。この描写で既に魔球の攻略方法は公になっていることが分かる。

それでも劇中の台詞では「天才花形、野球博士左門だからこそ出来た」とあり、原理と攻略法が分かっても簡単に打てるものではないことも語られている。その特訓を稀有のセンスでクリアする炎だが、直後「宿命のライバルに喧嘩を売るのは十年早い」と現れた花形・左門に滅多打ちにされてしまう。

高笑いしながら去る二人の姿は本来のキャラを知っていると少々意外である。(ここは敢えて挑発していると読み取れるが、川崎先生作画では想像し難い描写も存在する。)

 

立て続けにプライドをへし折られた炎は長島監督の意図した通り、ここで真剣に野球に取り組みたいと考えるようになり、沢田にテスト生としてどこかの球団に紹介して欲しいと頭を下げる。巨人軍に拘っていないところが従来の梶原作品にはない描写である。

沢田の指示で、面子を捨てて野球に取り組めるか否かを確認するため、まず女子プロ野球選手との試合に参加する炎。ここでヒロインである風吹梢が登場。この女子プロ野球絡みのエピソード。梢が選手というのもあるが、やたら多いのが不思議だ。巨人が舞台の作品で何故?と思うが、この作品の特徴の一つでもある。

敢えて相手側にハンデを与え、これで負けるようでは命取りの泥を被る状況に自分を追い込んだ上で面子を張り通した炎。

そしてついに長島指令により水木炎の入団テストが行われる。そのテストを担当するのは炎を叩きのめした星飛雄馬だった。

昨季に魔球を破られ、右投手としての限界を知った飛雄馬は敢えて一軍コーチ就任の内示を断り、二軍コーチとして水木炎を待っていた。その無限の可能性に賭けるために。

炎は沢田からその話を聞く。巨人軍入団テストを担当する男が、どんなに一途に自分に懸けてくれているのかを。そして自分に負けてはならないと決意し入団テストに挑む!

炎が沢田から直接聞く場面はないが、自分を叩きのめした相手の選手としての命が尽きようとしていることを知った時の描写は欲しかったと思う。

飛雄馬の執念のテストは凄まじく、沢田はこのままでは星に潰されてしまうと動揺する。しかし炎は耐え、見事テストに合格するのだった。

そして飛雄馬は自らの後継者と認めた炎に「大リーグボール養成ギプス」を託す。この場面は熱い。目に涙を浮かべる炎。

 

こうして「巨人のサムライ」の活躍が始まったのである。

 


第2章「奔流編」

巨人入団!地獄の伊東キャンプ

 

背番号「96」クロー、すなわち苦労して這い上がってこい!

投打二刀流を目指し、青田ジャジャ馬ヘッドコーチの鬼指導に挑む炎。

そんな中、対抗意識を燃やす親友馬耳は広島へ

 

本章から本格的に水木炎に焦点を絞りストーリーが進行する。ここからが所謂「本編」であり、「巨人の星」の登場人物は一切登場しない。前章のラスト、水木炎に星飛雄馬が大リーグボール養成ギプスを託したシーンは一つの区切りであり、「巨人の星・最終回」的な内容だったのは偶然ではないと筆者は考える。

その託されたギプスは本章の序盤のみ登場。黙々と練習を続ける炎が身に着けていたが、残念ながらこのシーンのみで、以降ギプスが登場することはなかった。この作品は「巨人の星の続編」ではなく、あくまで「世界観が微妙にリンクした水木炎の物語」ということなのだろうが、一旦リンクした以上読者はそこに期待してしまうのも事実である。

 

その日暮らしの欲求不満をディスコで晴らしていた炎は、巨人入団後は野球にひたむきに取り組むようになり、本来の明るい性格を取り戻す。「今まで人の三倍ボヤッと生きていた分、他人の三倍の努力が必要」と一軍昇格を目指して特訓を続け、二軍戦でも投打とも活躍する。

背番号96(苦労して這い上がって来い!という長島監督からのメッセージが込められている)を与えられた際に「あんまりでっかい背番号ってのは、なんかこうカッコわるいねぇ」と話すシーンが楽しい。厳しい練習にも音をあげず、飯はしっかり食い、夜は大イビキで寝る。中々の好キャラクターである。

炎は投打どちらも活躍する「史上初の「野球二刀流」の可能性を証明するから巨人軍当局もその方針で可愛がり育ててチョーダイ!」と破天荒な発想で首脳陣を驚かせる。かつて飛雄馬が右投手復活までの繋ぎとして代打で活躍したのとは逆の発想である。

影丸譲也先生のタッチに水木炎のキャラクターは非常にマッチしており、明るさと荒々しさを併せ持ち、時に格好良くもあり、間抜けな面も見せる人間臭い主人公を描くには適任だったと言えるだろう。

 

そんな中で史実通り、巨人が低迷している状況は少ないながら描写されている。(1979年シーズンは5位に終わり、広島が優勝している。)

実力的には炎はまだ二軍で仕込まねばならない段階だが「いまや巨人は火急の秋だ」との長島監督の判断で一軍へ。ここでも変わらず豪快さを見せつけるが、実力者・江夏に翻弄されプロの世界の厳しさを改めて知る。

ここで既に「来季はサムライに名伯楽がつく」という台詞があり、明確な形での今季終了時の描写はなく、広島対近鉄の日本シリーズの様子が僅かに描かれたのみで物語はシーズンオフへ。セ・リーグ5位という厳しい状況を背景に話を盛り上げることは困難だったのではないかと思われる。

 

そして、巨人軍の若手選手を厳しく鍛え上げた事で今も語り継がれる「地獄の伊東キャンプ」でジャジャ馬・青田コーチに徹底的にシゴかれる炎。このキャンプの話は厳しい練習描写の中で野武士・青田コーチとサムライ・水木炎のやり取りが面白く、また同キャンプに参加しているエリート・江川卓との比較が興味深い。どんなシゴキにも軽口を叩きながら耐える炎に青田コーチも驚く。この青田コーチ。彼も影丸先生のタッチと相性ピッタリな魅力的な人物で、レギュラー化していればその後の展開もより面白くなったと思われるが、ここでまた史実の影響を受けてしまい、キャンプの話が終わったと同時に作品から退場してしまうのが非常に残念である。(「青田舌禍事件」により次シーズン前に辞任)

結果論ではあるが、もし即退場してしまった青田コーチの役割が飛雄馬や史実の影響を受けない架空のキャラであれば伊東キャンプ以降の展開が違った可能性がある。果たしてどんな話になったのだろうか?

 

そんな中で親友・馬耳は炎と梢の仲への嫉妬から巨人以外のセ・リーグ球団への入団を熱望。実力に一目置いていた沢田に頼み、テスト生として広島の入団テストを受ける。梢もアメリカの女子プロ野球チームとの対戦が始まり次章へ。

 


第3章「風雪編」

女子プロ野球選手との珍騒動。親友馬耳が掴んだ欠点

 

梢の所属するピンク・ハリケーンズはアメリカン・ドリームスに惨敗。女子プロ野球存続の為だった筈の炎の行動は思わぬトラブルへ発展。そして80年ペナントレース開幕!

 

この章の2/3は女子プロ野球選手との騒動がメインとなる。アメリカから来日したチームに惨敗してしまう日本女子チーム。その存続が危ぶまれ、ヒロインの梢も自信喪失。ここで炎が陰ながら助太刀する展開だが、その内容は「可愛い熊(プリティ・ベアー)」コニーと「恐怖の天使(テリブル・エンジェル)」マギーに偶然を装い近付き、一緒に夜通し飲み明かして翌日の試合の不調を誘うもの。卑怯すぎる(笑)

ここで序盤で見られた踊りのセンスの良さが活きてくるとは。こういった面からも水木炎はストイックなタイプの主人公とは違う独特なキャラクターであった事は間違いない。

野球とは離れた話が暫く続くが、ここを笑って読めるか余計なエピソードと感じるかで印象が全く異なるのではないか。時期的には79年シーズンを終え、秋季キャンプ(前章の地獄の伊東キャンプ)後、翌年春の宮崎キャンプの間の出来事になる。この炎の暗躍?が原因でコニーとマギーは炎を気に入ってしまい、週刊誌を騒がすトラブルに発展。それが原因で無期限謹慎となってしまう。サムライの助太刀と称していたが、これは完全に自業自得(笑)アメリカのチームに惨敗したことが観客動員に響き、女子プロ野球界が衰退していくのを防ぐ意味もあったのだが。

コミカルに描かれているが、少年漫画雑誌の主人公であれば有り得ない行動。掲載誌が週刊読売だからこそのエピソードである。

 

そんな中で馬耳は入団テストを無事クリアし広島に入団。まずはブルペン捕手からのスタートとなった。

女子プロ野球界を巻き込んだ珍騒動はその後も続くが、このままでは炎が今季を棒に振ってしまう結果になりかねない事を心配し、騒動の経緯をマスコミに公開するようコニーとマギーに頭を下げる梢・・・。しかし炎はその梢に対して怒る。女二人に大恥をかかせる位なら、このまま自分が悪役になっておくと。それを知った二人は自分たちの行動を恥じ、彼女らを守ろうとした炎に感謝し帰国するのだった・・・。

長期シリーズであればこういう話もありだと思うが、残念ながら本作の連載期間は約1年。あくまで結果論に過ぎないが、この頁を本筋に使って欲しかったのが筆者の本音である。が、水木炎という人物をある程度掘り下げる事は出来たのではないだろうか。既に番場蛮とは全く異なるキャラクターが確立している点に注目したい。本作が「侍ジャイアンツ」のリメイクである可能性は低いのではないか。

 

そして春の宮崎キャンプが始まり、V奪回に燃える巨人軍。ここにきて投打二刀流が開花し始め、炎は大活躍。

しかし馬耳は炎に投打とも致命的な穴がある事を知っていた。その秘密を広島・古葉監督は開示するよう命じる。だが馬耳は既にブルペン捕手としても使い物にならなくなりつつあり、自らのレギュラー出場枠を確保するために駆け引きに出る。(馬耳は伴とは異なり、秘められた才能が後に開花するといった展開はなく、実質データ要員としての価値しか認められていないのは可哀想に感じる所もある。)この欠点が判明する展開は前作で未熟なフォームから球種を読まれてしまう展開と被ると言わざるを得ないが、次章で本作ならではのユニークな対策が練られ、単純な焼き直しは回避されている。

 

そしてついに80年ペナントレースが開幕。現実にはこのシーズン後、長嶋監督が解任となってしまう年である。本作はV3を逃した翌年79年春の描写からスタートし、80年シーズン途中までが描かれる。まさに巨人の低迷期ド真ん中。かつての絶対王者であった巨人はなく、王道的な話は作れない状況にあった。女子プロ野球絡みの話がメインとなった本章はそういった背景があっての事だろうか?それとも元々予定にあったバラエティ回なのかは不明である。

開幕後も勢いが止まらない炎だが、馬耳のデータが提供された広島打線に滅多打ちとなった所で最終章へ続く。

 


第4章「死闘編」

長島監督の閃いた作戦は?そして怪物ビッグ・Oとの対決!

 

馬耳だけが知る炎の「命取りの穴」によって広島打線に歯が立たない炎。

この危機に長島監督の閃いた対策は?

時代が変わり、巨人も変わりつつある中、ビッグ・Oに狙われたサムライはどう立ち向かうのか。

 

ついに最終章である。が、本作も一応の区切りは着いているものの物語的にはまだまだ続く雰囲気である。

「新巨人の星「新魔球の章」」は最終章になり得る要素を含んではいたが、消化不良の部分があまりに多く、未完と言わざるを得ない唐突なラストであった。

本章「死闘編」は、最終章になり得る要素がそもそも少なく、強敵との対決回がたまたま最終章になってしまった感がある。終了に至る経緯については「新巨人の星」以上に情報が少ない。

 

馬耳の知る弱点によって広島打線に歯が立たない炎。女子プロ野球選手との騒動後、今までの鬱憤を晴らすようにオープン戦、ペナントレースと大活躍だったサムライ水木炎だが、ここで快進撃がストップ。

史実の巨人はオープン戦で快勝が続き、ペナントレース開幕後徐々に失速となるのだが、この流れに合わせて炎の活躍が描かれる。

 

そんな中で対ヤクルト、大洋戦のシーンがあるが、ヤクルトの背番号3は花形ではなく、大洋戦に左門は登場しなかった。意図して描いた可能性は低いが、もし本作が「新巨人の星」の「続編」であれば重要な事であり(花形は飛雄馬引退後に実業界に戻った事になる。)やはり巨人の星キャラは番外的な登場であった可能性が高い。

 

 長年の付き合いから炎の投打の癖を知る馬耳に対し、長島監督のカンピューターが導きだした作戦はフォームの改善……ではなくブカブカのユニフォームで出場する事だった(笑)ここは本作らしい面白い展開で、ユニフォームに浮き出る筋肉の動きを長年の付き合いから読み取っていた馬耳のデータは役に立たず敗北!長島監督と炎は気が合うようで、ノリの良い会話シーンが頻繁にある。

そして最後のエピソードとなるビッグ・Oとの対決となる。作中時期は1980年オールスター戦前。

この年、巨人は昨年に続き成績は低迷。そしてペナントレース終了後に長嶋監督は無念の解任。世界の王は引退となる。これまでも直接的ではないにせよ、第一次長嶋政権末期の様子は作中でも描かれていたが、ここで前章の珍騒動に続き史実に極力影響されない展開となった。「恐怖の天使」マギーの弟である「怪物」ビッグ・Oは炎への復讐に燃え中日に入団するが、その復讐に燃える動機が「姉がホノオ・ミズキに振られて恥をかかされたから」というのはズッコケる。但し実力は本物であり他球団の驚異となるのだった。

彼は百発百中のピッチャー返しで炎を狙うが、この展開はロメオ・南条が飛雄馬を狙った展開と被る。先のフォームを見抜かれた話といい、前作と似た展開が続いたのは残念ではあるが、主人公の明るい性格故か重さは感じず、その危機を打破する為の行動も全く異なるものであった。

長島監督がビッグ・O対策として試合外の理由で日本球界からシャットアウトしようと考える姿は中々えげつない(ギャグ要素の強いシーンだが必見)

そして迎えた中日戦。堀内投手の相手を恐れぬ巨人魂を見た炎はついにビッグ・Oと対決。猛烈なピッチャー返しを小細工を弄せず正面から受け止める!その姿に長島監督他巨人軍一同は涙するのだった・・・。

ホノオ・ミズキとの対決を経てビッグ・Oは自らの過ちを認め謝罪。炎は笑って水に流す。

「巨人の星」を目指し、サムライの挑戦はこれからも続く!!

 

80年ペナントレース前半で物語は終了。ビッグ・Oは強打者ではあるが、ライバルと呼ぶには登場期間も短く、単発登場のゲストと思った方が良いだろう。

そのビッグ・Oとの対決で本作は終了となった。その後成績が落ち込む巨人と長嶋監督解任劇は当然触れていない。

(解任が報じられたのは1980年10月21日。本作の終了は同年8月17日号(発売日8月6日)である。)

残念ながら読者の支持を得ることができず連載終了となったのか、ついに浮上することなく後に監督解任となる史実に合わせた展開が不可能と判断した為か、あるいは原作者が連載開始前に語った「この新作が万一「巨人の星」より見劣りそうな作品になるなら私は筆を執らぬ」の言葉通りなのか気になるところだ。

水木炎自身は低迷する巨人の中でも一人明るく、その明るさに長島監督も引っ張られるが、史実では江川問題、成績不振、青田舌禍事件とトラブルが続き、それらを回避するためか少々横道に逸れた展開となったのは残念だ。むしろ真正面からこの問題を描いていたら非常に面白かったと思うが、それは現在の視点で言える結果論。この作品の掲載誌は週刊読売であり、巨人軍を扱う漫画として表現の限界もあるだろう。

 

梶原一騎先生原作の野球をテーマとした作品では最後期の本作。魔球、ライバルは既に過去のものとなっていたことも作品内容から感じる。

結果的に第1章が盛り上がったことで、それ以上の山場を作れなかった感があるのが残念だが、長島巨人の終焉までを何とか描ききって欲しかったと思う。

あと少しだけ連載が続いていれば……と惜しい気持ちになる作品である。